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よろしくお願いします

「...なにか気配がします」

「レナ?」


思ったよりもずっと早く帰ってこれた。

ニグル山との往復に移動含めてほぼ6日で帰ってこれたのはかなりありがたい。

既に日は傾きかけているが、暗くなる前に街へは戻れるだろう。


ようやく見えてきた街に胸をなでおろすタイミングなのだが、さっきから敵の気配がずっとしている。

そして、時を待たずしてクルスさんも異変を口にした。


「トルマの隣、山か?」

「いえ、あそこに山なんて無いです」


遠くで感じた揺れの正体だろうか、よく目を凝らすと、動いているような気もする。


「あれは、獣?」


だとしたら非常にまずい。やはり早く帰ってきて正解だったかもしれない。


一方クルスさんは、その正体に早くもアタリをつけ始めた。

そしてその額には彼らしからぬ大粒の汗が滲んでいる。


「あの山のような体格、あれがマグナスヴィネアか?」

「なんですか?そのおかしな名前」

「かつてブラドの街を半壊させた化け物だ。それならば先程の地震も予想がつく。」


私は前方の荷馬車にいる人たちにも質問をすることにした。


「ビョルンさん?」

「なんだ嬢ちゃん?」


街に帰れるとなってソワソワしているビョルンさんに声をかける。


「大きな山みたいな獣って心当たりあります?」

「どうした急に?大きい獣か。俺もあんまり詳しくないが、マグナスヴィネアなら知っているぞ」

「マグナスヴィネアか!あれは大変だったらしいな。街に大量の獣を入れてくるんだってな。その時は最強の兵士が1撃で仕留めたらしいが。」


ボックさんが横槍を入れてきた。流石にブラドの隣街に居る住人。当時を生きていた人なら、多少は情報を持っているようだ。

完全に蚊帳の外になったマルクスくんは既に話を聞いていない。


「どんな特徴でした?」

「大きな山みたいな、海にいるタコに似てるって誰か言ってたっけな。あとは、」

「光ってるらしいぞ!」

「そうそう、襲撃が夜だったんだが、えらく光ってたって聞いたな」


なんとなく特徴はわかった。よくよく目を凝らして街の隣の山を見る。

山、その山には形容し難い足がついている。更に薄く光っているような気もする。


「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」

「ええ、そのマグナスヴィネア、今トルマの隣にいます。」

「え?」

「急ぎましょう。早く」


私が行く気なのだから、否が応でも皆を連れて行く。

置いて行っても安全の保証はできないし、それなら私の近くにいてくれたほうが安心というもの。

正直あのくらいの獣なら負ける気はしないから。


――――


そうして街のすぐ近くまで来たが、取るべき行動に優先順位を付ける必要がある。


ここにいる人達の安全確保と、街の状況確認。これはできるとして、あの獣をどうするかという点だ。


さっきよりも近くに見るマグナスヴィネアは威圧感があり、皆も天変地異を見るかのように恐怖で固まってしまった。

近づかずに済むといえば、それに越したことはないんだけど...


そんなことを考えていた矢先、道端に人が倒れているのがわかった。

状況を全く知らないので、少しでも細かい情報がほしい。考えるよりも先に近づいていく。


「...! クラウ!?」


倒れているのは間違いようのない、クラウだった。

特徴的な青い髪に、私に切りかかってきた青い剣、その体の至る所に深い傷を残して倒れていた。

致命傷は負っていなかったようなので、何度か声をかけながら揺さぶったら、目を覚ました。

意識が混濁としているんだろうか、虚ろな目で辺りをキョロキョロ。


「...大丈夫?」

「はっ...レナ!?どうしてここに?」

「出先から帰ってきたんだよ。それよりここで何が起きているか手短に教えてくれない?」


そうしてかなり重症にも見えるが、起き上がったクラウから状況を聞いた。

街に獣の侵攻があったこと、マグナスヴィネアが出現したこと、そして街の内外で戦闘が起こっているということ。



ここまで聞いたうえで、正直私はマグナスヴィネアのことなんてどうでも良いと思っていた。

遠因はどうあれ今はマヤちゃんとアルマさんのことが心配でしょうがない。

意識はなからそちらへ行くつもりでいたのだが、それでもクラウの話から耳を離せなかった。


「マグナスヴィネアも最初は余り大した動きをしていませんでした。私とチカゲ隊長の二人で攻撃をしていたのですが、大きな足を1本切り落とした瞬間にいきなり大暴れを始めたんです。そうして私はここまで弾き飛ばされて気を失い...今はきっと隊長1人で戦っています。」

