一晩開けて
夜が明けた。
どれほど壮絶な夜を過ごそうが朝は平等に訪れる。
昨日の晩から兵士たちはおそらく一睡もしていない。
私もわけもわからないまま事情聴取など受けた後、
今は部屋のベッドの上で昨晩のことを考えている。
女王が死んでも思ったほか政治機関は元気だった。
城内の連絡伝達は早く、おそらく各部隊長に声がかかって現在進行系で夜通し会議が行われている。
兵士として城に身を置いてきた経験から考えても、最高決定権を持つ者のいない会議は難航するはずだ。
それと犯人探しをしているものは思ったほか少ない。
城の警備をかいくぐれるほどの実力と情報を持った人物に、誰も心当たりがない。
だから今は、犯人を探してもどうしようもないと判断されたのだろう。
女王が死んだ事実は犯人を見つけても改善することはないからな...
ちなみに無実を証明できている私はおそらく容疑者から外されているのだが、女王暗殺とは別件で聴取を受けている。
コン コン コン
誰かが部屋に来たようだ。また聴取だろうか。
ガチャ
「レナ殿、お時間よろしいですか」
「クラウディアさん、どうしました?」
「お休みのところすみません。少しお話しても?」
「はい、ここで話すのも何なので部屋に入ってください」
クラウディアを部屋に入れる際ちらっと扉の外を見ると、兵士が二人いた。
別に逃げやしないのに...
完全に容疑が晴れるまでは見張りがずっといそうだ。
見張りに軽く頭を下げると部屋の扉を締めた。
「昨日は取り乱してしまいすみませんでした。」
開口一番クラウディアさんが申し訳無さそうに言った。
彼女の泣き腫らした目を見れば精神的にしんどいなんてことは一目瞭然だ。
流石にあの致命傷では何をやっても助からなかったと思うが、自分にできることはあったのではと自責の念にかられているのだろうか。
「昨日は私がしてやられましたからね、人間らしいクラウディアさんを見れてよかったと思っておきます」
「ふ、あまり意地悪を言わないでください」
気にしてないよと、お前は悪くないよと、そう伝わっていればよいのだが、返答として乾いた笑いが帰ってきた。
「女王様の訃報で城内は騒然としています。かけがえのない人の死を前になぜあなたがそこまで冷静なのかわからないくらいですよ。」
女王から与えられる寵愛には、一種の洗脳に近い効果があると私は考えている。寵愛を受けた兵士は女王のことを心から愛するようになる。
大事な家族が死んだような感覚を各々が感じていることだろう。
別に私は寵愛の効果を克服しているわけではないが自制心で耐えていると言った感じだろうか。
「私も状況を飲み込んだ今かなり堪えていますよ、同じ場所にいたクラウディアさんならわかるでしょう?」
「すみません。何も思わないはずがないですよね」
クラウディアさんがバツの悪そうな顔をしてあやまった。
彼女だけ辛い訳では無い、そんなことは当たり前なのだが彼女が女王と積み重ねてきた時間も本物だ。私より思うことが多いこともあるのだろう。
「レナ殿があのリーゼルの娘とは知りませんでした。」
「だと思います。私が小さい頃にいなくなって、ずっと孤児として育ったので」
「そうなんですか、嫌なことを聞いてしまっていたら申し訳ございません。」
「全然、構いませんよ」
「このことを知っているものは限られます。女王様の遺言でもありますし、隊長たちの議題にもなっているはずですが今は他言無用と伝わっていると思われます」
リーゼルこと私の母はこの街では有名人である。過去最強と謳われたメジャーワーカーらしいのだが、それ以外の情報がどこにもない。
そして、女王の遺言として母の情報が出たことによって、私の聴取が終わらなかったのだ。
私としても、5歳程度まで一緒にいたが忽然と姿を消した母の情報が欲しくて仕方がないのだが。
「レナ殿、これからどうするおつもりですか?」
私の顔を直視してクラウディアが続ける。
まっすぐな瞳に私は私が映っており、後ろめたい気持ちがあるわけでもないのにたじろいでしまう。
「...まだ、わかりません」
いまいち煮えきらない態度の私に対して、そうですかと返事をしてクラウディアさんが続ける。
「それでは一つ、教えてください。あなたは何を目的としてメジャーワーカーになりましたか?......何か、隠してますよね?昨夜の出来事と、あなたの態度を見ていて、どうしても聞かずにはいられませんでした。」
よくある面接みたいな質問をされた。
しかし、真意をついている。身寄りのない私がなんのためにここまできて何をしたかったのか、気になって当然だ。
何が目的か...
思えば誰にもバレないように生活してきたな。
長年やってきて事実でもあるから、そこそこの所得でダラダラと暮らしたかったとはぐらかしても良かったのだが、クラウディアがあまりにも親身になって聞いてくれるから話しても良いなんて思ってしまうのだ。
それに、もしかしたらもう隠す必要なんてないことなのかもしれない。
深く深呼吸をする。
この選択で今後の私がどういう身の振り方をするのか決まってくるかもしれないからだ。
「突発的なことを言いますが、私の目的はすでに達成されています。」
「それはいったい?」
互いの緊張感で二人の間に張り詰めた空気が漂う。
「―――私は、女王を抹殺するために兵士になりました」




