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子供は元気

さて、冷めないうちに食べよう。

ジュースも買ったし今度こそゆっくり食べよう。

いただきます。

先程食べかけだった部分を食べると、少し喉が渇いたのでジュースを飲む。


まんまとカモられて買ったジュースだが、かなり肉に合う。

りんごやオレンジを感じる味だが、濃くなりすぎないように程よく希釈されていて、油っぽい肉に対してかなりスッキリすることができる。



じっ...


肉を食べようと思っていたのだが、視線を感じた。

目を向けると正面で子供が物欲しそうにこちらを見つめている。

まあ気にせずに食べようか。


じーっ


うわぁ...気になるなあ。


じーっ!


「だめだ!」

視線に耐えかねた私は子供の方へ顔を向けた。


銀髪碧眼の少女はこちらの視線に気づくと隠れようとしたのか少し慌てたあと隠れ場がないことに気づいて、軽く頭を下げると立ち去ろうとした。

逃げたところで所詮子供だ。少女の前に回り込む。


「わわっ、ごめんなさい。特に用とかじゃ」


私を怒らせたと思ったのだろう。あたふたして顔からは血の気が引いていく。

私そんなに迫力あったかな。少しショックを受けた。

まずは彼女の緊張を解かないと。

体勢を彼女の目線に合わせるようにして聞いてみる。


「怒ってないから、なにかあった?」

「いやぁ、あはは、美味しそうだなって...でもごめんなさい食事の邪魔をしてしまって」


彼女は私の手元の食べ物のことを言うと、もう一度謝罪した。

兵隊だからってそこまで畏まる必要はないと思うのだが。

でも目は正直でずっとフォレストブルの肉を凝視している。


なるほど。たしかに子供じゃ手を出しにくい価格だったもんな。


「食べかけだけど、これ食べる?」

「良いの!?」


返事が早い。やっぱり本当は正直ですごく元気な子なんだな。

なんか食欲も失せたしあげちゃってもいいや。


「この街の子?詳しいならこの辺の案内してほしいんだけど」

「家はトルマですが、ここらへんはよく来るので案内できると思います。そんなことでいいんですか?」

「よろしくー」


私より地理に詳しい人に案内をしてもらったほうが一日暇をつぶせるかと思って提案してみた。

おずおずとしながらだけど返答してくれたので、素直に乗っかることにした。となり町出身でも普段来ない私よりずっと詳しいだろう。

そしてもう一度さっきいた場所に腰を下ろすと少女に食べ物を渡す。

少女は目を輝かせると、大口を開けて肉にかぶりついた。


「んむー!」


美味しそうに食べるものである。

話しかけようと思ったが、食事を堪能しているようなので少し待つことにした。



「ぷはー美味しかった。ごちそうさまでした兵隊さん」


ジュースまで飲み干した少女は満足そうにしながらお礼を言った。


「外の食材なんて滅多に食べれないから、本当に美味しかったです。」

「喜んでもらえてよかった。今日本当に予定空いてる?」

「大丈夫ですよ」


子供が仕事をしていることはあまりないが、一応食べ物につられて予定がめちゃくちゃになっていたら可愛そうなので聞いておく。


「あと別に敬語じゃなくていいからね」

「ええと」

「別に決まりがあるわけじゃないし」

「うーん。わかりまし、わかったよ?」


少女は詰まりながら答えた。

ぎこちないがすぐ慣れるだろう。

子供にかしこまられるとこっちも気を使うしある程度親しい方が私も気が楽というものだ。


「じゃあよろしくね、ええと」


そういえば名前を聞いてなかった。


