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33話目 精霊使いVS異能使い

 アンディはまっすぐ訓練施設へ。ケリーは店を一件一件見て回っていた。


「クソッ、どこにもいねぇ!」


 訓練施設はもぬけの殻だった。訓練場、食堂、と見て周り、最後に中庭を見る。


「居た!」


 たった一人、訓練を続けている姿があった。


「なんだ、俺らと同じ訓練所出身か」


 傭兵の服と、ガンダーラの兵士と少年兵の軍服は違う。

 傭兵はモスグリーンの迷彩柄が基本。あとはフリースタイル。

 ガンダーラの兵士は黄土色の迷彩柄。少年兵は青の迷彩と区別されている。


「なああんた、教官たち知らないか!?」


 拳が虚空を突き、動きは止まる。すぅ、と呼吸を整えてから、彼女はアンディのほうを向いた。


「あの人たちならもう飲みに行っちゃったけど? あなたは?」

「マジかよ……俺はアンディ。見ての通りあんたと同じ少年兵さ。どこに行ったとかは聞いてないか?」

「聞いてない。何かあった?」

「ユートピアの奴らが来たんだ。得体の知れない奴が三人、トラックで……」

「案内して」


 少女は何気なく、唐突に言った。


「あ、案内してって……あんた一人が行ったってどうにも……」

「じゃああなたは引き続き傭兵を探して。私に場所だけ教えてくれればそれでいいわ」


 鋭い眼光がアンディを捉える。その視線と圧迫感に耐えかねて、アンディは場所を口にしていた。


「ば、場所はここから西北西にある検問所だが……お、おい、本当に一人で行く気か!」


 少女がアンディの横を通り過ぎる。ふと立ち止まり、振り返る。


「私がそいつらを殺すのが先か、あなたがこっちに援軍を寄越すのが先か。それだけのことよ。あと私の名前はサリマよ」

「サリマ……分かった。分かったからちょっと待てって、おい! サリマ!」


 サリマはアンディの声を無視して中庭から立ち去る。


「クソっ、傭兵探すのを手伝えよ!」


 アンディは唾を吐いて、再び走り出す。




 雑踏を走り抜けていると、ドンッ、とケリーは人とぶつかってしまった。

 体は弾かれ、地面に尻餅をつく。


「あいたた……ご、ごめんなさい!」

「ああ、いや、そっちこそ大丈夫か? 随分慌ててるな。どうかしたのか?」

「あ、ありがとう。いや、実は……」


 ケリーは差し出してくれた手を遠慮なく掴み、起き上がらせてもらう。


「傭兵、傭兵を探しているの。あなた、見かけてない?」

「傭兵? いや……セレナ、見たか?」

「い、いえ、傭兵さんは見てないですね……」

「そうですか……見つけたら教えてください!」

「どうしたんだよ、そんなに慌てて」

「そ、それは……」


 ケリーは説明を躊躇った。一般市民に敵が来たと知られれば街はパニックになる。

 ここは適当にあしらうべきだと判断した。


「き、機密事項なので」

「何か困ってるなら協力するぞ。一応、こっちのボスがここの英雄だからな」

「へっ?」


 ガンダーラを救った英雄。ということは……


「ガンダーラの英雄で結城って知らないか?」


 結城。ガンダーラを救った英雄たちの筆頭。囮を使って内部に潜入し、様々な情報をユートピア軍から抜き出し、そのボスも自らの策略で部下に討たせ、手柄を上げさせたと聞いている。

 そんな天才的な頭脳と圧倒的な能力を持つ英雄である結城の仲間。この緊急事態に出会えたことが、あまりにも幸運だ。


「じ、実は、ユートピアから新たな敵が襲来したんです!」

「なっ……場所はどこだ?」

「ここから西北西に位置する検問所です。数は少ないですが、きっと只者じゃない……今は仲間が食い止めていますが」


 その話を聞いて、竜人は内心かなり焦っていた。

 自分は竜騎士とはいえ、戦闘は出来ない。出来るのは飛竜を操縦するだけだ。

 そしてセレナも戦闘が得意な魔法使いというわけではない。


「竜人さん、結城さんたちを呼んできてもらっていいですか?」


 ふと、セレナが言う。竜人は驚きながらセレナを見る。


「なっ、お前はどうするんだよ」

「私は、皆さんが来るまで時間を稼ぎます」




 そしてセレナはここに居る。竜人は飛竜に飛び乗り結城たちを探している。


(ど、どど、どうしよう……)


