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10話目 妄想顕現

「どうする結城、俺の教えた技術も所詮は付け焼刃だ」

「蓮華ちゃん……」


 グレイとローレライは見ていることしか出来ない。もはや結城がどうしたところで、あれに勝てる気がしないのだ。




 銃弾も残り少ない。結城はレイランに銃口を向けたまま後ずさる。


「とにかく、時間を稼がないと……」


 周囲の様子を伺うが、蓮華はまだ戦い続けている。


「結城さん、でしたね」

「えっ、ああ、そうだけど」

「では結城さん、こうしましょう。あなたが私に1分間、好きに攻撃して構いません。私はそれを凌ぎます。反撃はしますが、寸止めしますのでどうか臆さずに」

「なんだ、どういうつもりだ?」

「先ほども申し上げましたように、私は主を見つけることが目的。今や決勝戦、残るはあなたのみ。私はあなたの力を見極めたいだけです。そのための1分です」


 その瞳に、偽りの色は見えない。そもそも彼女が言うことが本当なのか、嘘なのかも分からないが、なぜだか、彼女の言うことは信じたくなる。


「どうする、結城。一分ならギリギリ行ける」

「分かりきったことだ。どうするもこうするも……」

「フフ…そうだな」


 ユウキは、結城の体に憑依する。一時的に肉体の上限から更に上を発揮させる。


「なに、出来る限りのことを尽くす。ただそれだけよ」


 無意識にうかべた笑みに応えるように、レイランもまた微笑んでいた。





「ガンマンのくせに接近戦も完璧か!」

「白兵戦もこなせなきゃやってらんねぇんだよ。ガンスリンガーってのは」


 とはいえ徐々に蓮華が優勢になってきている。相手の動きに慣れたのか、銃を構える前に手を打ち落とし、ナイフは打ち払う。


「クハハッ!」


 朱が下に何かを投げた瞬間、強烈な光が周囲を満たす。


「うくっ!? まだこんな……」


 たまらず蓮華は大きく跳び退る。


「チェックメイトだ」


 大型拳銃を構え、蹲る蓮華に銃弾を撃ち込む。瞬間、蓮華の体が跳ねた。


「なっ!?」


 撃ち続けるが、機械のような速さと精密さで横に飛び、回り、伏せては跳ねる。


「こいつ、殺気が読めるのか。つくづく野獣だな」


 銃撃をやめると、蓮華もまた動きを止める。やはりだ。音速より速い銃弾を越える反応速度。頼りにしているのは、おそらく触覚。


「殺気を肌で感じているのか」

「へへっ、武術じゃあ基本だぜ。基本!」


 目を擦って慣らす。再び朱の姿を目に捉える。


「さて、お互いそろそろ終いにするとしようか。蓮華」

「奇遇だな。私もそろそろ結城の援護しないといけないからな」

「そうかい。じゃあ……あの世でも達者でな」


 連続で射出される弾丸と銃弾の如く飛び出す蓮華。


「うぉおらぁああ!!!」


 ジグザクに動きながら確実に前進している。あまりの速度で蹴った地面が削れ、残像さえ作り出している。


 『歩法・残影!』


「最高だ。本当に……」

「っ!」


 銃弾が蓮華の頬を掠める。


「殺すのが惜しい」


 朱は銃撃を止め、銃を下ろす。


「誘ってる? なら…乗ってやる!」


 ジグザグから一転、超前傾姿勢のトップギア。

 最短で一直線に、空気を貫き、光をも越えそうな勢いで。


「でらッッ!!」


 蓮華の拳が朱を打つ。


 一瞬の静寂。


「……か、かった、な?」


 朱のナイフが蓮華の喉に当てられていた。


「あー……やっちまったな」


 次の瞬間、鮮血が噴出した。




 レイランが結城に剣を握らせる。


「さあ、どうぞ。初撃から一分です」

「ああ、やらせてもらう」


 結城は剣を高く振り上げる。天高く仰ぐように。


「……気のせいじゃないのか」


