0話目 次の世界、次の1話
『ようこそ、理想の最果てを目指す者よ』
冷たい暗闇の中で、男性のような声がした。
中肉中背な成人男性、やや低めの声。そんなイメージ。
ここはどこだ。何も見えない。何も聞こえない。何も触れられない。
まるで夢の中のように。闇の夢を見ているように。途方も無く闇が続いている。
『よく来たね、おめでとう。君は次の世界に足を踏み入れる権利を得た』
次の世界? 権利? どういう――
問おうとするが、声が出ない。否、声を出すために必要な物が何も無い。
喉どころか、肺も、口も、無い。肉体が無い。
『普通の人間なら天国か地獄に向かう。或いは無となって永遠の安寧を得る。もしくは転生し、新たな人生を歩むだろう』
天国とか地獄って、僕はもしかして……死んだ、のか?
『君はこれから転生するが、他の者とは少し変わった転生の仕方をすることになる。君が前世、描いていた理想の自分をそのまま映し出し、君は新たな世界に身を置くことになる』
最初に声を聞いたときは、見えないだけでそこに誰かがいるのかと思っていた。だが今は、まるで機械で音声を流しているだけのような無機質さを感じている。
『君のほかにも、理想の姿を得てその世界に身を置いた者たちがいる。きっと君の理想は誰かの理想と重なり、ぶつかり、お互いに身を削ることになるだろう』
結局、自分は彼の言葉に耳を傾けるしかなかった。音声を聞く器官さえ、存在していない気がするのに。
『その世界には全てがある。誰よりも己の理想を貫き、生き残ることができれば、その世界の全てが君のものとなるだろう』
理想。それは人の欲にして力。己が身を動かす糧。にして、意思を貫く矛。
『さあ、最後に確認しよう、理想の探求者よ。もう一度立ち上がる勇気と執着があるならば……』
決まっている。この理想を遂げられるのならば、やることは何も変わらない。
光が差す。強い光が闇を照らし、次の瞬間、目の前には……