力の代償
「アルマさん、一体何を言って?」
...理解できない。
二人の反応からマヤちゃんの存在がごっそり消えているような言い回しに驚愕の声が漏れた。
「あら、私なにか変なこと言ったかしら?」
――これは、いや認めない。
「...二人に子供っていますよね?」
「急にどうした?居るじゃないか、アルマのお腹の中に」
「ええ、ようやくできた一人目、無事で本当に良かったわ」
――――認めたくない。
「俺からもそのマヤさんにお礼を言いたい。さっき嬢ちゃんが言っていたようにここに顔を出すんだよな?街を救った英雄と命の恩人が居るんだ。昨日の被害から大々的にはできないが、我が家の中だけでもお祝いとお礼をさせてほしい」
「ええ、腕によりをかけてお料理しなきゃ」
――――――認めちゃいけないんだ。
街で頑張って戦ってみんなを助けた。そんな健気な子がなんでこんな仕打ちを受けなくちゃいけないんだ?
「...ああ、ダメだ......」
必死に感情を抑えているつもりだが、自分の目元が熱くなっているのが分かる。
そんな様子に二人が心配そうな顔を向けてくる。
本当に優しい。
こんな人達が自分の娘に酷いことをできるわけがない。
だめだ。
今の私じゃこの二人を責めることはできない。
時間が経てば少しは受け入れられるかもしれない。でも今の二人には、何を言っても通じない。
そう理解してしまった。
――二人からマヤちゃんの記憶だけなくなってしまっている。
原因なんて一つしか考えられないだろう。
この二人に共通することなんて一つしか無いんだから。
だから認めたくない。マヤちゃんの力にこんな副作用があるなんて。
マヤちゃんがラルグくんを訪ねて結構経つ。
私の予想が当たってしまわないことを祈るしか無い。
――ガチャ
「ただいま」
マヤちゃんが扉を開いて家の中に入ってきた。
急いで帰ってきたのか息は切れていて、その表情は涙に濡れていた。
入ってきてアルマさんとビョルンさんが起きているのを見かけると、表情が明るくなった。
そして、次に私の表情を見て固まった。
「ママ!」
マヤちゃんは勢いよく走ると、私の座っている椅子を通り過ぎて、アルマさんに勢いよく抱きついた。
アルマさんの胸に顔を埋め、号泣する少女を二人は不思議に見つめている。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?ここらじゃあんまり見ない顔だけ...」
「ビョルン!...大丈夫よ」
アルマさんがビョルンさんの言葉を制した。
胸元で涙を流す少女をそのままにしてあげろと言っている。
マヤちゃんも「なんで」「どうして」とただ繰り返して叫ぶ。
みんなのためになるなんて子供には大層な夢だ。
今、こうして泣いているほうが、よほど年相応に見える。
――何を考えているんだ、私は。
マヤちゃんが泣いているのを見て、そんなことを思ってしまう自分を殴りたくなる。
「あなたが、マヤさんね?私達を助けてくれて本当にほんっとうにありがとう。」
頭を撫でながら言葉を発するアルマさんの言葉にマヤちゃんはただただ泣くことしかできなかった。
――――
そうしてマヤちゃんが泣き疲れた頃に私は二人に声をかけた。
「すみません。実はこの子も私と同じで少しの間居場所がないんです。私が居る間で良いので、この子も一緒に寝泊まりさせていただけませんか?」
「命の恩人が困っているとなっちゃ断れんな。部屋は余っているから好きに使ってくれ」
この家で今余っている部屋なんて無い。でも、マヤちゃんの部屋が記憶では空いているということになってしまうのか。
悔しさに歯を食いしばった。
ただ今は休ませてあげたいと思って聞いたが、追い打ちのように事実確認させてしまった。
「...」
マヤちゃんは気力なさそうに自分の部屋へと戻っていった。
「いきなりごめんなさい。私も今日は休みますね。二人も病み上がりなんですからしっかり休んでくださいね」
二人はまだ色々話したがっている様子だったが、私も居た堪れない気持ちになって立ち去りたくなってしまった。
笑顔の二人をよそに、私も立ち上がって自分の部屋に戻ろうと歩き始めた。
昨日の話はいつでも良いから今はただマヤちゃんが心配でたまらない。
「マヤちゃん...」
マヤちゃんの部屋の前で立ち止まった。
ドアの向こうから、小さな嗚咽が聞こえてくる。
手を伸ばしかけて、やめた。
「今の私に、何が言えるだろう。」
結局言葉をかけることができずに、今日も終わっていった。
※更新間隔が少し空きそうです。
よろしくお願いします。




