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27話目 パーヴァート

 驚いたことに、アトランティスの地上区域……要するに民家は、それぞれがそれぞれの生活をコレまでどおり普通に営んでいた。


「本当に、前世の都会みたいだな」


 どこまでも続くビル郡に、道路、線路があり、電車や自動車の類が走っている。

 人々は忙しなく歩き回る。スーツの労働者、学生服の男女に私服の老若男女、そして……軍人。

 どうやら戦時と言う意識はあるようで、軍人と戦車がある程度の間隔を取って配置されていた。

 よくよく見ればビルの屋上にも対空兵器が並んでおり、飛んでいるヘリコプターも重武装している。


「これは思ったより大変そうだな」

「心配ありませんわ。不可視化に加えてこの人ごみ。軍事施設辺りまでなら問題なくすり抜けられるでしょう」


 新月の言うとおり、そこまではなんとかなった。ビル郡を抜け、住宅地を抜け、平坦な道の向こうに、その施設への入り口はあった。

 当然検問があり、容易くは掻い潜れない。普通なら。


「もしかして、新月……」

「ええ、お察しの通り。不可視のみならず、透過までいけますわ。干渉力が元の現象なら私が感知できますし、元に戻すのも問題ありませんわ」


 したり顔で言ってのける新月。本当にとんでもない力だと結城とレイランは思いながら、その力に頼ることにした。


「それじゃあ先を急ぐか」

「ええ。そうしましょう」


 長いアスファルトの道を歩き出したそのとき。


「待て」

「っ!?」


 体が止まった。否、止められた。

 動くための力が手足に込められない。まるで待つこと以外の筋肉を麻痺させられたような、そんな感覚。

 しかし、三人が最も驚くのはそれではない。


「み、見えてるのか?」

「そして聞こえてもいる」


 耳元で声がした。結城たちの横をすり抜けて、誰かが自分たちの前に出て振り返る。

 明るいオレンジ色を基調としたへそ出しシャツに、鮮やかな青のホットパンツ。大空のような右の青眼と、輝く太陽のような左の金眼。そして白銀のショートヘア。

 結城は彼女を見て、かっこいいとかわいいの二つの感想を同時に抱いた。

 その歩く姿は獅子のように堂々としていて、しかし振り返る姿は可憐な少女のようでもあった。

 不気味なほど綺麗に整った相貌は、確かに不可視のはずの自分たちに向いていた。


「マスター、お気をつけください」

「な、なんだ、どうして俺たちが見えて……」

「考えるまでもありませんわよ」


 新月が結城の前に立つ。結城はともかく、レイランでさえ動けない中、新月だけが自由を獲得していた。


「パーヴァートの力に干渉できるのは、同じパーヴァートのみ……そして、あなたのことは知ってますわ」

「奇遇だな。私もお前のことは知っている。後ろの青年のこともな」


 その表情が、怒る獅子の如く歪む。


「ッチ、お前が先に出会ったのか」

「ふふ、当然でしょう? 私と彼は運命の赤い糸で……ところで結城。彼女の名前は覚えてらっしゃるかしら?」

「え、彼女を……」

「っ! まさか、記憶が無いのか……? 私だ結城! お前の相棒、共に闇の変態を打倒した……思い出せ!」


 怒りの表情が一変して悲愴と哀切に満ちる。下手をすれば今にも泣き崩れてしまいそうなほどに、脆そうな心を感じた。


「え、えっと……」


 こんな顔をされては思い出さないわけにはいかないと、結城は必死に頭を捻る。

 パーヴァート、銀髪、青と金のオッドアイ。そこまで来て、思い出す。どうやら一人ひとり個別に意識を向けないと記憶の鎖は解けないらしかった。


「ぎん、ふう……銀風だ。さい銀風ぎんふう!」


 その名を口にすると、見る見るうちにその顔に希望が満ち溢れていくのが分かった。ころころと変わる表情を少し面白く感じながら、なんとか思い出し、銀風を悲しませずに済んだことに心から安堵して息を吐いた。


