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――マグナスヴィネア。


ビョルンさんに聞いた情報だけではいまいちつかめなかったが、こうやって現物を観察して理解できた。


夜になったこともあり、薄暗い光を放ち続けるそれは不気味さと神秘さを存在感として放ち続けている。

しかし、街の様子からサイズの割に規模の大きな攻撃をあまりしていないことも見て取れた。


「見た目ほど強くないのかな?」




獣に近づくに連れて、遠方で地面から生えた触手を相手取る人影が目に映り込んだ。

やられそうには見えないが、攻めあぐねていてこのままでは体力が尽きてしまったときにジリ貧で負けてしまうだろうと言った感じ。

私はバルディッシュを何度か振り回して一帯に突出していた触手を一掃した。


「隊長。お疲れ様です」


さすが隊長。目立った外傷も殆どないし、足止めをここまでできる人も国に何人も居ないんじゃないだろうか。

声をかけた私に驚くような表情を見せている。


「レナ、お前今まで何をしていたんだ?」

「ちょっとニグル山の方へ」

「話が全くわからないが、ここへ来てくれたってとは」

「休もうにも、帰る場所がなくなったら意味ないですもんね」


隊長は少しだけ残念な顔をしたが、すぐに今戦闘を行っていたときのような張り詰めた空気を身にまとった。


「お前が居てくれるだけでここまで心強いとは。ありがとう。それじゃあ反撃を...」

「あ、一旦私一人で相手してみても良いですか?」

「...一体何を言っているんだ?相手は街単位でも危険なあのマグナスヴィネアだぞ?」

「はい。母に一撃でやられたあのマグナスヴィネアです」

「お前...」


微笑んで軽く毒を吐いておく。隊長には悪いが、この敵は私一人で倒したい。

先程のクラウや隊長の苦戦から、この国の戦力ではたしかにきついのかもしれない。


...それでも、私があの獣に負ける気は全くしないんだよね。



そうして私はゆっくりとあの獣の元へと歩いていく。


敵も私の存在を認知したようで、こちらに視線を向けて、というか全身から目が出てきて私のことを凝視している。


更に、全身をたぎらせるような赤色に発光させると、咆哮。人の耳には聞こえないくらいの低音が衝撃となって私達を襲う。


そしてこちらに向けて移動を始める。

地面と繋がっているマグナスヴィネアは地面もろとも砕きながら泳ぐように移動をしている。


「ひぇっ。気持ち悪!!」


その様子に酷くおぞましさを感じてつい口に出た。特にあの目、あれで何を見ているんだろう。...私か。


「さっきまで私達のことなんて歯牙にもかけなかったのに...レナ、何をしたんだ?」


確かに私が来るまでと様子が違うような気もするけど、敵を前にした獣なんてこういうものじゃない?


距離がかなり空いていたと思ったが、一瞬で有効範囲内に距離を詰められた。

その見た目通り、大地を泳ぐような移動をしてくる。


その動きのまま、最初から見えていた大木のように太い足を薙ぎ払ってきた。

太さからしてそのまま薙ぎ払われたら、避けようがない驚異的なリーチをしている。


「その足は危険だ!避けるのは苦労するのに、切ってもすぐに再生する。」


さっき隊長がこの足を切ったって言ってたっけ。すごいな、正直私のように何も考えてない人でない限り、戦法無しでこの足を切ってみようなんてならない。

隊長も射程圏内だろうにわざわざ残ってアドバイスをくれるようだ。


きっとクラウもこの攻撃を受けてあんなに遠くに飛ばされていたんだろう。


まぁ、この勢いを生かさない手はないけど。



薙ぎ払われた足を引き付けて。

――引き付けて。

――――引き付けて。

武器の射程範囲をかなり割っているが、それでも引き付けて。


空いている左手でカチ上げるように掌底。


「ッ...!」


ブォンという音とともに一瞬足が浮くと、そのまま攻撃が止まった。しならせた足の勢いが先端に残っているだろうけど、別に関係ない。


「なっ...」


完全に躱す体勢に入っていた隊長は、何が起こっているのかわからないという様子で立ちすくんだ。


掌底を当てた箇所には勢いがうまく伝わったのか、陥没、というか穴が空いている。

穴の空けた箇所がすぐにブクブクと沸騰するように再生を始めた。


――シュッ。


バルディッシュを勢いよく振り下ろして、停止したままの足を切断した。


マグナスヴィネアも何が起こったか理解したのだろう。痛みも合わさったことにより先程の咆哮よりも大きな声を上げてのたまわる。


「思ったより簡単に切り落とせたな。」

「おい、すぐに再生してくる。気をつけろ」

「大丈夫ですよ。」


きれいに切り落とされた足は、トカゲの尻尾ように単体で動いてはいるが、再生してくることはなかった。

隊長も私が何をしたか、理解して納得している様子。さっきのように攻撃が集中していなかったら、隊長だけでもいずれは倒せたのではないだろうか。


力を使うだけでも倒せてしまう。相手はその程度。

それでも、私は納得はしていない。


「...リーゼルは、力を使わずにあれを倒した。」


私は1人つぶやくと、獣に向かって一目散に駆け出す。

母はこれを能力なんて使わずに一撃で屠った。

彼女の能力なんて知らないが、私も同じように倒してみたいと、倒さなければならないと思った。



マグナスヴィネア必死の抵抗。

体を大きくバタつかせて、近づくのも容易でないほどの衝撃を生む。

地面のいたるところから触手が現れ、体表からも触手が現れ、視界に入るすべてが触手で覆われる。


――大丈夫。


文字通り必死の攻撃だが、大して脅威は感じない。決闘のクラウの攻撃のほうが知性を感じた分よほど脅威を感じるものだったし...

――避けることなんてしない。クラウの時のように防御だってしない。私の勢いに触手の攻撃も拘束も届くことはないのだから。



私の置いてきた空気が流れを生み、風となる。



「...この風は。そうか。はは...懐かしいな」


隊長が何かを言っているようだが、ここからでは聞こえないし、注目する気もない。



触手によって耕された足場は悪く、いまいち力が入らないがもろとも踏み固めてしまえば関係ない。


――ダンッ!


マグナスヴィネアの眼の前で力いっぱい跳躍した。上昇最高点で振り下ろせるようにバルディッシュを握る拳に力が入る。



最後の抵抗はその巨大な体を使ったボディプレス。

ここからでは気持ちの悪い壁が迫っているようにしか見えないのだが。



構えていたバルディッシュに今日一番の力を乗せると、ただただ真下へと振り下ろす。切るのではなく、割る。そんなイメージ。



「――――リーゼルさん、あの無茶苦茶さ、レナはあなたの娘ですね。」



振り下ろしたバルディッシュ。

力のままに繰り出したその一撃は巨獣マグナスヴィネアを真っ二つに両断した。

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