おはよう
夜が明けてしばらくして昼になる。
私は数日間の気疲れで眠ってしまったが、マヤちゃんは目覚めた後に、付きっきりで二人の看病をしていた。
ラルグくんは家で家族に看病されているとのこと。
眠気に抗いながらも起き上がった私にマヤちゃんが話しかけてきた。
「おはよう。レナお姉ちゃん。」
「マヤちゃん。ごめんね、私だけ寝ちゃって」
「大丈夫大丈夫。街を守ってくれた英雄様にはしっかり休んでもらわないと」
「やめてよ」
昼下がりにいつものようにだらけた会話をしてようやく家に帰ってきたような感覚がしてきた。
昨日まで寝る間も惜しんで移動していたし、家を出てからちゃんと休むこともなかったからなぁ。
そうだ。ニグル山の件や今回の騒動の件で隊長に話をしておかないと。
バタバタしててまた忘れそうだから、昨日の今日だけど顔を出そうか。
隊長はまだトルマにいるかな?
なんて考えてると、マヤちゃんが顔をうつむかせて口を開いた。
「私ね、昨日みんなが倒れるまで何もできなかったんだ...」
「そうなの?沢山の人達の避難を手伝ったって聞いたけど」
「ううん、みんなそうやって言ってくれるけど、結局獣相手に動けなくなってみんなを危険な目に合わせちゃった」
やっぱりマヤちゃんなりになにか負い目を感じてるんだろう。
戦うことが全てじゃないし獣相手に一般人が動けなくなるのなんて当たり前だと私は思うけれど。実際に目の前で身近な人が傷つくのを見たら心境穏やかじゃないだろう。
「昨日も言ったけど、ずっと考えてたんだ。私には何ができるんだろうって。昨日ママやパパを見てみんなを守れるようになりたいって思ったんだけど、その前からそろそろ年齢的にリーチェみたいに仕事が決まって、そうしたら自分がどうありたいんだって勝手に見えてくるのかななんて漠然と考えてて...それでいざ、こうやって使える力が手に入ったら、自分がわからなくなってきちゃった。」
「そういうもんだよ。新しい生活に不安になること、ましてや危険が伴うような仕事に不安を感じないなんて絶対に有り得ないよ。それでもマヤちゃんはみんなを守りたいって思った。消極的に兵士になった私よりもずっとずーーっとしっかりしてるよ。だって周りの子達に自分の将来について考えている人なんている?」
「他の子達はまだ小さいし、リーチェは気がついたら居なくなっちゃったし、ラルグも本当はどう考えてくれてるかなんてわからない」
「私の直感だけど、ラルグくんはそこまで深くは考えてないよ。他の子達だって。私としてはね?子供のうちは、迷っていいの。頼るために私達大人がいるんだと思ってる。今のマヤちゃんには余裕も時間も無いのかも知れない。けど、私にできることなら何でも手伝おうって思ってるよ」
私の少ない人生経験で何を語れるわけでもないけど、私の小さな頃よりもマヤちゃんは本当に良い環境で過ごせていると思う。友達としてこの生活を守ってあげたいんだ。
「そういうものなのかな...あのね?わたし、兵士になりたい。その、手伝ってくれますか?レナ先生」
「先生はやめて」
「お姉ちゃんが小さい頃ってどんな風だったの」
「うーん、そうだな...」
ドン、ドン
話の途中だけど、ここでドアが叩かれた。
「はーい」
マヤちゃんが慌ただしく玄関の方へ向かって行ってドアを開いた。
近所の人だろうか、マヤちゃんと何かを話している。マヤちゃんの様子からなにか吉報があったんだろう。
「ありがとうおじちゃん。すぐ行くから~」
そう言って一旦ドアを締めたマヤちゃんがこちらへ走ってきた。
とても安堵したような顔でいるため、こちらも身構えずに話を聞ける。
「ラルグの目が覚めたんだって」
「本当?」
「うん。ちょっと様子を見てくるね。お礼も言いたいし。」
「わかった。じゃあ二人の様子は私が見ておくよ」
「ありがとう。じゃあ行ってきます!」
本当に嬉しそうな様子でマヤちゃんはドタドタと防寒着だけ着込むと、外へ飛び出していった。
私は二人の様子を見るように約束したので、マヤちゃんが座っていた椅子に腰掛けた。
ラルグくんが目を覚ましたってことはそろそろ二人も目を覚ますよね。
マヤちゃんも二人を気にする素振りを見せていたので私がラルグくんのところへ行っても良かったのだが、やはりマヤちゃんも命の恩人に直接お礼が言いたかったんだろう。
「...」
――今回の一件は収束に向かっている。
ここまで起きてきたけどやはり精神的な疲れが抜けていない。
椅子に座ったままでもう一度まどろみに身を預ける。
「...」
――――
30分くらいほど経過しただろうか、なにかの話し声に意識が覚醒していく。
「ん、、う」
「おっ、嬢ちゃん。起きたか」
「おはよう、レナちゃん」
「え?...あ、はい。おはようございます?」
ガッツリ寝てた。
私が寝てる間に二人の目が覚めたようで、二人に覗き込まれるような形で私も覚醒した。
二人はとても冴えた表情をしており、昨日まで生死をさまよっていたとは到底思えないような様子をしている。
私はといえば。
「あー...えっと...元気そうで良かったです。」
見張る側が起きた怪我人に起こされてちゃ世話ないよ...
