戦い方
一瞬でもマヤちゃんを見かけて喜んでしまったことを後悔した。
彼女がここに居るってことは、誰かが犠牲になってしまったということ。そしてマヤちゃんの前には3人の人が寝かされていた。
ビョルンさん、アルマさん、そしてマヤちゃんの遊び仲間のラルグくん。
三人ともかろうじて命はつなぎとめているが、すでに意識はなく、あと数刻も余談を許さない怪我となっている。
三人の前で泣き崩れるマヤちゃんを見て、私は一歩踏み出せなかった。
「獣たちの殲滅があらかた終わった頃に、街で避難誘導をしていた子どもたちの話を耳にしてね。心配になってその話の方向へ向かうと意識もほとんどないのに必死にあの子どもたちを壁になって獣の群れから守り続ける二人の姿があったの。獣たちはすぐに殲滅できたんだけれどさすがに手の尽くしようがなくて」
絶句する私にフレアが状況の説明をしてくれた。
どうしてもっと早く助けてくれなかったの!?
無責任な叱責をフレアに向けそうになったが、フレアも最善を尽くしてくれた結果がこれなのだ。
代わりに浮かんできたのは、もし私が別の選択をしていたら、という考えだった。考えても意味がないのに、頭から離れなかった。
悲しみよりも申し訳無さと不甲斐なさで気持ち悪さを覚える。
どうしようもないし今すぐに立ち去りたいけど、恩人が死にかけていて友達が泣いている。
――声をかけないと。
女王の時のように誰が悪いかなんて決めようがないんだ。
マヤちゃんの背に手を置くと、あやすようにさすった。
「レナお姉ちゃん...わたしのせいでみんなが」
「マヤちゃん、聞かせて。何があったの?」
そこからマヤちゃんの話を聞くと、泣きながら途切れ途切れになりながらも最後まで教えてくれた。
話はあっちへ行ったりこっちへ行ったり。要点を得ないけれど、概ねフレアが教えてくれた通り。
マヤちゃんは、何度も同じ言葉を繰り返して自分を責めた。まるで、それ以外の答えがないみたいに。
「私悔しいの、お姉ちゃんになるからって、ようやくみんなの役に立てるって思ってたのに、逆に皆が私をかばってこんな事になっちゃうなんて。私はレナお姉ちゃんみたいに人を救えない」
「ううん、マヤちゃんは私よりもよっぽど人のために頑張ったよ。私は敵を倒せても見ず知らずの人のために命をかけたりできないから。」
言ってあげられることも無いから、自嘲気味に否定だけしておく。
「きっとアルマさんも人を助けたマヤちゃんのこと褒めると思うよ」
「うん、褒められた。私の自慢の娘だって、でも」
そこまで言ってマヤちゃんはまた泣き始めてしまった。
褒められた後に全員こんなになってしまうなんて、なんともむごたらしい。
「レナお姉ちゃん、皆を助けて?私じゃだめなの」
マヤちゃんもこの部屋にみんながいる意味をわかっているんだろう。それでも藁をもすがる思いで問い詰めてきた。
「......ごめん。私には、できない」
――入ってきた時と同じ、沈黙にマヤちゃんの泣く音だけがこだましている。
その声に自分の無力感を感じて、なにかできることはないかと考えるけど、一向に何も思い浮かばない。
悲しませるだけだったら、声をかけなきゃよかったなんて少し消極的な考えになってしまったところで、フレアが横に来てなにか言ってくる。
「なにか感じない?」
「あ、本当だ。なにこれ?」
もうじき人が死ぬっていうのに、気の抜けた声が出てしまった。
そんな私を気にせずに泣いているマヤちゃんの方からなにか、形容し難い暖かさを感じる。
「まさかね。」
その力の奔流に、あり得ない想像をしてしまった。
その力はやがて光となってマヤちゃんを包み込んでいる。
当の本人はかがみ込んでいるために、何が起こっているか分かっていない様子。
怒らせしまうだろうか、それでも状況だけ伝えないと。
「マヤちゃん、大丈夫?」
私の声に反応しないと思ったが、ゆっくりと顔を上げたマヤちゃんは、状況に困惑している。
「え、なにこれ」
こっちに聞かれてもわからない、フレアに目で問いかけてもわからない様子。
ただマヤちゃんに危険があってはいけないから、私が確認のために近づこうとしたところで何かに気がついたのだろうか、マヤちゃんは手を掲げた。
手を掲げたのは、アルマさんの方。
マヤちゃんが「ふんっ」と力を込めると、瀕死の重傷を負っていたアルマさんの傷が一瞬にして回復していた。
その様子を見た私は――何なら本人よりも驚いていた。
「これって」
「回復魔法だね、それも多分特殊能力を使った」
マヤちゃんが能力持ちなんて聞いたことがない。かと言って一般人が魔法を使うなんて聞いたことがない。そこから導き出される答えは決まっているけど、理解はまだ追いついていない。
なぜマヤちゃんがワーカーの力を?
一般人がなぜ急に、ましてや女王が居ないのに誕生するなんて聞いたことがない。
そのままラルグくんとビョルンさんを一瞬で治療したマヤちゃんからは光がなくなっていた。
そして、マヤちゃんは信じられないという様子で自分の手を見ている。
「お姉ちゃん...私も戦うことができたよ.....」
「う、うん」
不思議で、けれど満足げな顔をしているマヤちゃんに疑問をぶつけることができずに、変な返事をしてしまう。
「すごい」と言うべきなのに言葉が出なかった。
正直不気味さと混乱が上回ってしまっている。
「わたし、兵士になったの?」
「そうなの...かな?」
私の回答に信じられないと言う顔をしつつ、家族が助かった事実に満足した彼女は笑顔を咲かせると、意識を手放した。
倒れないように抱きかかえると、その顔には疲労がにじみ出ていた。今日一日本当に頑張ったのだろう。
マヤちゃんを寝かせてから、私はしばらく動けなかった。
何が起きたのか、まだ整理できていなかった。
「フレア...この状況どう思う?」
「え、私?うーん、結構やばくない?」
この部屋は貸し切りではない。光を放つ少女が居たらすぐに情報が伝わってしまうくらいには筒抜けになっているのだ。
そう、この状況で一番知られたくないような相手にこの事が伝わってしまった恐れがある。
今は静かに休ませてほしいのだが、状況がそれを許してくれない。
この部屋に向かってくる人物の気配を感じ取ると、大きなため息をついてしまった。
「その子供を渡しなさい」
立ち上がって入口の方を向くと、とある人物に声をかけられた。
ついでにこの一室を包囲されたのもよくわかった。
「はじめまして、レイチェル隊長」
言葉とは裏腹に、初っ端から鋭い敵意をぶつける。
衛生部隊隊長レイチェルは意に介せずこちらを睨みつけた。