「そう、無事で良かった」


クラウが少しだけ口ごもったけど、話を続けた。


「レナ、あなたはマグナスヴィネアを倒せますか?」

「倒せる気はしてる。あんなに大きな獣は相手にしたことなくてわからないけど」

「あなたに恥を忍んで、お願いがあります。」


話の流れはわかった。兵士の仕事ならば断るけど。


「我々ではあの獣を仕留めることができませんでした。休職中なのは承知の上ですが、ご助力いただけませんか?」

「やだよ」

「...え?」


断られると思って居なかったろうな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


...それでもクラウがしてきたのは命令じゃなくてお願いなのだ。

私に選択の余地をくれているクラウはやっぱりかなり優しい。


私はため息をつくと心を決めて立ち上がった。


「でもあの獣は目障りだから仕留めに行くよ。友達をここまで傷つけられて何も思わないほど腐ってない。だから...兵士じゃなくて友達としてそのお願い聞くよ」

「――ありがとう...よろしくお願いします」


私の意思を理解してくれたクラウが静かに頷いた。



正直、なぜそこまで危険な生物が何度も黒の国を襲うのか、なぜ私がこの街に居ない間にちょうど来たのか、ニグル山の件と合わせて疑問だらけなわけで、何もわかっていない私は正直フラストレーションが溜まっている。

そこに加えて、友達をここまで傷つけられた。


――半分以上憂さ晴らしだけど、この怒りをあのデカブツにぶつけるとしよう。


「クラウ、この人たちをお願い。街で戦闘が起こっているなら、安全に避難させて。」

「はい、少しだけ回復させていただきたいですが、必ず避難させると約束します。」


そこまでクラウが言ったところで、ビョルンさんが声をかけてきた。


「じゃあ、俺は一足先に家族の様子を見に向かうぜ。なんだか嫌な予感がするんだ」

「危険じゃ...」


「心配事が増えるからじっとしてて」そう言いたかったが、静止する前に走り出したビョルンさん。

この速度なら普通に追いつけてしまうが、なんだか止めないほうが良い気がしたので、そのまま行かせてしまった。


「アルマは昔兵士だったんだ。多分大丈夫だ!嬢ちゃんも早く帰ってこいよ!!マヤも多分寂しがっている!」


そう言い放って去っていった。

...アルマさん兵士だったんだ。あんなビョルンさんを従えてるなんて相当だとは思ったけど。


そうしてビョルンさんを見送った後、クラウが聞いてきた。


「あの方はマヤさんの?」

「お父さんだよ。マヤちゃんと知り合いだったの?」

「ええ、世の中狭いものです。」


私とクラウは目を合わせてふふっと互いに笑うと、それぞれの役割を果たすように動き始める。


「じゃあ、クラウ、みんなのことをよろしく。クルスさん、ボックさん、マルクスくん。楽しかったです。また...」

「おう、嬢ちゃんとならどこへだって旅ができそうだな。また遊びに連れてってくれや」

「ボックさん、失礼ですよ。ありがとうございました。ではまた。」

「レナ、この数日楽しかった。ありがとう...できれば、今度はたくさん話がしたい」

「...はい。またお茶でも持って顔出しますね。」


クルスさんの不器用な挨拶に少しだけ照れくさくなってしまった。


急な旅の終わりに若干後ろ髪を引かれる思いで、私も進路を変更。

そう、この人たちにはまたいつでも会いに行けばよいのだ。


「それじゃあ、行ってきます」


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