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レナの休日

――1ヶ月前



黒の国、王都。名をブラドと言うがこの街には女王がいる。

女王が街に君臨するようになって1000年ほど経過しているらしい。

もちろん女王が1000年以上君臨できたことには訳がある。

人類が作った古代の遺物、"母体"と呼ばれているそれを動かすことができるのは代々の女王のみである。

母体には現在の人類では作成できないような不思議な力があり、女王を通じてその恩恵を人類にもたらされてきた。

滅びかけてきた人類は母体を扱える女王に助けを請い、やがて女王を中心とする自治国家が完成した。

安寧をもたらす女王と、それらを支える国民。揺らぐことのないこの関係が、現在の平和の元になっている。


その関係の間に入るものとして欠かせない者たちがいる。女王より直接の寵愛を受けた者たちの存在である。

なぜか寵愛を受けられたのは女性だけだった。

彼女たちは寵愛を施されることにより常人では扱えないような膨大な力を手にする。そしてその集団は、いつしか兵隊と呼ばれるようになった。

兵士たちはその力を使って女王の護衛、女王の目が行き届かないような細かな地方自治、人類では到底太刀打ち出来ないような外敵との戦闘を担った。

抑止力となる彼女たちの強さや要塞自体の強固な防衛力によって物理的にも政治的にも堅牢な国家は大きく乱れることはなかった。


女王による統治と女性たち主体の政治、

いつしか兵隊はワーカーと呼ばれるようになり、その兵隊の中でも上位の兵士がメジャーワーカーと呼ばれるようになった。



私、レナはメジャーワーカーである。

歳はだいたい20あたり、兵隊に入ってかれこれ8年くらいたった。

この国では10歳過ぎくらいからもじどおり天職が決まっていく。

だいたい年の頃を見計らって各家庭の個人宛に母体から兵士を使って職業適性なる書類が届く。

職を決めるのは個人の自由だが、母体が算出した適正というものが本人の素養にあっている的確なものであると周知されているため大体は適正通りの職につくというのがセオリーである。

小さい頃から努力していた人は望み通りの職になることも多いし、逆に全く触れてこなかった職業の適性を示された場合でも仕事の体験させられるように体制が作られている。

個人の家庭まではわからないが、私としては選択の自由があるうえで個人の特性を計算してくれる良い機能だと思っている。どうやってそんな計算をしているのか全くわからないけどね。

そんな私も少々イレギュラーだったが、結論として女王様の寵愛を受け兵隊としての職を全うできている。



現在私は王城の食堂で食事をしている。

昨日遠征から帰ってきて今日は一日休みをもらっていた。

流石に王城のベッドはテントに比べて寝心地が良かった。体に寝起きの不快感がないのがここまでありがたいものだとは思わなかったといつも遠征帰りには思っている気がする。そんなわけで快眠完全回復である。

まあ流石に休みとはいっても一日だらける訳にはいかない。

昨日粗方やっておいたが、遠征の残務処理を今日の夕方くらいから行おうと思っている。

戦利品の仕分け、遠征に行っていないメンバーに仕事が集中していると思うので一応挨拶、装備品の手入れなどなど。


「...うん、めんどくさい。」


正直気が乗らない。

昨日だって帰ってきて疲れてたし、そう思ったから仕事を切り上げて途中で帰ったのだ。

もともと仕事が好きでもないのによくやっている方だといつも自画自賛している。


運がいいことに私には直属の部下がいないので、楽をできているのかもしれない。

もし部下がいたとしたら、まず昨日帰って来る。私が居なかった分の仕事内容を報告してもらう。指示を出して、必要なら教育をする。部下が帰ったあとにようやく自分の作業をして...