「そうだ。私は銀風。彩の銀風。パーヴァートで、お前の相棒だ」

「相棒は俺だろうが」


 不意にクリストが結城の脳内だけで呟いて、結城は苦笑する。


「ところで結城、どうして動かない?」


 銀風が問う。どうしてもなにも、彼女に動きを止められているのだ。


「結城はこの世界に来て、まだパーヴァートとして覚醒してないのですわ」

「そうか……で、お前たちは何をしにここへ?」

「……ふむ」


 新月はおもむろに得物の鞭を構える。


「新月?」

「あなたが私たちの敵なのかどうか、今ここではっきりさせておきましょう」

「敵……?」

「今私たちはこの船を機能停止に追い込むために動いているのですわ」


 急な話に銀風は面食らう。


「なっ、どうしてそんなことを?」

「それは、私たちにとってユートピアが敵だから、ですわ」

「敵、か。どういうわけか知らないが、なるほど」

「あなたに問いますわ、彩の銀風。あなたは私たちの敵か、それとも部外者か」

「ふむ……いや、率直に言えば、私はお前たちの敵ではない。別に私はユートピアがどうなろうと知ったことではないし。ただ一つ」


 銀風は敵でないとは言いつつ、体を横に、右足を前に、右手を握り、左手を開いた形で構える。


「私とお前は好敵手。違うか?」

「……はぁ。優雅じゃありませんわね。やだやだ……とはいえ」


 新月は鞭を解く。自分の力を発現させ、鞭に妄想の力を通す。その表情に浮かぶは微笑。


「挑まれたからには、断ることは出来ませんわね。パーヴァートとして」


 銀風もまた微笑み、そう来なくてはと一言、体に力を込めた。

 場所は敵地の真っ只中。誰にも見られぬ透明の姿のまま。二人のパーヴァートが対峙する。

 お互いに僅かにも動かず、時間だけが過ぎていく。

 瞬間、新月が音速の鞭を振るった。


「ふふっ!」


 一直線に伸び、鞭の先端が銀風を貫かんと迫る。銀風は真っ向から左手で迎え撃つ。

 敵の初撃を必ず掴む。深く踏み込み放った掌。


「かかった!」


 鞭の先端が銀風の手と触れ合う……寸前。鞭は避けた。


「ちがっ、裂けた!?」


 八つに別れる鞭の先端は、八つの方向から別々に銀風の体を捕らえようとする。


「罠ならば……」


 銀風は前へ跳ぶ。裂けた鞭の分岐点に手刀を差し込む。途端に鞭は動きを止めた。


「さすがは彩の銀風。協会の長……分岐点に自らの干渉力を送り込んで」

「罠ならば、それごと捻じ伏せる」


 新月は更に押し進む。地面を足で弾き、指先で刺し貫く。


「くっ!」


 新月は鞭を引き戻し、銀風から離す。


「久々の手合いだ、新月。真っ向から勝ち合おう」

「ふん、望むところですわ」


 新月は鞭を変形させる。長い鞭は即座に輝きを放ちながら短くなり、レイピアのような形の鞭になった。


「これは痛いですわよ?」

「ほう、新型か。面白い!」


 銀風は大きく引いた右拳で空手のような正拳突きを放ち、新月は鞭を叩きつける。

 銀風の女性らしい細腕と拳は、干渉力で絶対的な破壊力を有している。

 新月の鞭は鋼鉄の頑丈に、柳よりも柔らかくしなり、銀風の拳を打つ。

 衝撃と音の波が周囲に広がり、お互いの体が弾かれる。


「ッチ!」


 地に着いた足で更に蹴り、新月より先に前へ出る。


「ふんッ!」


 銀風の拳の連撃を新月は流れるように避ける。首を左右に逸らし、ふと突き出された拳に手を添えて、力を自身が回転することで逃がす。

 その流れから鞭打ちを繰り出す。それを屈んで回避し、勢いで跳んで前に回転しながら踵落としを仕掛ける。銀風は半身引いて紙一重で足を避けた。

 その勢いを再び回転しながらの鞭打ちに利用し、打撃を加えようとするも銀風は今度は屈み、頭上を鞭が通過したところですかさず跳び、膝蹴りを繰り出す。


「はいっ!」

「なっ、に!?」


 銀風の体が空中へ投げ出される。足首に絡みつく感触に気付き、見れば新月の鞭の先端から透明な鞭が更に伸びていた。


「これでお終いですわ!」

「いや、まだまだッ」


 銀風は手で振り払う動作でそれを千切る。


「この取って置き、受けきれるかしら? 満月を裂くクヌート!」


 一本の長い鞭が顕現し、音速を超える速度で銀風に迫る。


「じゃあ受けない」


 にぃっと笑みを浮かべる銀風。迫る鞭が眼前に迫る……すると銀風の体がふわりと横に移動した。


微風そよかぜ

「この土壇場でよくそんな妄想を……」

「ふふ、まだまだこの座は譲れないからな。そう簡単に、結城以外の奴に負けるわけには行かないさ」


 銀風はシャボン玉のようにゆらりと舞い、鞭をひらりと回避して着地する。

 

