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本体

必殺の一撃。


兎が繰り出した蹴りはそう呼ぶにふさわしい威力を誇っていたのであろう。


それが直撃していたならば。


そう、お互い一撃で仕留めるつもりで放った一撃は終には片方の勝利で決着となった。



私が容赦なく振り下ろした一撃は、兎を腹部から両断。

...のつもりだったのだが、敵の攻撃の勢いが凄まじかったため、叩きつけるような感じになってしまった。

きっと今の一撃に反応できなかったら、私の脚部は胴体とお別れ、まともに戦うことができなくなり、そのまま蹂躙されていたことだろう。


手元には確かに獲物を仕留めた手応え、息を整えながら見下ろす足元にはピクリともしない兎の死体が1つ転がっている。

先程まで怒りを全身で表現していたこの肉体が今はとても小さく、いや、さっきまでがとても大きく見えていたんだと思う。


あの威圧感...仕留めてなお手が少し震えている。


「この隊はいつもこんなのと戦って居るんですか...」


ぼやきたくもなる。


私は所詮井の中の蛙、ほとんど遠征経験のない私には外の獣の強さなんてわからない。

信じたくはないのだが、遊撃部隊がいつもこのくらいの強さの敵を倒しているのだとしたら、今後ついていけるかどうか不安になってしまう。


今まで護衛部隊筆頭としてやってきて実力に多少の覚えもあったのだが、今になってその自信が揺らいできたのだ。


「...いや、流石にそれはない」


私の独り言に反応した声がしたので振り返ると、バツの悪そうな顔をしているチカゲ隊長と目が合う。

高い身長と並ぶほど長い太刀を手にしていることから、ひと目で戦いに出てきたのだとわかった。


「隊長、いらしたんですね。城の方は大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、こんな状況で何を話し合うんだと、バカどもを怒鳴りつけて飛び出してきた。実際クラウディアが対処してくれたから良かったものの今の獣が一般の歩兵たちと相対していたら非常に危なかった。よく対処してくれた。ありがとう。それに伝令から聞いたがトルマの避難指示をしてくれたそうじゃないか。重ね重ね、本当に助かった。」

「隊長に感謝されることなんて何もありませんよ。街の方も避難が始まってるのなら良かったです。ところで、今の獣はよく現れるんですか?」

「そうだったら笑えないな。私も長い間兵士をやってきたが、あんな兎は初めて見た。極稀にボーパルバニーと言う兎の獣が居るんだが、あそこまで発達していていない。そうだな、ヴァンガードラビットとでも呼ぼうか。とても強かっただろう?こいつを倒せる兵士はかなり上位に位置すると考えて良い」


流石にこんなのを相手にしている集団に居るのは危険だと思い始めていたので、隊長の言葉に胸をなでおろした。


「では、敵の群れは今の兎を倒したことで散ってくれると思いますか?」

「だと良いんだがな」


少し離れた戦場に目を向ける。


強敵を削ぎ落とした事によりこちらの兵士たちの勢いは増し、このまま行けば敵の掃討は達成されるだろう。


それでも敵は数を減らして進むことをやめるどころか、より勢いを増しながら街の方を目指しているようにも見える。


押しているのは我々、それでも勢いを落としながらも進んで来続ける獣たちに得体のしれない気味の悪さを感じる。

獣たちは何を考えているかわからない。


何かがおかしい。

理由を考えようとして、やめた。

考えていい状況じゃない。


「ひとまず加勢して終わらせましょう」

「そうだな」


隊長も私と同様のことを考えたのだろう。二人で畳みにかかる。

先程兎に攻撃を受けた時のように油断しないよう敵を切りつけていくが、やはり頭一つ抜けてさっきの兎が強かったこともあって苦戦はしようもないという感覚。

敵が弱いならそれに越したことはない。視界に入った敵を片っ端から処理していく。


敵の数がもともと少なくなっていたこともあり、当初目測で3000ほどだと感じた敵が、既に7~800ほどにまで減少したように感じる。

そろそろ殲滅完了を感じ始めた頃に、隊長が駆け寄ってきた。


「やはり何か嫌な予感がする、前線の兵士たちは私が命令して下がらせた。クラウディアも十分に注意を」


さらに数を減らし続けてもなお引く気配のない獣たち相手にとうとう危機感が振り切れたのだろうか、私を含め注意して周っている様子。

私も隊長の尋常じゃない様子に気圧されて、攻撃中の敵の集団から手を引いて遠ざかった。


とはいっても、ここで敵を減らさなければ街へ進行されてしまう。問題がなければすぐにでも攻撃を再開したいところなのだが...



動きを止めて立っていたら、なんだか気分が悪くなってきた。

先程攻撃を受けた左腕を治療せずに戦っていたからだろうか、立ちくらみのような、地面がグワングワンと揺れるような感覚。

いや、これは目眩じゃない。


「隊長!なにか来ます。下から!!」


私が口に出す前から理解していたのであろう。隊長は既に身構えていた。


途端に地中からゴゴゴゴとすさまじい地響きがし始めた。

――隊長が一般の兵士たちを後退させたのは英断だった。

地響きは今敵がいる中央部分から聞こえている。


地震がだんだん強くなり、立っているのがやっとなほどになってくる。

それは敵も同様のようで、戦場は一瞬で膠着状態に陥った。


―――


スン、と長時間にも感じた揺れが嘘のように収まった。

あたりは不気味なほどの静寂に包まれていく。


...

......


数秒、揺れ以上に長く感じた数秒は、獣たちが再び歩みを進めようとした瞬間に終わりを告げた。


ズガァアン


爆発音のような音を立てて獣たちの中央に小さな山が出現した。砂煙を上げるそれが何かはわからない。


再び地震が起きる。

揺れに足を取られ動きもままならないが、異変を見届けるべく視線を上げる。


現れた山は揺れとともに大きさを増していき、地は割れて近くにいた獣たちもその中へ落ちていく。


「......!?」


揺れが収まった頃には獣たちもその半数が消滅していた。


そしてその犯人。

砂埃が止み、徐々に視界が鮮明になってその姿が目に飛び込んでくる。



―――――そこには全長100メートルに届こうかというほど巨大な獣が鎮座していた。



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