 鞘から未だ抜かれぬ剣に、ただ手を添えるだけの彼女。

 どうしてこんなにも懐かしいのか。

 この世界にたどり着いた時、何か大切なものを落としたようだ。もう一人の自分を忘れていたように。

 でもそれは今はどうでもよい。おそらく最強の剣士である彼女が、自分の剣を受けきってくれるというのなら。


「全力で行く」


 その一撃は落雷を思わせる衝撃だった。


「……」


それをやや驚きながら、しかし微笑む彼女は、やはり剣を抜いてそれを受けていた。


「くぅっ!」


 弾かれた剣を更に叩き込む。それでもレイランは難なく、まるで普段と変わらぬような立ち振る舞いで、優雅に舞う。


 ふと、レイランの刃が首元にまで迫り、停止した。


「一本」

「くそっ!」


 放つ縦の斬撃は体を半歩下げて避けられ、斜め斬り上げも回り込まれてかわされる。


「このっ……」

「二本」


 回りこまれた時点で一撃を貰ったも同然だ。それでも振り向きながら横に大振りの斬撃。だがレイランは難なく後ろにステップして回避。


「!」


 結城の左手には拳銃があった。銃口は確かにレイランを捉えている。

 弾丸を三発撃ち込む。だがやはりレイランは容易く弾き飛ばす。


「残り30秒」


 銃を持ち出されても眉一つ動かさない。年端も行かない少女ながら、大剣豪のような落ち着きようだ。

 結城は銃を撃ちながら駆け出す。


「うらぁああ!!」


 鉄と鉄のぶつかる音が鼓膜を響かせる。それでも接近し、肉薄して剣を振る。

 すると今度は回避せずに剣で受け、その勢いを借り、回転して斬撃を繰り出した。


「三本」


 妄想顕現しても尚、まったく追いつけていない。むしろ引き離されている気さえする。それでも。


「それでも!」


 空になった銃を投げ捨て、ナイフに持ち帰る。


「二刀流ですか。あと15秒です」


 もはや遠慮は要らない。刺し違えてでも一太刀当てる。

 深く踏み込んでナイフを突き出す。だが剣で払われる。


「つぅッ!」


 左手が痺れる。だが間髪いれずに剣で斬り付ける。それも打ち払われる。


「そうです、その調子です。あなたならば、きっと……」


 残り10秒。


「きっと、届くッ!」


 結城の踏み込みで地面に皹が入る。振り払うような横切り、切っ先が銀色の前髪を少し散らした、


「!!」


 レイランの表情に驚きの色が見えた。高揚する。少しずつ、僅かだが確実に届きつつある。


「ふんッ!」


 剣で地面を抉り、破片や砂を飛ばす。だがレイランは一太刀の斬撃の風圧でそれを散らす。

 そこに更に追撃、ナイフでの刺突。剣で受け止められるが、更に右の剣で攻撃。

 斬撃を剣で受け、流す。


「もっと速く、鋭く!」


 レイランが言う。まるで自分に一太刀浴びせることを望むかのような。

 残り5秒。

 ナイフを逆手に持ち、さらに接近する。だがレイランは深く身を伏せ避け、後方に跳んだ。


「いっけぇ!!」


 渾身の力でナイフを投げる。回転しながらレイランの着地点へと飛ぶ。


「あと3秒!」


 レイランがナイフを剣で弾く。見れば結城は後に続いてこちらに向かっていた。剣での刺突だろう。

 だが、おそらく間に合わない。名残惜しい気持ちを抑えながら、鞘に収め、居合いの構えで待つ。


「とどっ…」


 かないだろう。だが、最後まで、せめて最後まで足掻く。


「よくやったぜ結城!」


 声と共に、結城の背に何かが当てられた。


「合体秘奥技!」


 次の瞬間、結城は強烈な、爆発のような力で背中を押された。


「スラストキック!」





 結城の体が吹っ飛んだ。思わぬ加速にレイランも一瞬思考が止まった。だが、レイランの剣豪として完成された体は反応できる。


(で、でも、まだ…っ!)