「さあ、続きだ」


 銀風の足が地を抉り、新月の鞭が空を裂く。

 左右に飛び跳ね、体を逸らし、時には飛び越え、潜り抜け、徐々に距離を詰める。


「刹那三日月」


 鞭の尾が増え、それぞれが別の軌道で銀風に襲い掛かる。それすらもすり抜けるように回避する。

 全てを避けきった。そう思った一瞬を新月は捉えた。


「今度こそ取りましたわ!」

「いや、捕らえた」


 突き進む鞭の先端を回転しながらすり抜け、そして掴んだ。


「ぬぅっ!」

「ふんッ!!」


 強力に引っ張られ、新月の体が宙に浮きながら引き寄せられる。

 だが新月は余裕の笑みで妄想を口にした。


月雷つきいかずち


 電撃が鞭を伝って銀風を襲う。


「うぐっ……ぬぅん!」


 干渉力を手に込めて、電撃を捻じ伏せる。今度は新月が引っ張り始めるので、すぐさま鞭から手を離す。


「……相変わらず、やるな」

「そちらこそ、鈍ってはいませんわね」


 互いの実力に称賛を送りあう二人。しかし、そろそろ決着をつけたいところだ。


「では、いくぞ」

「望むところですわ」


 笑みをかわし、そして二人の妄想力が炸裂した。


旋風つむじかぜ


 左手を上に、右手を下に構え、


みだづき!」


 直線的に襲い来る連続の鞭打ち。それに対して銀風の回転する腕が鞭の軌道を弾いて逸らす。


「うぉおおおおおお!!!」

「はぁああああああ!!!」


 振り下ろすも払われ、振り払うも弾かれ、振り上げるも撃ち落され、連続回転の上下連撃は屈み、跳ねて避ける。

 片方の技の速度が相手の技より素早く、追い抜いたかと思えば、次の瞬間には更に速度の速い技で返している。

 瞬間、銀風の手が新月の手首を巻き込み、その体が宙に浮いて回転する。


「っ!?」

「ここだッ!」


 銀風は半開きの右手の中で中指だけをピンと直立させる。弓矢を引き絞るように力強く右手を引く。。一瞬で技の準備を完成させた。


「マーブルストライク!!」


 発動の瞬間、七色の光が瞬き混じる。虹の尾を引く貫き手が新月の眉間を打ち抜いた。


「かに見えた、というところですわ」


 新月の姿が幻影のように歪み透けて消える。


「囮……?」

「そう、囮」


 振り返る。眼前、そこに鞭の先端を突きつけられる。


「あなたの負けですわ」

「……それはどうかな」

「銀風、あなたは確かに強く誇り高いパーヴァートですわ。負け惜しみはその己に泥を塗るだけですわよ?」

「新月。これは前から言っているが、勝ち誇りたいがために勝つ前に優越感に浸るのはやめたほうが良い」


 銀風は余裕の笑みを浮かべて新月を見下ろす。そして新月は特大の溜息を一つ吐いて、ジト目で銀風を見上げる。


「本当に、あなたのそういうところ嫌いですわ。だからいっつも決着がつかないじゃありませんの」

「ふふっ、いつも悪いな」

「もう。いくら結城以外に負けたくないからって、命までかけるのは行きすぎではなくて?」

「私なりの愛なんだよ。愛」


 どうやら戦闘が終わったらしく、結城はあまりの光景を前にして忘れていた呼吸を再開した。


「す、すごかったな」

「そうか?お前だってこれくらい……ああ、記憶がないんだったな」


 銀風は結城の前に立つ。ふと体の拘束は解け、自由の身になる。

 それを確認した銀風は、右手を差し出す。


「さて、改めて……久しぶりだな。結城」

「記憶なら戻ったよ。久しぶり、銀風」


 差し出された手を強く握る。


「思い出した?」

「ああ。彩の銀風。パーヴァートとしての俺にとっての相棒。そしてかけがえの無い戦友」


 銀風は驚いたように目を丸くし、不意に結城の手を引き抱きしめた。


「っ!」

「んなっ!?」


 レイランは表情に出さないものの、ぴくりと利き手が動いた。新月は表情にも態勢にも感情が現されていた。


「んー……懐かしいなぁこの感覚っ!」