「私はマヤ、よろしくねお姉ちゃん」


私が先に名乗るべきだったと少し後悔。


「こちらこそよろしくねマヤちゃん。私の名前はレナ、一応兵士です。」

「そう、レナお姉ちゃんは兵隊さんなのに制服じゃないの?」

「今日は休日だから制服着たくなかっただけだよ」

「そっかぁ、いつもおつかれさま」

「ありがと」


素直にねぎらってもらうことがあまりないので少し照れくさい。


今日は制服を着てこなくて正解だったな。

確かに他の兵隊と比べても私の所属する部隊の制服は少し目立つ。

他にも制服が目立つ部隊はあるが、私がいる隊ほど希少でもない。

まぁ、レアキャラですね。

道行く人達の反応から見てこっち方面にはおそらく同じ隊のメンバーは来ていない。

一日羽根を伸ばすとしよう。


「じゃあ、さっそく、案内って何すればいいの?」

「暇つぶしがしたいだけだから、どこか散策できない?」

「はーい」



マヤちゃんは「どこ行こうかなぁ」と言いながら歩みを進める。

迷っているようでなんとなく行き場所は決まっているらしい。躊躇なく市場を抜けると路地の方へ入っていく。

マヤちゃんについていくと街の風景は一変した。先程まで行き交う人や商人で賑わっていたのが嘘のように静かな場所に出る。

代わりに全体の生活感がぐんと増した。決して裕福な感じではないが、確かな人の営みを感じられる良い場所だと、私はそう思った。


「あら、こんにちはマヤちゃん」

「こんにちは、おばあちゃん」


通りがかりの家の窓があいて老人の姿が目に入った。

周辺はおそらくマヤちゃんの行動範囲だから知り合いも多いのだろう。マヤちゃんは正直でとてもいい子だから、ここらでも人気だろうな。

人の良さそうな老人はマヤちゃんに挨拶をするとこちらにも会釈をした。


「こちらは兵隊さんかい?」

「うん。兵隊のレナお姉ちゃんです。とっても優しいんだよ」

「そうかい。今は何をしているんだい?」

「お姉ちゃんは今日お休みだから、ここらへんを散策したいんだって。だから案内をしているの」


マヤちゃんがかいつまんだ説明をしてくれる。

おばあさんは子供が嬉しそうにしているものだから、微笑んで話を聞いてくれた。


「おっと、引き止めちゃいけないね。じゃあマヤちゃん、お姉ちゃんをしっかり案内してあげるんだよ」

「はーい」


そこから何回か同じようなやり取りがあった。

やはりマヤちゃんは人気者のようでそこかしこで立ち話が始まる。

それでも嫌な顔ひとつせずにいろいろな人と世間話をできるのは才能だろう。



「ここが牧場だよ」


マヤちゃんが最初に向かったのはまさかの牧場。

現在いる箇所はブラドの東端に位置していて、斜面になっているため外壁も他の箇所より少し低い。日当たりの良いここら一帯は街の他の箇所より畜産家や農家が多い。


かなり意外だった。一体なぜ牧場?

羊が遠くで草を食べているのがみえる。


最初は何らかの娯楽か買い物に行くんじゃないかと思った。

まぁ、立場上街の施設関係はなんとなく頭に入っているから、予想外な場所のほうがありがたかったりするのだが。


そこから更に歩いて行く。

そこでも何回かマヤちゃんの知り合いに出会った。

この娘顔広すぎませんかね。

通行人たちに牛乳などももらったが、流石に申し訳ないと思ったので、気持ち程度でお金を渡しておいた。


牧場からも遠ざかった頃になにか見えてきた。


「へー」


思わず声が出た。

街の東端にある牧場の北端。私は城から南東を目指したから、つまり城の東南東辺りだろうか、山の崖があるだけだと思っていたのだがそこには崖を削り出しで作ったかのような物見台があった。