 まだ1秒あった。攻撃を加えるわけにはいかない。回避は出来ない。既に体勢は回避より迎撃を優先したものになっていた。

 間に合うかどうかの瀬戸際。ここで斬ってしまえば、また自分に相応しい主を探さねばならない。ここまで来た彼が、この一瞬で自分をしとめられるか、どうか。

 そしてレイランは決断する。


「いざ、参りましょう」


 刹那、互いの一閃が交差した。


 


 凄まじい衝撃と、景色の移り変わり。やがて、それもおさまった。


「……っかは! げほっ!」


 遠慮のないスラストキックだかなんだかを背中に受けたせいで呼吸が出来なかった。やっと息を吸えた。


「いたたっ……」


 吹っ飛んで地面に倒れこんだはずだが、妙に下が柔らかい。

 回る目をなんとか慣らし、状況確認、眼前、自分の下敷きになっているレイランの姿があった。


「おめでとう、ございます、マスター。我が主様」

「お、おお?」


 よくよく見れば、本当に美麗な顔立ちだ。美麗だとか流麗だとか、蓮だか牡丹だが、そんな表現が陳腐に見えるほどに。というか、言葉であらわせないほどに。


「俺は……」

「マスターの一太刀、確かに頂きました」


 レイランが右を見るので結城がその視線を追うと、レイランの左肩から血が流れ出ていた。


「だ、大丈夫!?」

「ご心配には及びません。この程度の傷は剣士にはよくあることで御座います。それより、いくら主従とはいえ、このようなことは、少し……」


 目を逸らし頬を赤らめている。慌てて結城は飛び退いた。


「ご、ごめんなさい!」

「いえ……では、改めて」


 レイランは結城の前で、まるで騎士のように跪き、頭を垂れる。


「マスター、我が主様。このレイランの敗北と、貴方様の勝利を貢物こうもつとし、どうか私奴わたくしめをあなたの忠誠と勝利の剣として迎え入れてくださいませ」




「まったく、お前には瀕死という状態は無いのか」

「それはこっちの台詞だぜ。お前には死は無いのか」


 蓮華は喉を手の平で押さえながら笑っている。


「血が止まらないぜ」

「当たり前だ。動脈を確実に切ったんだからな。どうやらお前は首を飛ばさないと動きを止めないようだな」

「首が無くたってしばらくは動くかもな! にしても、お前だって普通なら死んでもおかしくないんだぜ。私の一撃を食らって、しかも寸勁まで加えたのに。不死身か?」


 一撃を放ち、決着かと思った次の瞬間、首をナイフで裂かれた。それでも慌てずに拳を当てた状態での寸勁で吹き飛ばした。


「不死身ではない。ただ何度でも死ねるだけだ」


 どちらにしろ、どちらも化け物であることに代わりは無い、と二人は笑う。


「さて、レイランが勝手に敗北を認めちまった。こちらはドロー。お前たち二人が優勝というわけか」

「あー、そっか。これで終わりかぁ」


 祭の終わりを惜しむように蓮華はため息をこぼす。


「そんなにやりたいなら戦争にでも行ったらどうだ。」

「あそこはなぁ、楽しむ空気じゃないからなぁ」

「なに、ここもすぐに戦場になる。そんなことは言ってられなくなるぞ」

「ユートピアか。もうここまで攻めてくるのか?」

「さてな。ただ両方の国を見た印象じゃ、ここが落ちるのは時間の問題だ。お前らが戦争に出ない限りは」




 控え室。既にローレライやグレイが待っていた。


「二人ともおめでとうございます!」

「いやぁ、本当に勝っちまうとはなぁ。表彰の時にぶっ倒れないように休んどけよ」


 少ししたら表彰やら賞金授与やら色々ある。それまでは休憩だ。 


「おめでとうございます、マスター」


 なぜかレイランもいる。座布団の上にちょこんと、結城の隣に座っている。


「私は既にマスターの従者であり剣ですので、常に身を守るため、お傍に置いて頂ければ」

「つまり一緒に居たいってこどだな!」

「ええ、端的に言えば」