 義務感と使命感、そして勢いで来てしまったが、今になってどうしようもなく不安がこみ上げてくる。

 しかし一人ではない。自分には精霊が付いている。

 そう考え、勇気を振り絞って、言った。


「か、帰ってください」

「……ハァ?」

「痛い思いは、したくない、ですよね……?」

「ケヒャヒャ!! オマエ、オレを傷つけられると思ってるのか? いいだろう。格の違いって奴を教えてやるよ!」


 フレイムタンの手の平に猛火が宿る。


「消し炭にしてやるよォ!!」


 手の平をセレナの方に向けた次の瞬間、膨大な火炎が無尽蔵に噴出された。

 圧倒的な炎がセレナの体を包み込む。


「ヒャッハ! 燃えろ燃えろ! 燃え尽きろ!」


 全てを焼き尽くす猛火。セレナの肉体が灰になってもおかしくない量の火が、唐突に吹き飛ばされる。


「なっ!?」


 炎が煽られていた。徐々に炎は何かに圧され、逸らされる。

 次の瞬間、暴風が炎を切り裂いた。


「ぬぅ! クソがぁ!」


 視界が自らの炎で遮られる。挙句、自分が炎に包まれる。


「風まで使えるのか……だがオレには炎は効かないぞ!」

「……なら!」


 セレナが念じると、一点に集中された突風が、炎の幕に穴を開けた。


「風よ、熱を奪って!」


 セレナが叫ぶ。風が炎の穴から流れ込みフレイムタンの体を吹き付ける。


「ふん、こんな温い風が……がっ?」


 徐々に鳥肌が立ちはじめ、末端が氷のように冷たくなる。やがて手足が震えだし、体全体が凍え震えるほどに寒気を感じ始めた。


「さ、寒い!寒い!!」


 空気や風はまったく冷たくない。ただ、強制的に体温を下げられているような。

 病を患ったときのような悪寒と、解熱剤を大量に服用したような凍えが襲う。


「くっ、だが、この程度でオレの熱は止められない! ウオォオオオ!!!」


 どっしりと構え、体全体に力を入れる。フレイムタンの周囲の空気が、その熱によって景色を歪ませ始めた。


「オレの炎は、誰にも消せない!」


 フレイムタンの体が炎に包まれ、周囲の砂地にも炎が走る。

「ファイアーウォール!!」


 両手を広げ叫ぶと、彼を中心にして巨大な火柱が立ち、広がる。

 巨大な炎の壁が出来上がった。そしてそれはフレイムタンの歩みとともに徐々に迫っていく。

 まるで津波。炎の大津波。

 その圧倒的な見た目に、さすがのセレナも怖気づいてしまい、尻餅をついた。


「あ、ああ……」


 あまりの光景に、思考が止まる。どうしようもないという絶望が全てを押しつぶす。魔法に必要な想像イメージも、精霊とのコミュニケーションもままならない。

 胸元で必死に呼びかけるアクアの声にも気付かない。

 

