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避難指示

正門でクラウディアさんが約束してくれた通り、街中に避難指示が発令された。

私は一旦帰宅してからママと準備をしていたので、いつでも避難できる状態にあった。


「外で大規模な戦闘が行われています。危険ですのでこの区画の人たちは教会へ避難してください」


外のいたるところで兵士たちの声がしてくる。

教会は、兵士たちの駐屯地の役割も担っているのでそこそこの広さがある。

ここからは大体歩いて20分くらい。今すぐに出ればママを連れていても危険にはならないだろう。


「ママ、避難しよう」

「ええ」


もう一度家の中をざっと確認してまわる。

昼食時だったから火の元の確認。壊れやすいものも持つべき貴重品もない。

最後に窓等の戸締まりを確認してから家を出た。


家を出てからは、大通りは人でごった返していてまともに進めないと予想したので、ママでも通れる裏道を通ったら、思ったより簡単に教会までたどり着くことができた。


「避難にきました」

「はい。中でお休みください。」


ママに流暢に答えてくれた兵士の指示通り中に入ると、まばらだが同様に逃げ込んできた人たちがいた。


「あら、思ったより少ないのね」

「うん」


見渡してみると、定員200人は入りそうな建屋は、3分の1も埋まっていなかった。

私達がかなり早く来たというのもあるかもしれないけど、近辺の人たちはもっと前に来ていてもおかしくはないと思う。


そして、今になって置いてきてしまったラルグたちのことがすごく心配になってきた。


あれを見た私達には避難しないなんて考えは浮かばないはず、、、


つまり、まだ避難できていないんだ。


親たちも居ないから必死に探されていたら本当に心配になってしまう。

獣を見てパニックを起こしてしまった自分自身に怒りがこみ上げるが、とりあえずラルグ達を探さないと。


「ママ、ちょっと外へ行ってくるね」

「え?」

「すぐ戻るから!」


静止されることは分かっていたので、反応される前に外に飛び出した。

外の兵士にも適当な言い訳をして捕まる前に飛び出す。


「ごめんねママ」


友達を置いてこのまま隠れたままなんて居られない。



最初に目指すのはみんなと居た街の西部。

現在家より西に居るため少しだけ近い。


走り出して避難する人流に飲まれることを覚悟していたのだが、思ったよりも人の流れがない。

――いや、普段と何ら変わりのない程度になっていた。


さっきから避難する人の少なさを感じて居たこともあり違和感を感じた私は、状況把握をしながら移動することが最適だと思い大通りを経由して様子を確認することにした。



街西方面の大通りには普段多くの露店が立ち並んでおり毎日賑わっている。

人混みを忌避して避けていた大通りに戻ると、目に入った光景はいつもと何ら変わらないものだった。

避難する人は既に去ったのだろうか、若干まばらにはなっているものの露天は普段通り立ち並んでおり商人たちの声が元気にこだましている。


目を疑う光景に開いた口が塞がらなくなった。


外の様子が異常事態だと思っているのは私だけなんじゃないかとさえ思えてくる光景だった。



「あの、避難指示って出てます?」


骨董品店だろうか、眠そうな顔をしながら店番をしている小太りの男に質問をした。

ラルグたちを探すことが先決だと分かっていつつも、流石に聞かざるを得ない感じだったから。


「うーん?ああ、さっき兵士たちが声をかけに来たねぇ」

「じゃあ避難は」

「強制じゃないしねぇ。それにお嬢ちゃん、わたしたちが子供の頃は獣たちが街に攻めて来ることなんてよくあったことさ。その度に兵隊たちは対処してくれた。彼女たちが負けることなんて想像もつかないし、彼女たちが負けたりしたらどこへも避難場所なんて無いのさ。それに女王様や、、、えっと」

「最強のメジャーワーカーだろ?名前は、何だったか?」


横の露天の店主がそう横槍を入れてきた。


「嬢ちゃん、20年以上前の話だが最強の兵士がブラドでこーーーんな大きな山みたいな獣を一撃で倒したらしいんだ!流石に他の兵士たちには何人か負傷者が出たみたいだが。俺ぁあんとき小さいながらも思っちまったね。黒の国の軍事力があれば俺たちは逃げも隠れもする必要がないって。実際それ以降一度も街の平穏が脅かされることはなかったしな。」


目を輝かせながら身振り手振りで子供のように男たちは語る。

兵士たちへの信頼感が大きすぎて危機意識が欠落してしまっていると、そう思ってしまう。

ここにいる人たち全員が同じことを考えているのだとしたら、手の尽くしようがない。そう思うと、気が遠くなった。


ふと近くを困った顔をしている兵士が通りかかったので、こちらにも声をかけてみた。


「ここの人たちって避難させられないんでしょうか」

「私達も頭を抱えています。何かあっても対処できるよう避難指示が出ているのですが、まるで聞く耳を持ってくれません。幸い、この一帯は大通り以外ほぼ人が掃けたことを確認できましたので、人員を欠いてこの通りを見張ることになりました。」

「そうですか...」


兵士たちも住民の危機意識に困っている様子。それに私達が知り得ないこともあるんだろう。とても厳しい表情をしていた。

そんな表情を見上げつつ立ち去ろうとした時、


「避難してください!!大群が来ます!!!」


遠くの方で知っている声が聞こえてきた。

こんな状況でも声を荒らげて必死に大通りを奔走する少年がいる。


「ラルグ!」

「マヤ!」


こちらに気づいたラルグが走ってくる。


「ラルグ、ごめんなさい。パニックを起こして、みんなを置いて行っちゃって。」

「おう、流石に驚いたぞ。でもしょうがねえよ昔獣たちに殺されかけたんだろ?」

「他の子達は?」

「全員家族のもとに返して、避難させた」

「ごめんなさい!ありがとう」

「大丈夫だ。それより...」


こちらのことを汲み取ってくれたみたいで、それ以上は何も言われなかった。


「それよりこの通りの大人たちが誰も避難してくれないんだ。」


状況を知っているのは自分たちのみという自負があって、逃げずに避難誘導をし続けてくれたんだろう。

自分と同い年なのに責任感が圧倒的に違うラルグのことをとても尊敬する。


「今この兵隊さんに話しました。大通りはこれ以上何をしてもだめだろうって、」


ここまで言って私の横の兵士に気がついたラルグは「あっ」といって挨拶をしている。


「避難誘導ありがとうございました。あなた達のような人ばかりなら良かったのですが...ここはの安全は我々が守ります。あなた達も早く避難を。」

「あっ!避難できていない人もいるかも知れない。」


ここと同じように避難しない人、したくてもできない人が家などに隠れているかもしれない。

ラルグも同じことを考えたようで、反射的に走り出した。


「待ってラルグ!すみません。ありがとうございました。お気をつけて」

「あなた達、その仕事は我々が...」


止められることは毎度のことながら分かっているので、頭を下げてから逃げるように大通りを後にした。

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