 しかし、なんど見ても不思議な美しさを持っている。というか、自分はまだ彼女について何も知らなかった。不思議も何も無い。


「そういえば、レイランはどこに住んでるの?」

「私は、前はシルファン家の娘でした」

「シルファン家?」

「聞いたことがあるぜ、たしかこの国で五本指に入る貴族で、剣の世界で最強の名を欲しいままにしている剣豪の家系」

「はい。私はシルファン家の長女。ですが、今は家を出、己の仕えるべき主人を探しておりました。」

「家出?」

「はい、実は…」


 突如、扉をノックされる。


「休憩中申し訳ない。少し話がしたいのだが」

「あ、どうぞ」


 反射的に許可してしまった。扉は開かれ、一人の男が入室する。


「初めまして、優勝おめでとう」


 男を見て、ローレライとグレイの動きが止まった。

 豪華絢爛な金の刺繍、宝石の数々の埋め込まれたローブで着飾った男。濃いブラウンの髪から美形が覗く、若そうな青年。

 おそらくああいうのを天才だとか秀才だとか、イケメンだのリアルの充実した勝ち組と呼ぶのだろう。理想はハーレムとかだろうか。

 左右には青い服を着た巨漢の近衛兵が一人ずつ


「ん? どうしたんだ二人とも」

「あ、あわわ、わ……」

「ど、どど、どうしたってお前…」

「なんだ、国王か」


 蓮華が飯にがっつきながら呟く。ってかまた食ってるのか。


「その通り。初めまして結城君、私はこの国の王、アルカ」

「え、あ、どうも」 

「どういったご用件ですか、国王様」


 レイランが冷たく問う。


「おや、レイランさん。お久しぶりですね。貴方のお父上と同様、貴女とも友好を深めたかったのですが」

「私はお父様の傀儡でもなければ、あなたに仕える剣でも、良妻でも御座いません。私の主は私が決めます」


 まさかレイランの家出の理由は、そういうことか。


「残念だ。さて、結城君、今日私がここに来たのは他でもない。その見事な力、是非この国の存続のため、役立ててはもらえないか」

「この国の存続って」

「君も聞いたことはあるだろう。ユートピアとの戦争を」

「え、ええ。まあ話には聞いてますが」

「安全無欠の英雄が登場して以来、こちらの被害は格段に減少した。しかし、彼らの圧倒的な戦力を前に、これ以上の長期戦は最悪の事態を招くだろう。故に、こうして大会を開き、強き者を集め、この国の救世主となってくれる者を探しているのだが」

「待て。結城は確か戦争には参加する意志は……」

「いや、俺は保留にしてた」

「マジかよ」


 ということは、これが言うところの依頼という奴か。


「勿論、強制ではない。その場合は賞金も無いが」

「おい、そりゃどういうことだ」


 グレイは今にも食いかかりそうな獣の唸りに似た声で言う。


「いつからこの国は金で民を釣るようになったんだ? それに蓮華はどうなんだよ」

「あー、私はこの大会には出場してないぜ。額の少ない大会でチマチマ稼いでたからな。今回はとりあえず参加してみたんだが、まさかこうなるとは」

「たかが貴族たちが娯楽のために10億Tなんて賞金を用意するわけが無いだろう。傭兵はやはり頭は良くないようだね?」

「……で、結城、どうするんだ?」


 グレイの問いに、結城は即答できなかった。

 しばらく沈黙し、熟考が続く。

 静寂を、ぽつりと破った


「依頼があったら三日以内に返答をすればいい。はずですよね」

「勿論、そういう決まりはきちんと守るさ。何せ国王だから」

「では三日間待っていただけますか」

「分かった。三日後、遣いを寄越すよ。では間も無く授与式だ。改めて優勝おめでとう、結城」


 そして国王は退室した。

 戦争。誰もがそれに特別な思いを抱く。忌み嫌う者、喜ぶ勇む者。果たして結城はどちらなのか。

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