「ひ、ひぅっ!」


 巨大な炎の壁はすぐそこまで迫っていた。観念したように、セレナは瞳を閉じる。


「諦めるな!」

「ふ、ふえぇ!?」


 声と共に、セレナの体は持ち上げられる。

 気が付くと、セレナは誰かに背負われていた。


「あんた、コレどうにかできないのか!」


 張りのある少女の声だった。体は彼女が走るたびに揺さぶられ、彼女の肩がセレナの腹部に食い込んでとても苦しい。


「おい聞いてるのか!」

「え、あ、はい!」


 セレナは改めて、眼前に迫る炎の壁を見る。

 どう見ても魔力は通っていない。魔法の類ではない。

 しかし、相手の意思に従うように、炎はその形を自由自在に変化させている。

 あの猛火に対抗するには、この場所は不利すぎる。精霊が力を行使するには、場所がかなり重要になってくる。


「水、水が大量にある場所なら……」

「水……川だ。近くに川がある!」


 ガンダーラに流れ込む、巨大な川。

 かつて結城たちが不時着し、ガンダーラまで漂流するのに使った川だ。


「このまま川まで連れていく!」

「で、でもここを離れたら……」

「今は目の前の敵をなんとかするのが最優先だ。行くぞ!」


 少女は走る方向を東に変える。するとフレイムタンが反応した。


「逃げるな! ちゃんと戦えっ!」


 フレイムタンが二人を追うために方向を変えると、炎の壁も軌道が変わる。

 そして三人は街とは明後日の方向へと行ってしまった。


「……さて」


 残されたのは、ウィルソン含む傭兵たちと、二人の敵とトラック一台。

 次に前に出たのは、化物じみた巨躯を持つ大男。


「やるか」


 至極冷静に、ウィルソンは銃を構える。


「お、おい、本当にやるのか?」

「本当にって、そのための俺たちだろう」

「でも見たろ、あの赤い奴の!」

「あーだこーだ言ってるな。どっちにしろ、ここでやらなきゃいずれ殺される」

「…………」


 大男がその恐るべき豪腕を振り上げる。


「なら、やるしかないだろ」


 拳が砂地を討ちつける。大量の砂塵が巻き上がり、その巨体も、トラックも見えなくなる。


「来るぞ! 撃てッ!」


 広大な砂地、銃声がけたたましく響いた。




「あ、あの、お名前は……」

「私はサリマ。ガンダーラの兵士だ。あなたは?」

「私は、セレナ。セレナ・アクエリアスです。一応、精霊使いをしてます」

「精霊使い……シャーマンみたいなものか。まあいい。とりあえず、あの化物を倒そう」


 後方から追ってくるフレイムタン。移動はそこまで速くはない。むしろセレナを背負いながら走るサリマが速すぎる。


「水があれば本当にあいつを倒せるのか?」

「負けることは無い、と思います……」

「……まあ、今はあなたにかけるしかない。よろしく頼む」

「こ、こちらこそ」


 遠くに川が見え始める。やはり訓練はしておくものだと、サリマは日ごろの自分に感謝した。




 銃声が一つ、二つと止んでいく。その意味するところを、ウィルソンは理解することを無意識に拒否していた。

 やがて、静寂と砂塵だけが残り、砂塵もまた徐々に晴れていく。