二人が無事に目覚めて嬉しいけど、なんというか出鼻をくじかれた感じでうまい言葉が出てこない。
「ぶっ。なんだ、嬢ちゃん。かわいい寝顔だったぞ?」
なんとも言えない私の滑稽な様にビョルンさんが吹き出した。それにつられてアルマさんも私もおかしくなって笑ってしまい、少し前まで静寂に包まれていたこの家が一気ににぎやかくなった。
――最初から最後まで締まらないけど、こんなのも私らしくて良いんじゃない?と思った。
ひとしきり笑ったら、今度こそ二人の様子を確認する。
「体調は問題なさそう?」
「おうっ。おかげさまで今すぐに働けるくらいピンピンしてるよ。昨日獣たち相手に戦った辺りからあんまり記憶がないんだけどな。アルマは?」
「ええ、私も元気よ。ただ、昨日あんなに激しい動きをしちゃったからお腹の子が心配で、」
「それなら問題ないようですよ。衛生部隊隊長のお墨付きです。」
「ええ?レイチェル隊長の?...よく見てくれたわね。」
昨日解散したあとにアルマさんのお腹の子供が気になって帰り支度を始めていたレイチェルを呼び止めたのだ。
若干引きつった顔をしていたが、ちゃんと診察をしてくれたし、母子ともに問題ないと判断された。
なんだかんだ面倒見の良いレイチェルに隊長の風格をとても感じた。
それに隊員に信頼されているのも分かる。元隊員のアルマさんがレイチェルの名前を聞いてとても安心している様子がもう答えなんだろう。
「それにしても最近の治療技術って進歩したのね。私がいた頃じゃ昨日の怪我なんて致命傷だったし、私自身死を覚悟したのよ?」
「俺も思った。かろうじて生きてるとかじゃなく、傷口一つもないなんてすごいよなぁ...」
そうか、二人はマヤちゃんが力を使ったことなんて知らないもんね。
どこから説明していこうか。
「えっと、驚かずに聞いてくださいね?」
「どうした?」
「ビョルンさんとアルマさんを治療したのは、衛生部隊じゃなくてマヤちゃんなんです。ワーカーの能力で二人と、それからラルグくんを助けたんです。」
二人はキョトンとして聞いている。
そりゃあ、娘が急にワーカーになったなんて聞いたら、理解に時間がかかるよね。
「これからマヤちゃんの話もしなきゃなんですけど。今はラルグくんが目覚めたみたいなので様子を見に行っています。もうすぐ帰ってくるとは思うんですが。」
「おお!そうか、ラルグも助かったか。良かった!!」
...あれ?
何かが胸の中で引っかかる感覚になった。
私の疑問を他所にアルマさんが明るい声でこちらに質問をしてくる。
「その、マヤさん?って人にもお礼を言わなきゃね。兵士をやっているのかしら、レナちゃんの知り合いなのよね?」
「...え?」
※次話より更新間隔が少し空きます。
気長にお待ちください。