「ちょ、銀風!?」


 華奢ながら強い力で結城を抱きしめる。とはいえ柔らかな体の膨らみのせいで痛いどころか心地よすぎるほどで、これ以上長引けば間違いなくクセになる。


「早く覚醒してくれ結城。お前とも久々に手合わせしてみたいんだ」

「わ、分かったから!頼むからこれ以上は……んっ?」


 胸の奥底から、何かがこみ上げてくる。血流が、熱さが全身を駆け巡り、火照らせる。そして脳が痺れるような、じんわりとした感覚。


「ほら、早く」

「まさか強引に覚醒させる気ですの?」


 銀風の右手が結城の後頭部に添えられる。


「妄想は絶頂の炸薬、恍惚は陶酔と共に。覚えているはず。思い出せるはず。お前なら」


 脳内に流れ込んでくるのは、銀風の記憶のようだった。銀風の視界から、妄想の中での自分の姿らしく、誰よりも強く、一人、また一人と打倒していく様がそこにはあった。


 そして自分。冷え性で常に冷たい自分の手が珍しく暑いほどの温もりを持っている。

 ふと気がつけば、銀風は既に結城の体を解放していた。


「さぁ、試しにやってみろ。お前ならきっと出来る」

「やるって、何を……」

「何、お前のヤリたいこと、シたいことをすればいい。それがお前の存在の証明になる」


 やりたいこと、したいこと。急に言われたところで、結城は困惑するばかりであった。

 とはいえ、今すぐに何かを思い出すとすれば、銀風の柔らかな感触。

 そう、あの感触をもっと続けていたいと思う。より深く、なお長く……


「んっ……!」


 そう思った瞬間、妙に色っぽい喘ぎが耳をなぞる。記憶を見ている時は、焦点の定まらない視界であるが、改めて銀風を注視すると、何故か頬を赤らめている。


「ほ、ら……出来たろ? ……あんっ!」


 よく観察すると、銀風の胸の片方が、まるで何かに揉みしだかれるように動いている。そしてその動きと、無意識に動かしていた自分の右手が同調していることに気付いた。


「えっ!? な、なんだこれ!?」


 蕩けるような感触が確かに手の平と指にある。しこりのような出っ張りも一つ確認できる。


「……それがパーヴァートの初歩的な力ですわ」


 本当に不機嫌そうに新月が解説する。


「パーヴァートの原動力は妄想、煩悩、性欲。それを己の嗜好に最もあった形で発現し、時に性戯、時に戦闘にて駆使し戦うのですわ……まだ気が済みませんの?」


 新月の視線は間違いなく結城の右手に向けられていた。


「あ、ああ! そうだな! 分かりやすくて助かった!」


 集中を乱すと、手からは感触、体温が失せる。銀風は余韻からか、それとも残念そうな吐息を一つ零す。


「もっと続けてくれても良かったのだが」

「マスター、一応ここは敵地なのですが」


 レイランに言われて、暢気な自分に少し呆れた。とはいえ、それもまた良しと思う自分があった。


「遊びすぎたな。そろそろ先を急がないと」

「ああ、そういえばお前たちはここを乗っ取りに来たんだったな」

「そうだよ。出来れば協力して欲しいんだけど……」


 駄目で元々ということで、結城は試しに銀風を誘う。すると、


「ああ、分かった。一緒に行こう」


 即座にOKを貰った。






 魔法とはなんぞや。

 無数に存在する魔の法、その在り方。。時に神代の時代、時に遥か未来。様々な世界に、様々な形で存在する。


 魔術とは何ぞや。

 魔を扱う術は数多く。同じ世界であっても数多い。人、杖、本、字、陣、刻、時に言の葉までも。それは単なる理の具現。


 魔道とは如何にや。

 常世に隠されたその道に導かれ、夜闇の中に在る道すがら、光は妖しく照らし続ける。即ち、魔の本質に寄る道程。


 それは原初に立ち返れば、不思議な力であり、奇跡と偶然の不可思議である。

 それは未来に見据えれば、難解な科学であり、計算と術式の四則演算である。