「……クソッ」


 心の中でついた悪態を、知らずに口にしていた。周囲に転がる人間だったもの、人体はいたるところに転がっていた。

 そして、眼前に立ちはだかる巨漢。

 あの銃弾をすべて掻い潜ったのか、否。その身には少なからず銃創があった。

 微かに血がにじむ程度に、銃弾は皮膚にめり込んでいた。ただそれだけだった。


「化物か」


 諦観の混じる苦笑を浮かべながら、巨漢を見上げる。巨漢はその大きな拳を振り上げていた。

 次の一瞬で、確実に自分の体は周囲のミンチと混ざり合うだろう。


「間に合ったぜ!」


 ウィルソンはその時、救いの女神の声かと思った。

 そしてふと気が付けば、眼前には巨漢の姿はなく、代わりに自分より少し背の高い緑髪の人間の姿。


「よく生き残ったな。偉いぜ!」


 振り返るその人はこちらを振り返ると、女性であることが分かった。


「私は蓮華だ。お前は?」

「あっ、ウィル、ソンだ」

「ウィルソン? そうか。偉いぞ。よく戦ったな」


 少年の頭を、わしゃわしゃと蓮華の手が撫でた。幾分乱暴だが、妙に安心感を与える手の平だった。

 それゆえに、この乙女が強いと確信した。


「バトンタッチだ。ウィルソンはちょっと下がっててくれ」

「れ、蓮華と言ったか。どうしてあんたは、ここに?」

「へへっ、強い奴の匂いには敏感なんでな!」


 ぐっと拳を握り、敵を見る。巨漢は10メートルほど先でゆっくりと立ち上がっていた。


「あー、でもそんなでもないな」


 そんなでもない。その言葉の意味をウィルソンが理解するのは、もう間もない。


「それじゃあ、とっとと終わらせるか!」


 拳を握る蓮華。振り下ろされる拳に、自らの拳で真っ向から迎え撃つ。

 硬い物同士がぶつかり合う音。小さな拳が大きな拳を打っ飛ばした。


「頑丈だな!」


 そのまま流れるように前進。右肘が巨漢の腹部を射ち抜いた。


「ゴフッ……」


 巨漢は怯むことなくその手で蓮華の体を掴む。


「おおっ!」


 そのまま大きく振りかぶり。ガンダーラのほうへ勢いよく放り投げた。


「そんなんじゃ振り払えないぜ!」


 蓮華の右手はしっかりと巨漢の人差し指を鷲掴んでいた。

 遠心力で体が宙に浮いたと共に手を離し、巨漢の真上に来る。


「必殺、名剣宝刀!」


 落下しながら、蓮華の手刀が脳天に命中した。

 落下中に技を放った蓮華の体が、再び浮き上がるほどの威力。

 反動でそのまま後ろに回転しながら曲芸のように着地した。


「グオッ……」


 巨体が揺らぎ、呆気なく砂地に崩れ落ちた。


「へっ、ちょっと手応えが無かったな」




 なんとか水辺にまで辿り着いたセレナとサリマの二人。押し迫る炎の壁と再び対峙する。


「本当にコレで勝てるのか?」

「負けはしない、と思います」


 セレナにはローラのような化物じみた魔力と技能はない。魔耶のような優れた多彩さもない。

 セレナが持ちうるのは、唯一つ。精霊との絆。その一点のみ。


(思いの強さが、力になるなら、理想の力が強さになるなら、私だって!)