やめよう。食事が不味くなる。


黙々と食事を取っていたら向かいの椅子に誰か座ってきた。

混雑する時間を避けたしわざわざ正面に座るということは私に用事ということだろう。


「...」

「うわっ!?」


思わず声が出た。

顔をあげるとものすごい近距離から乗り出して覗き込まれていた。


「チュー」

「うわっ、ちょっ、やめてフレア」

「イデデデデデ」


のけぞった私に追い打ちのキスをしようとしてきた彼女の顔を鷲掴みにした。

あーびっくりした。絶対距離感おかしいよこの子。朝から付き合えるテンションじゃない。


このセクハラ女の名はフレア。

部隊の先輩で歳は3つ上なのだが、見た目はどうしても少女のそれ。

12~13くらいにしか見えない。


彼女は遠征に参加していなかったがなぜこの時間にいるんだろうか。


「あのー、そろそろ本当に痛いです」

「あ、ごめん」


フレアにアイアンクローをかましたままだった。

手を放すと微妙にこめかみが赤くなっていて、数秒悶絶していた。

程なくして特徴的な桃色の髪を整えた彼女はこちら側に来て耳元で囁いた。


「お金貸して」

「やだ」

「そんな事言わないでさー」

「この前のも返してもらってないよ」

「今回は絶対返す!!」

「今回?一回も戻ってきてないけど、全部返して?」


フレアの要件は金絡みだった。朝からこんな胃もたれしそうな話をされては不快である。

この娘はすごく金癖が悪い。

新人のときに一回貸したら、ずっとたかられるようになってしまった。

私も断れば良いのだが、この人の人となりというか、なんだかんだ世話にはなっているし、

それにこうかわいい人におねだりされて悪い気はしないし、大した額は要求されないから渡しちゃうんだよな。


私は感じた不快感を隠すこともなく表情に出したまま続きを聞いた。


「レナちゃん強いし、あんまり使ってないからたくさん持ってるでしょ?」

「逆にいつもフレアがなんでそんなに金欠なのか知りたいよ。」


まぁこんな人でも根はとてもいい人だ。

先輩後輩からも好かれ人間関係の幅がとても広い。よくわからないところでフレアの人脈を感じるときとかあるし。


あと、私の新人時代の指導者が彼女なのだ。

敬語を使っていないのは彼女が嫌がったからで私自身としてはもう少し敬ってもいいと思っている。


そしてなによりフレアはかなり強い。

数多くのベテランがいる兵隊の中でもおそらくトップクラスの実力を持っている。

全く実力をひけらかしてこないあたり、やっぱり親しみやすい人だなって思う。


そんなことを考えていたらフレアがこちらに来て私の方を揺すってきた。

「おねがいー」なんて駄々をこねる先輩は威厳のかけらもない。

私はため息をつくと自分の荷物から少しだけフレアへ小銭を渡す。


「これでいい?」

「えへへーありがとうレナちゃん。また返すねー」

「・・・」


食事中ずっと絡まれるのも癪だから渡してしまった。

正直兵士をやっていて金に困ることなんてまったくないと思うんだけどな。

静かにため息をついた私の頭をよしよしと撫でるフレアをひっぱたいた。

正直彼女が何にそこまで金を使っているのか、調べても良いのではないかと思う。

金の流れを管理している部隊もあったはずなのでそこへ行けば教えてくれるだろうか?...まぁ無理だろうね。民事不介入でしょう。


正直兵士がどこまでのしごとをしているとかは私の管轄ではないし、正直良くわからない。

でもこの職場に居る限りはそこら辺の面倒も職場が見てくれるので私は仕事をして入ってくる金を眺めるだけとなっている。


さて、せっかく遭遇したのだから今日一日フレアと遊ぼうかなんて思って、誘おうとしたのだが予定があるようだ。

私から迅速かつ正確にカツアゲをしていくとそそくさと去っていった。


「はぁ」


のどかな朝に寝起きでカツアゲに合えばため息の一つもでる。

私は残った食事を済ませて席を立った。

気分を切り替えよう。



・・・よしっ!

今からが休日だ!


まだまだ一日はある。

最近忙しかったから読めていない本もあるし、たまには街で買い物もしたい。

やりたいことが目白押しで、何をしようか考えている時間が一番楽しいとさえ思っている。


ひとまず街にでも出てみよう。

今日は街のどっち側に行こうかなんて考え始める。


出かけると決まれば、やる気があるうちに早速行動だ。

部屋に戻ると窓を開け日の高さを確認してなんとなくの時間を把握。

まだ昼には長いなと思いながら、出発の準備をする。

いつも外出するときに軍服を着ようかどうしようか迷うのだが、今日は私服を着ておいた。

昨日まで着ていた軍服は帰ってきてから洗濯に出してわざわざもう一着出すのが面倒というのもあるが、街を歩いているときの住人の態度が明らかに違うのも気になるからだ。

私服とはいえ武器の携帯が許されてないわけじゃない。バルディッシュを背負うように納刀したら、出発準備完了だ。


部屋を出ると城門を目指して、王城の廊下をスタスタ歩いて行く。

顔が知れているのか、歩いているとすれ違う兵士や使用人たちに頭を下げられる。

なんだかむず痒い気持ちになって顔をそらしてしまう。


「なれないなぁ」


慣れないし少し調子が狂うが仕方がない。

私は兵隊の中でも結構精鋭の遊撃部隊に配置されている人員だ。

特徴的なのは軍服に施された赤い刺繍。各部隊それぞれ色が違うが、基本的に黒が基調とされている。そもそもの部隊人数が少ないため軍服の中では異彩を放つ存在だ。

最近配属されてフレア以外の他のメンバーをほとんど知らないし、そもそも部隊のメンバーが小分けにして他の隊の補助をしたり単独行動をしたりするため集合する機会も少ない。