 それは因果に見定めれば、神秘な現象であり、魔力と精神の超常現象である。


 して、魔法とはなんぞや。あらゆる形を持つ、魔法とは一体なんぞや。


「魔法とは超常なるもの。法理を超越し、束縛を超過し、怪物を調教し、均衡を調節するもの。それらを以って、しかし胡蝶の夢なるもの」


 荒れ狂い、潜む何かを暗雲の影が隠している大海原。大嵐の下、高波の渦中、一隻の船に佇む魔女が一人。


「……」


 ローラの視界には、もう蓮華が沈没させた船の屍が何隻も漂っている。


「蓮華ちゃん、頑張ってるみたい……じゃあ、今度は私の番」


 ローラが瞳を閉じた途端、周囲の荒波が一層大きくなった。


 そして嵐の曇天や雷雨よりも暗い影が、水面下を蠢き、次の瞬間、巨大な影が一斉に船を潰し、引き裂き千切った。

 その戦艦一つの大きさを遥かに越えるそれらは、深海魚のような見た目と、いくつものまなこ。そして牙や棘を有していた。


「蓮華ちゃん、聞こえる?」


 呼びかけた瞬間、アトランティスの巨大な砲塔がこちらを向き、戦艦ですら粉微塵にする砲弾が発射される。ローラと砲弾の間に水の触手が隔てるが、それは難なく破られる。

 次の瞬間、より巨大な壁が出現する。

 それは天を貫くほどに太く、長い肉の触手。

 直撃を食らった触手からは赤紫色の血が噴出している。


「ありがとう、クラーケン」


 揺れる七色の光を宿す瞳で、ローラはその触手を見る。

 ところどころ海藻が張り付くその触手が、次々と姿を現し、ローラの周囲に集う。


「あの砲台を」


 ローラが話しかけると、すぐさまアトランティスに触手が伸びる。

 強力な砲弾が触手を穿ち、その肉を吹き飛ばすが、圧倒的な量で迫るそれらを捌ききれなかった。

 触手は砲台に絡みついていく。鉄が軋み、悲鳴のような音と共に、砲台はアトランティスから引き剥がされ、潰され、そして爆発する。


「蓮華ちゃんを、あの中に連れて行ってあげて。上から入れると思います」


 巨大な触手が螺旋階段のように渦を巻き、上部へ行くための道を作る。

 蓮華は水面から一気に跳び、触手を駆け上がっていく。


「頑張ってね、蓮華ちゃん」


 現時点でのユートピア海軍護衛部隊の戦力は、その5割以上を喪失していた。



「何が……何が起こっている!?」


 何が起こっているのか、などと言うことは、彼ら自身がよく分かるはずだった。

 この中央サーバーは、アトランティスに関わるあらゆる情報が収集される。

 市街地の環境、軍事施設の状況、周囲の戦況までもが手に取るように分かる。


「どういうことだ。我々の護衛が」

「万が一に備えて、転送危機の容易とバックアップを取っておくかの」

「このアトランティスは奴が作ったものだろう!戦艦も!どうしてここまでやられる!」

「少しは落ち着け」

「落ち着いていられるか!クソっ、こんなところで死んでたまるか。せっかく不死の域に指がかかったというにッ……」


 突如、不落の要塞が揺れた。


「震動……何が起こって……」

「まずい!上部ドームを閉鎖しろ!早急にだ!」




「さっすがローラ! すごい力だな!」


 海魔。海洋生物の魔物。大地より遥かに大きい海によって育まれた大いなる巨躯を持つ生物たち。

 それが存在するのかどうかは分からなかったが、ローラに呼び寄せられ、ローラの手足となって動き出した。


「さて、こっちも良い所見せないとな!」


 蓮華は最上部に辿り着く。ドームが徐々に閉じていく。


「ハァ……」


 手を悪魔の鉤爪のような形からゆっくりと、小指から一つずつ閉じて拳の形を作る。

 親の拳骨のように拳に息を吐きかけ、ゆったりとした動きで振りかぶる。体が捻じ切れるのではないかと思えるほどに。


「スゥ……ッゥラアァ!!!」


 要塞が震えた。

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