 炎を身に纏う彼の理想がどんなものかは分からない。それでも、自分の理想が他者に負けるなんて思いたくない。


「今ここに! セレナ・アクエリアスは、精霊との絆を示します!」


 川の水が大きくその流れを変える。法則は彼女の魔力と精霊の意思によって捻じ曲げられ、独自に形を成す。

 それは水の精霊の姿。水の肉体、水の四肢、水の骨に水の肉、水の皮膚。そして澄んだ瞳と麗しい美貌。

 水の精霊、ウンディーネ。

 ふと足元には水の身体の蛇がひしめき合い、周囲は水の身体の馬が囲っていた。


「そ、それはなんだ」

「この子達は、精霊が作った水の人形。数多くの水精、幻獣を象った小さな水の精の集りです」


 フレイムタンはこちらを睨みつけている。


「水があればオレに勝てると思ったか! 焼け石に水だってことを教えてやる」


 巨大な炎の壁が迫り来る。水の人形はそれに対抗して水精の軍勢の波として突撃する。

 水と炎が入り混じり、白い蒸気が広がり、獣の悲鳴が響き渡る。


「フハハ! 蹂躙!焦土!獄炎と業火に悶え苦しめ!」


 炎が次々と水を飲み込んでいく。大火にいくら水をかけようとも、その勢いを止めることはできないように。


「壁は止まったが……」


 炎の壁はその動きを止めていた。しかし拮抗するばかりで、その勢いは一向に衰える気配が無い。


「私には、こんなことしか出来ないが!」


 サリマは持ってきた拳銃で乱射する。銃弾は炎を突き破るが、通り抜ける頃には液状に溶け、勢いも失って地面に落ちるばかり。


「クッ、やっぱり、私程度ではユートピアの奴らとは戦えないのか……」


「えっと、サリマさん?」

「悪い。私じゃこいつは……」

「私が穴を作ります。そこから敵を狙えますか?」


「ここから、敵を……」


 距離は決して近くは無い。だが、この拮抗状態を自分の力で崩せるならば……

 訓練に明け暮れた自分を信じ、サリマは頷いた。


「任せて」


 銃を横に振ってマガジンを投げ捨て、腰のホルダーから新たなマガジンを取り出し、装填する。


「アクア、お願いです!」


 セレナの胸元、小さな水の妖精が頷いた。

 アクアが何かを唱えると、セレナの足元にいる一匹の蛇が氷結し、一本の刃となった。


 だが、不意に一匹の水の蛇が壁を抜けた。


「な、なにっ!?」


 その小さな穴が、徐々に広がっていく。

 大量の水蛇がなだれ込み、やがて馬もこじ開けてくる。


「チッ、だがそんなんじゃ足りねェ!」


 左手に大きな火球を生み出し、振りかぶる。


「サリマさん!」

「分かってる!」


 燃え盛る炎が敵の姿を歪ませる。


「迷ってる場合じゃない……ったれ!」


 発砲。銃弾は水流と炎の隙間を掻い潜り、フレイムタンを襲う。


「つぅッ!?」


 弾丸はその頬にかすり傷を一つ作るのみだった。

 だがそれで充分のようだった。

 左手の火球は形がブレ、炎の壁も一瞬大きく揺らめいたと思えば、大量の水がそれを鎮めていく。


「クソ!クソッ……嘘だろ!? なんだよこれ!」

「確かに、火と水は相反し、より力と量の多い方が、少ない方を消し去ります」


 火は水で消せるが、水もまた火の熱によって消し去られる。二つは相対する等価値の存在なのだ。


「フレイムタン、あなたが今相手にしているのは、この大きな川と、その大元の水源。そしてこの先の広大な海です。その膨大な量の水があれば、どんな炎だって消しきることができます」

「馬鹿な……オレの火が、こんな、負けるわけがないッ!」


 炎の壁が消えうせると、水の軍勢が一斉に襲い掛かる。

 フレイムタンは両手を合わせ、その間の空間に持ちうる全力の火炎を集中させる。


「猛火圧縮……爆裂突貫バーニングショット!」


 一転に集中させた炎の一閃が水の軍勢を掻き分けていく。

 しかし、勢いは見る見る衰え、最終的には飲まれた。


「そ、そんな……うわーっ!!」


 そして迫り来る大波。フレイムタンは飲み込まれた。



 向こうの方で立っていた火柱が失せた。勝負が付いたのだろう。

 残りは一人。とはいえ、特に強そうには見えない少女だ。


「で、どうするんだ?」


 蓮華が問うのは、不健康そうな少女。


「そういえばさっきの奴の名前聞きそびれたな」


 巨漢は砂地の上で崩れ落ちたままだ。

 すると、少女が口を開いた。


「彼は、異能者イレギュラー。コードは暴君タイラント。私は異能者イレギュラー。コードは念動力サイコ

「イレギュラ? サイコ?」


 聞きなれない単語の連発で蓮華の頭は混乱する。サイコは構わず話を続ける。


「あなたも《異能》を持っているの?」

「私は地上最強っていう理想の力しか持ってないぜ?」

「……そう、なの」


 サイコは踵を返し、トラックに戻る。


「えっ、帰るのか?」

「あなたには、勝てそうに無い。だから……直接街を潰す」


 トラックの近くで止まり、再びガンダーラの方を向いた。

 緩やかに、手を這わせるように手を上げる。

 それが、同じように、しかし先ほどよりも遅い動きで、実にゆっくり下ろされていく。


「なにを……」


 その時、後方で、街の方で何かが崩れる音がした。

 振り返ると、検問所の建物が崩れていた。


「なっ……!?」


 さすがの蓮華も驚く。動作一つで、建物が倒壊した。と思えば、その次の奥の建物に見る見るうちに皹が入り、音を立てて砕け崩れていく。


「お、おい! なにやってるんだ!?」

「テレキネシス……サイコキネシス?」


 本人もいまいち理解していないようだった。とにかく念力に近いものらしい。


「ま、待て、早まるな!」

「…………なに?」

「あそこには私の大切な友達がいるんだ。やめてくれないか?」

「友達……? でも、任務……」

「頼むよ。そんなに大切な任務なのか? 脅されてやらされてるなら私がなんとかしてやるぜ? お金がないのか? それともそれとも、うーん……なんでこんなことするんだ?」