広い王城内だが、普通にみんな働いていて非番の知り合いに出会ったりするような目立ったようなことはなかった。

関所の兵士と軽く小話をして、城門から出るとまた歩き始める。


ブラドは国の首都、歩き回ると流石にかなりの広さを感じる。無策にしても向かう報告だけでも決めておいた方が良いのは経験済みだ。


「どっちに行こうかな~」


今日は城から南東方向へ行くことにした。

城は街の最北端にあり、後ろに巨大な岩山の崖を背負うようにして建っている。

この山自体かなり大きいサイズで、崖自体は横に数キロメートル。奥に続く山脈は一部が国境になっているほど奥まで険しく続いている。

なぜこのような場所に城や街があるのかはよくわからないのだが、この立地により他の侵攻を幾度も阻んだ歴史もあるようで、要塞都市ブラドなんて呼び名もあるほどだ。


城門を出ると広場があり、そこから南東方向へ向かうことにした。

街の区画でもやはり特色があって、飲食店が並ぶ場所があったり、道具やアクセサリーといった雑貨屋が並ぶ場所があったり様々だ。

たしかこっちは安価な露店が多かった気がする。


とか考えていたら考えていたとおりに市場が見えてきた。

一本道に所狭しと露天が並んでおり、勢いに少し圧倒されそうになる。


露店に並ぶ品物を眺めながら、自然と売り手の顔を見る癖がついていることに気づく。

加工された軽食や小物を並べる店もあれば、肉や野菜をそのまま売っている店もある。


やり方は違えど、街の中で役割が食い合わないよう、皆どこかで線を引いている。

それを誰かが指示しているわけでもないのに、不思議と均衡は保たれていた。


兵隊の目があるからか、それとも女王の存在がそうさせているのか。

理由は分からないが、今のところ大きな歪みは見えてこない。


だからだろう。

近くを兵士が歩くだけで落ち着かなくなる店と、何も変わらず商いを続ける店が、はっきり分かれて見える。


……もっとも、今日は休日だ。

気づいたところで、何かするつもりはない。


「おーいそこの嬢ちゃん」


そこらを見ながら歩いていたら太い声で呼ばれたので声の方向に目を向ける。


「こっちこっち」


声の主は大柄の男で屋台から手を振っている。

せっかく呼ばれたのだから行ってみよう。

人を避けながら近づいていくと空腹感を誘う香ばしい匂いを感じた。

ここは肉を串焼きにしているのだろうか。さっき朝食を食べたばかりでも食欲を感じざるを得ない暴力的な匂いがする。

串に刺された肉から滴り落ちた油が強火の木炭に滴り凄い勢いで煙が出ている。

これは屋外じゃないとできないな。

その香りや煙に釣られた人達によって、かなり繁盛している。


男は私が近づくとよし来たと言わんばかりに準備をし始めた。

小気味よく肉をブロック状にカットすると、軽く塩をまぶすとそのまま焼く。

ローズマリーだろうか、肉と香草の匂いが一気に広がって、次の被害者を呼ぶ。


そしてまんまと寄ってきた私に向かって男は言う。


「肉、食ってくかい?」


それはずるいぜ大将...

これでもかとデモンストレーションをされた私の胃はすでに臨戦態勢となっていて、眼の前に差し出された肉にかぶりつきたい衝動にかられている。

だいたい私が買わなかったら今焼いた肉はどうするんだろう。いや人集まってるから関係ないか。


まんまとつられたが、良いようにされたら癪なので表面上だけでも気丈に振る舞うことにした。


「すごい盛況ですね、何を売っているんです?」


男は私が食いついた時点で買うと確信しているのだろう。腹立たしいくらい満面の笑みで答えてくる。


「これはフォレストブルの肉だ。今日は色々入荷しててな」

「ああ、なるほど。ちなみにおいくら?」

「250だ」


遠征の戦利品で結構肉があったから流れてきたんだろう。

町の外からの肉は家畜に比べて味がいいが、いかんせん希少価値が高い。普通の家畜の肉も商品としてあるが、価格が数倍違う。

私に買わせる自信があったとして一番高い商品を用意してくるあたり商魂たくましい男だと思う。あとニヤニヤしないでほしい。


「じゃあ今焼いてたのをください」

「へへっ、まいど」


支払いを済ませたら、串のまま肉を受け取る。そして、そのまま一口。

美味しい。まあ、まずいわけがない。

口中に広がる肉汁が熱くて火傷しそうになるが、かろうじて飲み込む。

香草を使っているからもっと獣臭いワイルドな味がするかと思ったらそんなことはなかった。

しっかり血抜きされた肉は生臭いなんてことはなく、柔らかい肉からは味付けの香草、塩によって肉本来の旨味をとても感じられる。

これは、美味しい。


このまま全部食べたいが、人が多いので隅に避けようとしたところ、店主がこちらを向いた。


「嬢ちゃんは兵士だろう?今日は休みかい?」


服は私服なので遠巻きには一般人だが、背中のバルディッシュを指して言われれば否定はできまい。


「そうですね。昨日まで外に出てて。なので今日は働きません。」

「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」

「ありがとうございます」


まぁ兵隊いたら少しは気を使うよね。

目立つことはわかっていたので別にいいが。


少し離れて休もうとしたら隣の露店のお姉さんと目が合った。

店を見ると飲み物が並んでいる。

私が手に持った肉を見て、お姉さんが声をかけてきた。


「兵隊さん良いもの持ってるね。このジュースよく合うよ」

「...ください」


やはり商魂たくましいな。

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