表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/37

今後の選択

まずいなぁ。

相手に敵意を向けた状態だけど、非常に参っている。

マヤちゃんのことは私だって分かっていないのに、かばうにかばい切れるだろうか。



...状況を整理しよう。


マヤちゃんが力を使う様子をメジャーワーカーに見られた。

相手は衛生部隊隊長のレイチェル。切れ長の目に白色の縦ロールを引っ提げたいかにもな感じの衛生兵。

規律と国の保全のために平然と人命を切り捨てるようなやばい女だ。こんなのにマヤちゃんを1人で渡せるわけがない。


「聞こえてるのでしょう?何度も言いませんよ、その子供をこちらへ渡しなさい」

「はいはい。聞こえてますって。あなたが何を見たか知らないですが、訳も説明せずに被害者を拉致しようなんて都合の良い話はありませんよ?」


苦しいけどシラを切っておく、一般人は掃けられてしまったので、良くも悪くも証人が居ない。


「その子供が、特殊能力を使ったのは知っています。ここにいる私の部下達が何よりの証拠ですわね。女王様不在でメジャーワーカーが生まれた事実、そしてこの圧倒的回復能力、どちらにせよ野放しにはできません」

「それは兵士の都合でしょう?あなた方が女王の情報を秘匿したばっかりに、住民の危機感が欠如してそれを逃がすために走り回っていたのがこの少女です。なぜあなた方の無能で被害を被った一般人をどうして蔑ろにできるのです?」

「あなた...目上の人に対する礼儀というものがないんですか?」

「少なくとも、今日前線に居なかった方にはありませんね」


「ちょっと待つんだ、ふたりとも」


私が尽くに悪口を言って一触触発の状況が完成していたのだが、間に割り込む形でチカゲ隊長が入ってくる。


「レイチェル隊長殿、お疲れ様です。私も今ここに来て余り状況を知らないのだが、話を聞かずに一般人を捕縛するというのは些か問題では?」

「あら、これはこれは、マグナスヴィネアに単身乗り込んだ挙げ句倒せずにおめおめと帰ってきたチカゲ隊長殿ではないですか。私に忠告する前に、部下の躾をなさったほうが良いんじゃなくて?」

「部下の無礼については申し訳ない。後で私からも言っておく。それで、こちらの少女についてだが、」


隊長はいつもこんな人達の相手をしているのか...大変って言ってる意味がわかる。

ここぞとばかりのタイミングでいつも面倒事を押し付けてしまっていて申し訳ないとは思っているが、今回も助けてもらえるとありがたい。


「別にあなたの判断を仰ぐ必要はないでしょう?前例のないワーカーの誕生。救出不可と判断された患者の治療。今後の国の発展にこの子供の力が必要だから身柄を拘束させてもらって体を調査させてもらうってだけじゃない?」

「ならなおのこと慎重に事を進めたほうが良いんじゃないか?少女の体に何が起こっているかわからないならすぐに負荷がかかるようなことはせずに様子を観察するべきだし、私達は非人道的な組織じゃない。まずは彼女のメンタルケアから行ってから本人の同意を貰ってから調査に入るべきでは?」

「あなた、何も考えていないのね?綺麗事ばっかり。まず、この街に新たなワーカーが誕生する意味がわかるかしら?」

「女王様亡き今、新規で寵愛を施せることがないからメジャーワーカーが増えないってことだろう?」

「それだけじゃないでしょう?女王様は何者かに暗殺されたの、犯人の目的が暗殺ではなく国家の転覆だとしたら、この子供を野放しにしておく危険性がどれほどのことかわかるでしょう?」


確かに...私もマヤちゃんの立場になって考えていたけど、現状何も解決していないんだ。

視野が狭まっていた自分自身を少し反省。

隊長をやっているだけあってレイチェルも色々な事に気をまわせるのだと感心してしまう。


...それでもマヤちゃんを渡すつもりは微塵もない。いつレイチェルがマッドサイエンティストに豹変するかわからないから。


私が交戦する姿勢を取っていると意思を汲み取ってくれたのか、隊長も落とし所を探してくれているようだ。


「ここには現時点で最強のメジャーワーカーがいる」

「それがどうしたの?そこの子供のほうがよっぽど重要人物よ?」

「このレナという兵士、私もとても手を焼いていてな。」


そうだったの?

いや、うん。そうだろうね。ごめん。


「今日はたまたまここに居てくれはしているんだけど、休みたいとか言って休職中なんだ。」

「この状況に無責任な...」

「だろう?それで私もどうやって連れ戻そうか考えていたわけだ」


レイチェルも隊長が急に何を言っているのかわからない様子だ。

私も今のところ隊長に文句を言われているだけでなんとも言えない気分になってくる。


「この少女のこと、まだ他の隊長や兵士たちに広めるのはまずいという認識でいいだろうか?」

「そうね。仮に兵士に女王暗殺の犯人が居たら、この子供の安全は保証できなくなりますもの。だから秘密裏に私達で保護しようとしていたのですが、あなたの部下に邪魔されてしまいまして。」


