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すれ違う温度

「女王様の、抹殺!?」


クラウディアが目を剥いて聞き返してくる。

クラウディアは女王を人一倍敬愛していた。その証拠に一歩退いた彼女が腰に納刀した武器に手をかけこちらを警戒する体制となった。

今にも斬りかかられそうな圧を発する彼女との間には剣呑な雰囲気が漂う。


「それがどういうことかわかっているんですか?」


こうなることはわかっていた。

こんなことを言われれば、女王護衛のプロフェッショナルとして敬愛する母を守り続けてきた自分の存在を否定されたのと同義と取られても無理はない。

それでも私には戦う意思も理由もない。だから座ったまま私は続ける。


「クラウディアさん、あなたはリーゼルという兵士について何を知っていますか?」

「最強のメジャーワーカーと存じ上げています」

「そう、それしかわからないんですよね」

「どういうことですか...?」


私に戦う意志が無いと分かると臨戦態勢は解除したが、相変わらず鋭い視線を向けられ続けてるため険悪な空気は漂ったままだ。


――最強のメジャーワーカー。

私が調べても残っているのはこの肩書だけ。他に何を調べようともこれ以上の情報はなかったのだ。

記憶の中の母は街の人達とも普通に接していたし、なんなら私より母を知ってる人物なんてたくさんいてもおかしくないと思うのだが。


「10数年前まではいたはずなのに街の人間含め、ほとんどの人が彼女の存在をしらない。変だと思いませんか?」

「確かにそれ以上は知りません、それがなぜ女王様に関係するのです?」

「私はそれでもずっと母の情報を探し続けました。そして、一つの情報にたどり着きました。」


クラウディアはひとまず警戒を解いて椅子に座った。話を聞く気になってくれたようだ。


「母の失踪には女王が関わっていると。そこから更に私は調べ続けました。そして、母の情報はメジャーワーカー達によって秘匿されていると言う結論に至りました。最強を謳われる兵士にここまで大掛かりに何かをできる人なんて限られているでしょう?」

「それでも、女王様がリーゼル失踪の犯人だなんて確証は、、、」

「ありません。だから兵士になりました。正直兵士にならない選択もありましたが、一市民の情報集めにも限界がありましたし女王の腹を探るには兵士が一番かなと。女王が黒の場合を想定しつつ、情報を集めれば真実にたどり着けると思いまして」

「では、あなたの真の目的は女王抹殺ではなかったということですか?」


クラウディアさんが縋るように聞く。物騒な言葉で切り込んだが私の目的が母であったと思いたいのだろう。


「なら良かったんですがね。なかば決めつけですが、私は母の失踪に女王が関与していると知った時点で、復讐のために生きると決めていました。その時はもう事実なんてどうでも良かったのかもしれません」


クラウディアさん、望み通りの答えができなくてすみません。


「ではなぜ、結論に至ったのにまだ情報集めを?あなたの説明には矛盾が多い気がします。」

「兵士になって少し視点が変わりまして」


女王の寵愛で私の中に少なからず敬愛という感情がもたらされた。

まぁその感情が大きすぎて克服するのに苦労したんだが。


「寵愛のときに見た彼女が人を殺すように見えなかったというのもありますし、他のどの兵士に話を聞いても彼女が到底悪人だなんて思えなかったんですよ。だから直接会うなりして確かな証拠を得るしかないと考えたわけです」


気が変わっただけ、物は言いようだな。

だがこれ以上の答えはない。


「家族のためにあなたが何を思ったか、私には計り知れません。今は私達兵士があなたを踏みとどまらせていたと思っておくとします。」


色々思うことはあっただろう、でもここでは退いてくれるようだ。

彼女にとっては女王にの懐に潜り込んでいた異物なはずだろうに。


「結局私は何もできず、何も残りませんでした。今は何もやる気がありません」


女王は母を探せと言った。もしかしたら母を見つければ女王不在の黒の国に何らかの転機が訪れるのかもしれない。

しかし、私が国のためにそこまでする必要はあるのだろうか?


兵士になったときの心情は今でも残っている。

私は目標を持ってメジャーワーカーになった。行方不明になった母を探すために小さな頃から街中で情報を探しまわりたどり着いた結論が女王の抹殺を想定した、兵隊への就職である。


言い方によっては私は女王を殺すためにメジャーワーカーになった。

女王が死んだら国がどうなるか、誰よりも分かっているつもりだ。

女王が死んだ今、この場所、ないしこの国のために仕事をする意味はなくなってしまったのだ。


紆余曲折はあったものの当初の目標は達成されているのである。

誤算があったとすれば私が手を下していないから私自身が罪人ではないということである。

こうして想定外の時間ができてしまった。


―――――


コン コン コン


再び部屋の扉が叩かれた。今日の私はやたらと人気者だな。


「だれでしょう?」


暗い空気の中割るように入ってきた異音に拍子抜けしてしまう。

クラウディアさんも不思議そうな顔をしている。


コンコンコンコン


「ん?」


コンコン......バンッ


「......うわっ」


バンッババンダダダンバン......コン...コココンコン......バシーン


音で察した。人の部屋のドアで遊び始める人なんて知り合いに早々いるもんじゃない。

私は大きくため息をつくとドアの方へ向かった。


ダダンダンダガチャ


「おい」

「ヒッ」


自分の腹から思ったより遥かにドスの利いた声が出た。

思わずフレアからも声が上がる。


「なに?フレア」


...今のやり取りはなかったことにしよう。

一呼吸置いてにこやかな表情を浮かべたつもりだったが、フレアは「こわいよ」と言いたげだ。


お通夜状態の城の中、ましてや見張りの兵士がいる私の部屋でこんな奇天烈な行動をする人がいるとは。

でも彼女がこんな状況でも平常運転だと知れてかなり安心もしたのも事実だ。


「お嬢様、お迎えに...おっ、クラウちゃん。レナちゃんといるなんて珍しいね」


私の問いに対してなにかを答えようとしたが部屋の中にクラウディアさんを見つけたフレアはさっと彼女の方へ寄る。


「話はなんとなくだけど聞いたよ。災難だったね」

「お気遣いありがとうございます。フレア殿。レナ殿に用では?訪ねておいて無視するのは感じよくないですよ」

「そうだね。ごめんレナちゃん。クラウちゃんは特に女王様を尊敬してたから辛いと思って。」


フレアの横でなんとも言えない表情をしていたらクラウディアさんが気を使ってくれた。

フレアも自分の無礼を素直に詫びたのでこれ以上はなにも言うまい。


「私一人ではどうだったか分からなかったですが、幸いフレア殿のような優しい先輩方に励ましていただいたので」

「そっか。レナちゃんとなに話してたの?」

「レナ殿がこれからどうしていくのか伺いに来ました」

「そう、私もその件でおつかいにきたの」


フレアがここに来た本題を言う。


「レナちゃん、隊長がお呼びだよ」


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