兵士が知らないということはここに土地を持つ誰かが建てたということだろう。

周りを見渡してみるが人の気配、ましてや兵士の気配など全く感じない。

街からは岩場によって死角になっているし、外壁からでも外から大きく迂回しないと見つからないような場所にある。

文字通りの穴場というわけだ。


「ここの高台からは街も外もよく見えるんだ。半年前に見つけて遊び場にしてるんだ」


はしごから高台に登ったマヤちゃんがこっちにおいでよーと言っている。


「10メートル弱か。」


私ははしごを使わずにそのまま高台に飛び乗った。


「へぇ、やっぱりお姉ちゃんはすごいね」

「普通だし、あんまり褒めないで」


マヤちゃんが驚きながら手を握り込んでくるが、軽く流した。

細かいことで毎回褒められていたら、反応に疲れてしまう。


「常人は高台に飛び乗ったりしません、見たらそりゃなにか言うよ」

「ごもっとも」


これ以上言い訳をするのも面倒なので、話を勝手に切り上げて周りを見渡す。

これは、思ったよりすごいな。

ほんの少し高いところに登っただけで景色はガラッと変わった。

流石に城の方は崖に阻まれて見えないが、私が朝通った広場の方から街全体が見渡せるようになっている。

そして何よりも、高低差により街の外の景色が結構見えるようになっている。


「すごいでしょ、ここ」

「すごいね」


マヤちゃんが得意げにしている。

たしかに景色がすごいのは認めるが、なにか少しだけ引っかかるものがある。そして疑問が湧いてきた。


兵士が知らない、というだけで十分におかしい。

地の利を取れる場所を、見逃すほどこの街の兵士は甘くない。


誰がいつ、何のために作ったのか。

考えれば考えるほど、理由が見つからなかった。


...まぁ、今日は休みだ。

この違和感は、胸の奥に押し込んでおくことにするか。


今日は働くつもりはないのだが、ついつい仕事モードになってよくないね。

私がこの場所を見つけたとしてすぐにどうこうするというわけでもないので、今日ここで見たものはなかったことにしよう。

今日の私には報告義務も何も無いのだ。

それに私が報告してこの場所が封鎖されたらマヤちゃんに申し訳ないしね。


「お姉ちゃんどうしたの?」

「ううん、大丈夫だよ。こんな場所どうやって見つけたの」

「どうだったかなぁ。近くで遊んでて通りかかっただけだと思うよ」

「へぇ」


ひとまずここは現状ただの子供の遊び場だ。



「おーい」

「?」


遠くから声が聞こえた。

声の方向に視線を向けるとマヤちゃんと同じくらいの男の子と小さな子供が数人いた。


「あっ、おーい」


マヤちゃんもそちらに気づいたようで、元気に手を振ると高台から降りてそちらへ走っていった。

一人でここにいてもしょうがないから私も高台から飛び降りるとマヤちゃんをゆっくり追っていく。


「うおっ、誰かいると思ったら兵隊じゃねえか。マヤ、お前何しでかしたんだ」


少年が私のことを認識すると目をひん剥いてマヤちゃんにそういった。


「失礼でしょ、この人はレナお姉ちゃん。休みで街を散策したいらしくてここらへんの案内をしてたんだ」

「そうなのか。てっきりあの場所で遊んじゃいけなくなるかと」


少年がそう言うとマヤちゃんは少し考えて青ざめた顔をした。

そりゃそうだ、私が子供でも秘密の遊び場に大人を連れてきたりはしない。

自分の浅はかな行動で子どもたちの遊び場がなくなったらきっとマヤちゃんは今日のことをとても後悔するだろう。

マヤちゃんはこちらを向くと上目遣いで何とも言えない表情をした。


「...あはは、大丈夫。今日は休みだし、ここで見たことは他の人に言わないよ」

「ありがとう!お姉ちゃん」


マヤちゃんに頼まれたら何も言えないな。さっきの表情にはそれだけの魔力があった。


「改めまして、レナです。兵隊やってます」

「さっきは不躾ですみません。俺はラルグって言います。親方からマヤを探してくるように言われて、ここに来ました。途中でここに来るチビ達に捕まっちゃいましたが」

「大丈夫だよ。今日はどうやってここに?」

「マヤの親の職場で見習いをやってまして、今日は勉強でトルマからついてきました。」

「しっかりしてて偉いねラルグくん。」


10歳と少しだろうか、マヤちゃんも少し抜けたところがあったがラルグくんもしっかりしたとてもいい子だ。


「今日リーチェは?」

「仕事手伝ってるってよ」

「へぇ、珍しい」


もう1人名前が出てきた。トルマの子どもたちの年長グループだろうか。

彼らもそろそろ職が決まって自由な時間が減ってくる。次のガキ大将が必要なんだろうなと別のことを考えているとラルグ君といっしょに居た子供の1人が口を開いた。


「姉ちゃんって強えの!?」


元気で一直線な質問だ。さすがは子供歯に衣着せぬ発言が実に気持ちがいい。

さて、子どもたちの純粋な質問になんて答えようか。


「レナお姉ちゃんはとっても強いんだよ。さっきだって高台にそのまま飛び乗ったもん」


なんでマヤちゃんが自慢げに回答しているんだろう。

子どもたちからは「ええー!」とか「かっこいい!」とか感想が漏れているが、そんなにか?とりあえず些細な事で騒がないでほしい。恥ずかしい。

普段あまり兵士を見ていないのだろうか、最近街でも大きな戦闘は起きてないようだし、兵士について知ってもらわないとだめかもしれない。


「遊んでよ!!」

「あっ、こらー」


子どもたちに囲まれて、勝手に鬼ごっこが始まった。

マヤちゃんの静止は無駄だったようで私が鬼にされていた。



結局遊び相手になったまま一日を半分程度消費してしまった。

全力で来る子供達の相手をしていたものだから、気分的に疲れた。

うん、すっごく疲れた。


元気な子供は兵士よりも強いかもね。

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