嫌味ったらしくレイチェルがこちらに視線だけ向けてのたまった。

そうやって怪しいところに隔離されてどうなるかわからないから渡したくないって言ってるんだけど。

険悪そうに視線を交わす私達を隊長が不機嫌そうに見たが、そのまま話し始める。


「じゃあ、このレナに連れてきてもらえば良いんじゃないか?」

「「え?」」


私とレイチェルから素っ頓狂な声が出た。

隊長はそんな私達の様子を一瞥しながら続けた。


「こいつの強さは知っているだろう?」

「私、この方が戦っている姿を見たことがありませんのよ...まぁ、不服ですが、戦績だけでもリーゼルの子供と納得せざるをえないほどの力ではあるわね」

「それで、私もこいつを連れ戻すタイミングを伺っていたわけなんだが、口実がなくてな」

「はぁ」


隊長が勿体つけたような言い方をしている。正直回りくどい会話に少しイライラしている。

言っている本人も私達の感情を読み取って会話を次に進める。


「これから冬になる。今年は女王様も居ないことだし、少女を調べようと思っても準備に春ぐらいまでかかるんじゃないか?」

「それはそうですわね。住民も薄々気がついていると思うけれど、私達が仕事をしようにも恒久的に素材が不足しております。」


恒久的な素材の不足。

私がビョルンさん達と採掘に行っていたわけだし、これについては身にしみてよく分かる。


「襲撃の件もあるし、少女の解析が後回しになるなら、この兵士に鍛えて貰ってからいっしょに来てもらえば良いんじゃないかと思ってな。

ワーカーになったものをそのままにはできないだろうから兵士になることを前提として、どうせなら戦力として入ってもらったほうが得だろう?春になればレナの休職半年の期限もだいたい丁度だ。」


マヤちゃんを兵士にする?

本人の意志を確認せずにトントン拍子で話を進めようとしている隊長は、このレイチェルと何ら変わりないように思え、怒りが込み上げてくる。

それでも私は無言で話を聞いた。そして、早とちりしないようにゆっくりと思考を整理する。

私がどれだけわがままを言っても、いずれマヤちゃんは自分と向き合わなければいけない。答えを決めるのは私じゃないのだ。


よくよく考えてみれば逆に隊長は今すぐに結論が出てしまわないように、時間を作ってくれようとしているんじゃないだろうか?

マヤちゃんの近くに私がいれば安全なこともあるが、隊長の目が行き届いているという話になれば、マヤちゃんの情報が漏れたとしても他の隊から手出しはし辛くなる。


それに、本人に聞いてみないとわからないけど、私がその立場だったら保護されるより、兵士になりたいと思うのだ。



レイチェルも黙り込んで考えを巡らせている。


「今できないことを深く考えるのは得策じゃありませんね。それにこの兵士とは敵対したくはありませんし。」

「それじゃ」

「ええ、この場はあなたの判断に従いましょう。それと、ここで起きたことは一切の他言無用とします。外部に漏れたら、衛生部隊と遊撃部隊どちらかにしか犯人が居ないことになります。」

「私が勝手に言ったことに譲歩してくれて助かる。レイチェル隊長。」


頭を下げた隊長に、キッと睨まれる。


「ひっ...」


怖い。今まで見た隊長の中でもかなりの圧。


「ありがとうございますレイチェル隊長。それと、先程は生意気な物言いをしてしまいすみませんでした。」

「あら、謝ることができたの。それでは、長居するつもりはありませんの。ごきげんよう」


粛々とした様子でレイチェルが去ると、場の緊張が解けた。


「おまえ、少しは考えてくれ」

「勝てると思ったから喧嘩を売りました」

「そういうことじゃなくてな...なんであんなにレイチェルを邪険にするんだ?」

「昔、実験されそうになりましたから」


そこまで言うと隊長は少し考えた様子で聞いてきた。


「今まで衛生部隊に行ったことはあるか?」

「無いですね。怪我も病気もしないので」

「だろうな。お前が実験されそうになったのは、おそらく研究部隊隊長のレイラだ」


レイラ?そういえば研究部隊隊長は見たこと無いかも。


「二人は双子なんだが、見た目とは裏腹に性格が全然違くてな」

「つまり?」

「お前は勘違いで無礼を働いていたわけだ。レイチェルなら少女に乱暴はしないだろうし、手厚く守ってくれただろうな」

「え、あ。すみませんでした!」


マジか。どおりで頭の中の人相と合わなかったわけだ。すごく失礼をしてしまった。


「もういい。どちらにせよ話はいい方向に進んだんだ。だからこれからのこと、頼んだぞ。」

「わかりました。ありがとうございます。」


――――


そうして、マヤちゃん本人の意識もまだ戻らないので、細かい話はまた今度にして今日のところはお開きにしようという話になった。


怪我をした3人も意識が戻る様子は無いのだが、身体的に問題ないとのことで、じきに目を覚ますだろうと診断された。

家が破壊された人のためにキャンプは残るようだが、確認したところビョルンさんの家の周辺は無傷だったため、みんなを順番で運んでベッドで寝かし、今日は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