Prototype noisy
クックックッとアイツは不快になるような周波数で笑った。
「うるせぇ……」
体を横たえている狭いソファーの上でねがいりをうつ。笑い声が聞こえないよう、耳をソファーに押し当てる。
それでもなお、アイツは笑うことを止めない。
「うるせぇんだよ! お前の笑い声はノイズなんだよ!!」
勢いよく席を立ち、皆の注目を集めてしまう。
「どうした?」
目を白黒させながら先生が聞いてきた。
どうやら、“いつもの”が起きたようだ。
「すいません。寝ぼけてました」
「またか。お前、ちゃんと寝てんのか?」
「それなりに」
笑いながらオレはいつも通りやり過ごした。
オレは昔から夢――それも白昼夢――で、アイツと顔をあわせてきた。
烏の濡れ羽色と表現するのが合っているような漆黒の長髪。色白で整った顔立ち。まつ毛が長くて印象的な紅い目。
アイツは現実にいるのかわからないような美人だった。
「オマエは何者だ?」
過去にそう聞いた記憶がある。しかしアイツは答えもせず、ただただクックックッと笑っていた。
オレの兄貴はマッドサイエンティストだった。
実験中の事故で家を失った。火災だった。
その時にオレは1度焼死した。罪悪感から兄貴はオレを蘇生させた。
知り合いには「事故で」と説明するオッドアイになったのも、特殊なサングラスをかけるようになったのもそれからだ。
黒色の義眼の左目と白色に偏食した右目。内側が鏡になっているマジックミラーのような右目だけのモノクル。
――オレはヒーローになんかならずに、ただ社会に埋もれる凡人になりたかった――
モノクルにオレの右目の変色が映る。
考え事が悲鳴によって断たれた。
悲鳴の元へ駆け寄ると、異形の物が蠢いていた。
一目見たとき、オレの兄弟だと悟った。……いや、生みの親が同じだけと言うのが正しいのか。
「オマエも兄貴の作り物か?」
異形は応えない。
しょうがないが、倒すべきだろう。
人目があるところでは本当は避けたい。だが、こんなタイミングで出てくると放って置くわけにもいかないだろう。
「頼むぜ……。まともなヤツが来てくれよ……」
オレはクラスメイトがいることもお構いなしに、人差し指と中指をたて、どこかで見るようなポーズをとった。
『アタシの力が必要なの? クックックッ』
思ったより美しい声が脳に響く。その後にあのノイズな笑い声が続く。
『そんなに目立ちたがっているわけじゃないのにねぇ。どんな心変わり? クックックッ』
『うるさい』
『まぁいいよ。“いちどめ”はアタシがやってあげる。クックックッ』
アイツが体に憑くのが解った。勝手に体が動いて、オレ自身の二の腕を掴む。そのまましゃがむように姿勢を低くする。
「おいっ! どうした?」
「触らないほうがいい。今のオレは化物だからな……!」
圧し殺したような声を低く、低く唸るようにしぼりだした。それによってオレの異常事態に気づいたクラスメイトがオレと距離をおいた。
「ぅぉおおおおおああああああああぁぁぁああ!!」
咆哮がオレを包む。
『代わるよっ? アレ、倒しちゃえばいいんだよね? クックックッ』
オレの意識にアイツが干渉してくる。
――オレの意識は乗っ取られた。
クラスメイトがざわついている。
「オマエは……?」
その声に、2体目の異形がゆっくりと振り返った。
《そうだね。あの子にはうるさいって言われ続けてたし、ノイジーでいいよ》
男と女の声がダブって響いた。
《ノイジーはね、アレ、倒しにきたの。クックックッ》
ノイジーは異形を指差しながら、のどを鳴らした。
異形の前に躍り出ると、おどけたようにいないないばぁをした。
《クックックックックックックックックックックックッ倒してあげるクックックックックックックックックックックックックックックッ》
ノイジーは笑いながら、怪訝そうな眼差しを向けてきた異形の首を掴んだ。
そのままギチギチと首を締める。
《良い音たてるね、キミっ》
音をたて続ける異形は暴れることなく、グッタリとし始めた。
《終わり? ねぇ終わり? クックックックッ。クックックックックックックックックックックックックックックックックックックックックッ!》
異形が完全にグッタリとするなか、異形の笑い声が響き渡り続いた――
――これは物語の序章に過ぎない。運命の歯車は音をたてて、廻り出す……。
これは衝動に駆られた小説です。
ですが、ヒーロー物(特にダークヒーロー)は書いてみたいと思っていました。
タイトルにもあるとおり、プロトタイプです。続きが読みたいという方が居れば、連載として書いてみようかなと思っています。とりあえず、今の連載が終わってからになりそうですが。
追記)読み返してみたら思ったよりグロくなかったので、残酷描写タグ消しました。連載だとグロに持ってく気がしますが。