「……何で?」


 手が止まる。そして、目を伏せて考える。


「私は……なんで……とも、だ、がっ、ぐぅ……」


 サイコは唐突に襲う頭痛に頭を抱えた。




 『君が友達と再会するためには、より実戦向きの力が必要だ。僕がその力を与えてあげよう!』


 友から貰った力を提供し、更なる力を得ることが出来た。これで、かつて別れた友達を探しにいけると歓喜して。

 多くの薬物、多くの刺激、多くの苦痛が伴った。

 それでも尚、愛すべき友と会いたかった。

 この鉄の檻を抜け出して、広い世界を彼女と共に見てみたかった。

 あの時伸ばしてくれた彼女の手を、取りたかった。




「そう、私は、友達を、探さなきゃ……」

「友達?」

「どうして、名前が出てこないの……?」


 名前どころか、姿さえもおぼろげで、どうしても思い出せない。


「なんで、なんでよぉ……なんで思い出せないのよッ!!」


 瞬間、トラックが一瞬にして吹き飛び、すぐに蓮華にもその力が加わった。


「うぐぁ!?」


 目に見えない力で身構えることも出来ずに吹き飛ばされ、しかし地面になんとか足をついた。


「お、おい! 大丈夫か?」

「思い出せない……思い出してよッ……」


 搾り出すような声の後に、地面を大きく抉る衝撃が彼女の足元で起こった。


「くっ、これなんかヤバイぜ」


 大量の砂を被りながら、蓮華はサイコを見る。

 彼女は足元に巨大なクレーターを作り、滞空していた。


「怖いよ……どうして思い出せないの? 助けて……助けてよ、あの時みたいに……助けてよぉっ!」

「懐かしい香りがすると思って来てみれば……」


 その声に、はっ、と顔を上げる。記憶を刺激するその声の主を探す。

 その人物は、蓮華の横を通り過ぎた。


「お、お前はっ!」

「涙を流す美少女あれば、颯爽と来る銀の風。色鮮やかな彩りで、貴女の笑顔を取り戻そう」


 謳いながら、その乙女はクレーターの淵に立った。


「私は<変態パーヴァート>・さい銀風ぎんふう!」

「ぎん、ふ……」


 右手を真っ直ぐに構え、しなやかに指先を伸ばす。左腕は口元を隠すようにL字に曲げて横に向け、ポーズをキメた。

 そしてスッと元に戻り、久しい友人に対する笑みで迎えた。


「久しぶりだな、<くろ淫夢ナイトメア>」


 銀風と淫夢。ユートピアでの戦友が再会を果たしたの場所は、戦場だった。

 



