病気の国
旅人は旅をしていた。
旅人だから当たり前なことだけれど旅をしていた。
そしてたどり着いたこの国は
とあるお話の舞台になるのである。
「この国は平和な国だときいてやってきたのだが…」
一人の旅人は頭を抱えた。
そこに広がっているのは高い城壁と…開いた門
その向こうには死体が転がっている。
「流行りの病で…」
完全防護服をまとった兵士がいう。
「ならばここの門を閉じるべきだろう…?」
旅人はそういってマントに顔をうずくめる。
「それが…」
兵士は軽く説明をしてくれた。
この国では流行っているのだが実は感染しないらしいということ。なぜならそれはいつどこで誰がどんなふうに感染するかが分からないからだ。
一日中マスクなしで病人を看病していた看護師は全くもってその病気にはならなかった。
逆にその病を恐れ、こもっていた人はその病になってしまったらしい。
「危なっかしい病気だな」
旅人はそういって顔を上げた。
「入国なさいますか?」
兵士はたずねる
「…まぁ、携帯食料や衣類…刀を磨くためのものとかがほしいから…すこしだけ。」
そういって旅人は入国審査を受けた。
「いらっしゃい旅人さん」
力なく路上に座り込む男性がいう
全身に包帯を巻いていてまるでミイラかなにかにしか見えないが…干からびてはいないようだ。
「こんな有様よ…いいとこないけど…この事実を周りに言って…少しでも対策が練れればいいと俺は思っている…。」
そんなことをいう男性に旅人は微笑みうなずいて通りすぎた。
この国はわかりやすくて、店の名前や売っているものなどが書いてある看板がところどころにおいてあった。
旅人はそれを眺め、お目当てのものを探す。
そして見つけた店の中に入ると女の人がいて
うっすら笑みを浮かべて会釈してきたのでこちらも会釈で返した。
「旅人さんですか?」
拭い紙と打ち粉を眺めていた旅人はそっと振り返り声の主を見た。
その人はニット帽をかぶり、口元を抑えて立っている…男の子だった。
「ナノ…!だめよ寝ていなさい…体がまた辛くなるわよ…?」
女の人がナノと呼ばれた男の子を優しくなだめるようにしかりつけた。
「でも…お客さ…ゴホッゴホッ…」
ナノの口から血があふれ…ふらふらと倒れてしまった。
「ああ!あなた!ナノが倒れてしまったわ!」
女の人が声を上げると疲れた表情の男の人が走ってきて女の人とともにナノを担いでいなくなってしまった。
暫く沈黙が続く…
仕方ないので脱ぐ紙と打ち粉を何個か手に取りお金だけおいて帰った。
もちろんちょっと多めにだした。
買った(?)物をマントで隠れているバックにしまい。
街並みを歩いてみてみることにした。
何処も活気がない…仕方ないことだけれど。
そしてなにより面白くない。
きちっと組まれた家にまったく平坦な路地。
近くにあった店はほとんど全滅
中に入るとうっすら腐敗臭がする。
きっと誰にも気が付かれないではやり病にかかってしまったのだろう。
そして誰にも見送られずにこの世をさってしまったのだろう。
いたるところに血痕があり、それは黒くなっていた。
「また会いましたな旅人さん」
初めにあったミイラになっている男性が話しかけてくる
「何も見るところもないだろう…宿もこんな調子でついこの間女将が死んじまってね…」
男性はそういってついさっき腐敗臭がすると思って出てきた店を指差す。
「あそこが宿だったんだ」
「…」
旅人は黙ったまま宿を眺めた。
「早いとこ次に行った方が良いかもしれねえな…」
「そうですか…」
じゃあ出国でもしようかな。とつぶやいて去ろうとする旅人に
「あ…まってくれ…俺、実は自動車やバイク売ってるところの店主なんだが…」
そういって男性が旅人を呼び止めた
「で…なんでしょう」
旅人は振り返り男性を見つめた
「一台持っていきな…どうせこの国の人は乗りはしない…俺もそろそろだ…あそこの路地のとこまがったらすぐ…」
そういって男性は死んだ。
旅人は男性が言っていた場所に行ってみた。
そこには少しほこりがかぶった二輪車や四輪車が置いてあった。
旅人は少し悩んでとりあえず二輪車をもらっていくことにした。
帰り際、生き残っている人からたくさんのものをもらった
携帯食料に高く売れそうな宝石、銃や銃弾、果物ナイフやサバイバルナイフそれから防寒具まで
そんなにたくさんいらないのになぁと思いながらも笑顔でそれを受け取った。
「私たちを忘れないで…私たちの存在を忘れないで」
去り際にたくさんの人が泣きながら叫んだ
その声を聴きながら旅人は慣れないバイクに乗って去った。
そののちその国は救われるらしいが
これはまた別の話。
この旅は終わらない。
※バイクを乗りこなせなかった旅人さんは途中にあった別の国で売りました((