冬と街
パパとレナお姉ちゃんが街を発ってから6日が経過した。
それだけの期間では何も変わらないような気もするけれど、今日はなんだか冬を近くに感じるような風を感じている。
「ママ、じゃあ出掛けてくるね。お昼には戻るから」
「わかった。気をつけて行ってらっしゃい」
「うん。それじゃあ行ってくるね」
ママにもう一回近づくと、お腹を撫でながら確認するようにもう一度挨拶をする。
安定期に入って間もないママのお腹の中で私の弟か妹がすくすくと育っている。私もお姉ちゃんとしてしっかりしていけるか不安だけど、今は赤ちゃんが生まれるのが楽しみで仕方ない。
あと半年くらいってママが教えてくれたけど、私の誕生日もちょうどそのくらい。11歳になるんだしちゃんとしたお姉ちゃんにならないと。
家を出ていつものように子どもたちの集まりに顔を出しに行く。
ここトルマの街では、前にレナお姉ちゃんを案内したときのような都合のいい高台のようなものは無い。なので普段通りここが集まりの場となっている。
集まりと聞こえがよく言っては見るものの、小さい子たちのおもりをしながら遊んでいるだけである。
それでも子どもたちの中ではラルグと同様に最年長であるために家と同様にここでもしっかりとしなければいけない。
この前のリーチェの件のように私やラルグも仕事が決まってしまえば遊べなくなってしまうので、今のうちに小さい子どもたちに伝えられることは伝えないと。
「リーチェ、どこ行ったのかな。」
リーチェのことをちょうど思い出したら、なんだか寂しくなった。
私達三人でいつまでも一緒にいられるわけじゃないとは分かってはいたんだけど、急な別れ方にせめて一言くらい伝えて言ってほしかったと思う。
無口ながら優しくて面倒見のいい私の親友、だと思っていたんだけどなぁ。
けれどリーチェを責めることも出来ない。私が同じ立場にならないと本当のことなんてわからないのだから。
結局探しても、家を訪ねても彼女の行方は分からなかった。家を訪ねた反応からすると身になにか起きたわけじゃないんだとは思うんだけど。
「うう、寒い」
向かっている最中に思ったけど、やっぱり寒い。
レナお姉ちゃんとパパが出発する時より、日中の気温がぐんと下がってきたような気がする。
こうして歩いていても町中の人の服装が変わっていることがわかるし、冬備えもいよいよ終盤という感じ。
パパも早く帰ってこないとまともに作業できなくなってしまう。レナお姉ちゃんがいるから大丈夫なのは分かっているが、どっちも心配だから早く帰ってきてほしいと思っているのが本音。
レナお姉ちゃんを信じて送り出したのはいいけどやっぱり心配なものは心配だし、ママと2人で毎晩無事を祈ってから眠りについている。
そういえば私もママが最近始めた影響で編み物を教えてもらっている。
子どもたちと午前中いっぱいまでしか遊んでいないのも集中して作業を進めるためで、冬開けにはなってしまいそうだけど来年には使ってもらえるように、ものを作っている。
相手はレナお姉ちゃん。とママには言っているが、他ならないママのためにもう一つ作っている。
ママが赤ちゃんと私とパパのために作っているのはもちろん知っているが、どうせ自分の分なんて作っていないんだから。
「おはよー」
「おう、マヤ」
遅めに来たけど今日は人もまばらで、私の挨拶に対してラルグから返事があったくらい。
3人のちびっこ達が冬間際で枯れ草に近くなった草原を元気に走り回っている。
「寒いねー、今日はこれしか居ないの?」
「そうだな。あいつらは俺が連れてきたけど、他は誰も来てないぞ。こんなにいきなり冷え込んじゃあな」
「最近の若いもんは。けしからんね?」
「だれ目線だよ。ババアか?イテッ」
寒いって大人に言うと、子供は風の子なんて言われるが寒いものは寒いのだ。誰も責めたりはしない。ボケにババアとか言って返してくる無礼者は責めるけど。
私も子どもたちに混ざろうっと。体を動かさないと本当にやってられないくらいに寒い。日が出ているから寒さの原因は風だろうね。吹く風はとても乾燥していて刺すように冷たい。
ラルグや子どもたちと遊んでしばらくたった。昼になる時間なので私はそろそろ帰ろうと思う。
「じゃあ。私は帰るね」
毎日のことなので昼くらいに私がいなくなっても皆は何も言わない。むしろ生まれる赤ちゃんについてラルグやリーチェにうるさいと言われるほど自慢していたのでだれも何も聞いてこないというのもある。
「ん?」
ラルグや子どもたちに見送られて遊び場をあとにしようと思ったのだが、あるものが目に飛び込んできた。
パパが外に出ている事で多少の事情は知っているのだけれど、まだ補修が完了していない外壁にあちら側が少し見える程度の隙間が見えた。
興味本位で覗き込んだところ、視界の奥で何かが動いてるのが分かった。
ふとなにかと思い目を凝らしてそれが何かを理解した私は、言葉を失って唖然とした。
「マヤ、どうした?」
私が反応できずに佇んでいると、ラルグが私のことを異様に思い同じように隙間を覗き込む。
途端、彼も言葉を失った。絶句というのがふさわしいような反応で表情に無表情を貼り付けながらこちらに振り向いた。
肩で息をする彼は冷静さを取り戻そうとするのだが、思考が追いついていないのか口を開いても言葉が出ていない。
「あ、あれってさ」
「言わないで!!」
「マヤ!」
ラルグの言葉に耳をふさぐと私は走り出した。
信じられない。信じたくない。頭の中に必死に言い聞かせる。
それでも今の光景が頭から離れず否応無しに私の精神は分からされてしまった。
トルマの外壁。
その向こう側に見たことがないような獣がたくさん見えた。
距離的に蠢くゴマ粒にしか見えなかったが、動くそれらは確実にトルマに迫っていて。私はその光景が恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。
ぼんやりと覚えている思い出したくもない記憶。獣たちから逃げ惑い、死を悟った木の洞。あのときはかろうじて生き残ったものの、今でも私の中に深い傷を残している。
一目散に駆け出した私に小さい子を連れたラルグは追いつくことができず、私は一人で家に走っていった。