 淫夢の念力はパーヴァート由来のものであった。

 故に、銀風はその力を容易く圧倒した。

 クレーターの内側に手を突っ込み、かかる力を強引に引き裂き、道を作る。

 すると黒の淫夢はふと落下し、クレーターの中央にゆっくりと着地した。


「ほ、本物の、銀風……?」

「ふふっ、お前の友達にこんな凛々しい美少女がほかに居たかい?」

「あ、ああっ、わ、私、謝らないと、力のこと……ごめ、いやっ! 許して!!」


 逃避の願望から来る拒絶の意思が、攻撃となって銀風に襲い掛かる。

 だが銀風はそれをひらりとかわした。

 見えないはずの念力の干渉。しかし銀風は次々に避け、確実に淫夢に近づいていく。

 パーヴァートは干渉力を視界に捉えられるので、本来は目に映らない念動力も目視でき、回避も容易だった。

 そして後一歩で手が届くというところ。


「まったく。そんなに私に会いたかったのか?」

「っ!!」


 淫夢の体がビクンと大きく跳ねる。

 全方位攻撃を放った淫夢だったが、銀風は干渉力の壁を容易く片手で受け止め、力の壁を消滅させた。

 そして、跪く淫夢を見下ろす。


「ふふ、錬度が違うんだよ、錬度が……会いたかったよ、淫夢」


 銀風もまた跪き、同じ高さになって、淫夢の身体を抱きしめた。


「ぎ、銀風……ぎぃ、んふぅっ……うわぁあん!!」


 こうして、ユートピアの刺客は全員撃破でき、ガンダーラは初めての防衛戦を凌いだ。

 ちなみに、後日トラックを調べると、そこには映像記録する機械と、発信する機械が積まれているのみで、運転手も居ない自動操縦だった。





「ハハハ! すごい、すごいな! まだまだこんなにも未知なものがあろうとは!!」


 狂喜乱舞するように、白髪白衣はくはつはくいは高らかに笑う。

 広く暗い空間。数多くのディスプレイとランプの明かりだけが照らしている。


「異能の火は精霊という大自然に、暴君ぼうくんはただの格闘乙女に、超能力は変態によって打倒された……すごいなぁ、さすがだ。研究のしがいがあるなぁ」


 自身の身体を抱きしめ、身悶える白髪白衣はくはつはくいは、唐突に動きを止め、踵を返した。


「さぁて、次の実験の用意だ。まだまだ彼らには楽しませてもらわないとねぇ。クフフヒヒッ!」


 そう独り言を呟いて、ある画面を見る。そこには、人型をした何かの影があった。


「実験だ。もっと実験をしよう。この世界は、この私の最大の実験場だ。この『博士ドク』の!」


 そして愉快そうに、高らかに笑う。100を越える画面には、機械、生物、兵器と様々な物が数多、映し出されていた。




 結城たちはガンダーラの宿屋の一室に集っていた。


「結城、これはかなりまずい」


 そこには結城たちのほかに、捕虜として敵であった三人、フレイムタン、タイラント、そして黒の淫夢ナイトメア

 フレイムタンとタイラントは淫夢と銀風のパーヴァートの力で二人の能力を抑制されていた。


淫夢ナイトメアの持つ念力がパーヴァート由来のものなのは、さっき話したな」

「ああ。フレイムタンとタイラントは違うんだよな」

「二人は違う。干渉力は感じ取れなかった。だが淫夢ナイトメアの念力からは確かにパーヴァートの力を感じた」


 それはつまり、パーヴァートの力が応用されて、新たな異能として開発されたということだ。


「パーヴァートの干渉力を応用するなんて、普通に考えたらありえない」


 干渉力は、パーヴァートが持つ独自の力であり、理屈だ。

 それがどのような原理で働き、どのような原動力を必要とし、どれほどの効果が得られるのか。


「それがまさか変態という素質と、性欲という衝動リビドーが原動力だなんて、解析できるような奴はまずいない。もし出来るとしたら同じパーヴァートくらいだ。そしてそうであれば、わざわざ念力だけに特化させたりなんてしない」


 パーヴァートの力は性欲を糧とし、妄想によって形作られる創造できる想像の力だ。

 その万能ともいえる力を、わざわざ念力というジャンルに固定する必要がない。


「となると、この力に気付いたのは、パーヴァートではないことになる。パーヴァートでないにもかかわらず、この力を許容し、応用し、登用し、活用する。そんな脅威の変人が居るということだ」


 そしてそれは、パーヴァートの力に対して何らかの対策がなされてしまう恐れがある。

 干渉力を無効化する兵器、妄想を阻害する装置など、こちらの不利になることは避けられない。


「その兵器ないし装置が、もし横暴な健全の二文字を掲げる奴らの手に渡れば……」


 偏った性癖は迫害され、性欲を満たす雑誌や道具の流通も制限され、胸が高鳴るような放送内容も規制される。

 それだけならともかく、そういった物の所持まで罪になってしまうかもしれない。


「私の百合画像フォルダも危うい」


 彩の銀風はブレない。変態として最初から最後まで完成されている。


「結城、お前にはそろそろきちんとパーヴァートとしての覚醒をしてもらわないといけなくなる」

「もう力は使えるぞ?」

「それだけでは駄目だ。要するに、エロスが足りない。もっと煩悩に塗れなければ。そこで……」



 どうやら旧友との久しい再会により、銀風の何かのスイッチがONになってしまったようだ。

 こうして、結城たちは海水浴を行うことになった

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