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傘をさして

クラウはもう少し女王を見てくとのことなので一人で部屋を出た。


「ふぅ...」


クラウのお陰で本心がわかった。私もほんの少しは自分と向き合えたのだろうか。

お互い踏ん切りがついていたとしても彼女に対してこれまで無礼すぎたと自責の念に囚われてしまう。


それにしても、昨日初めて会話をした彼女とここまで腹を割って話をするなんて思っても見なかった。

よくよく考えてみるとクラウとはなんとも不思議な関係だな。


部屋の外に行くと壁にもたれかかって立っている隊長と目があう。


「早かったな、女王様に別れは言えたか?」

「はい、ありがとうございました。」


そういえばなぜクラウが来たんだろうか。

まぁ隊長が呼んだとかだろう。食えない奴め。


それ以上隊長は何も聞かずに歩き始めた。

静かな地下の石壁にカツカツと靴の音のみが反響していき本当にこの空間には誰もいないんだとよく分かる。


そこそこ長い通路を歩き、地上に出た。

明かりがあるとはいえ地下と地上ではやはり違う、外の明るさに思わず目を少し細めると徐々にあたりが見れるようになる。


地下から地上に戻った際に隊長が「もう自由にしていい」と立ち去ってしまったので、私は一人になった。


屋外。

さっきまで地下に居たから分からなかったが、昼前にも増して今にも降り出しそうな曇天である。


「ひとまずもう外に出よう。」


今私の周りには誰もいない。

他の人に絡まれるのも面倒だと思ったので部屋で荷物の準備をすると、そそくさと立ち去ることにした。


なんとも不思議な気持ちだ。

いつもならまだ働いている時間に部屋を軽く掃除して出かけようとしているからだ。

休みなどではなく本当に今日で辞めるような感覚に陥ってしまう。

片付けや荷造りなど行動の一つ一つが、私をこの場から遠ざけいる気さえしてしまう。


遠征などでもこのような行動はするのだが、絶対的な何かがきっと違うのだろう。

普段でさえ生活感のないこの部屋がより一層寂しく見えてしかたがない。


さっきまで何かしら人といたから、一人で黙々と何かをするというのもなんとも言えない新鮮さがある。


出発の準備を終えた私は城を出て門から抜ける。


門にはいつも通り人が居たのだが、私のことを確認すると何も聞かずに通してくれるとのこと。会釈だけしてさっさと通り過ぎる。

門をくぐるときに一抹の名残惜しさを感じたが、門をくぐる際にその感情もろとも後にする。


「ん?」


ふとなにか気配を感じた。

立ち止まって背後を確認すると見覚えのあるピンク髪。

何度見てもこれは変わらないのになんだか今日は少し元気がないように見えた。

そうだ、突然出てきたからこの人に挨拶していない。


「ごめん、挨拶もせずに。」

「いいよ。何か踏ん切りがついた顔をしているね?」


やっぱり彼女は人のことをよく見ている。頭が上がらないよ。

少し恥ずかしそうな顔をした私に、それ以上は何も聞いてこなかった。


「レナちゃん、またね。」


またね、か。

いつ返ってくるかわからないような私にこんな言葉を返す資格はないだろうけど、それでもフレアの優しさを感じたからぼそっと一言。それでも絶対聞こえるように。


「いってきます」


そう言った。


―――――


城を出るとひとまず城下の噴水広場へ行く。

夕方前の広場は普段通りの喧騒に包まれていた。

遠くから聞こえる音や、夕食を作る匂い。人の営み一つ一つが居場所を飛び出してきた私の孤独感をより一層際立ててくるような気がする。


ピチャ

「あ、」


怪しかった雲行きから想像通り雨が降り始めた。

夕暮れ前だったこともあり雨が降り出したことで街の喧騒はそれぞれ作業を止めるなりして足早に退散していった。


そして広場には無言で佇む私だけが残った。

時を待たずしてポツポツと降っていた雨が次第に本降りに変わってきた。


外套。はもう遅いか。

だって中までかなりビチャビチャになっているもの。


すっかり人通りのない道を適当に進んでいると気がついたことがある。


――ここ昨日通った場所だ。


雨もあってか閑散としているが確かに昨日通った市場だった。

休みに浮かれていた昨日と違って空気がどんよりして見えるのは私の気の問題なんだろうな。


ふと昨日マヤちゃんに串焼きをあげた場所を思い出した。

確かあそこには申し訳程度に屋根がついていた。


あそこらへんに...

あった。


特に行く場所もないので腰を下ろすと、重い雲が張り付いた空を見上げる。


すっかり夜になった。降り続ける雨は次第に勢いを増していて、今では土砂降りとなっている。

勢いよく地面を叩く雨粒に耳を澄ましながらゆっくりと目を閉じた。


一日バタバタしていたこともあり一人で腰を落ち着けたらとたんに眠くなってきた。

全身ビチャビチャでも別にいいや。

生まれてこの方一度も風邪なんて引いたことないし。



「私は何をやっているんだろう?」


急に大したわけもなく仕事を休んで飛び出してきてしまったが、本当に正しかったんだろうか?


一人になった瞬間に色々考えてしまい自己嫌悪に陥ってしまう。

正直自分でも自分の支離滅裂さに嫌気が差している。


私があそこにいた理由は何はともあれ女王だった。

彼女がいなくなった今、今の私があそこにいる理由がない。

国の終わりが近くても、もう一度ゆっくりと自分について考えたい。

改めてそう思った。


雨の音につられて、まどろみに身を委ねる


――ここは良い。


雨の音以外はとても静かで、人もいない。難しいことは後にしてただ今は休みたい。


「...」


「...ちゃん。」


仮眠程度だと思ったがガッツリ眠ってしまっていた。

肩をゆすられているのだろうか、体を起こす気になれない。

気を張らずに寝ていたのはいつぶりだろうか、まだ女王を殺した犯人も近所にいるかも知れないが、飛び起きる気になれなかった。


「レナお姉ちゃん!」

「?...マヤちゃん」


一生懸命に呼ぶ声がする方に顔を上げると、マヤちゃんがいた。

座り込んだ私に傘をさして目線を合わせている。


「良かった。こんなところで眠って、死んじゃったかと思った。」

「どうしてここに?」


大雨が降っている夜。子供一人出歩いていている時間ではない。


「それはこっちのセリフ!!さっき傘もささずに歩いてるのを見かけたから何かあったと思って来たんだよ」

「ごめんなさい...」


あまりの勢いに意味もなくついあやまってしまった。


「本当に、こんなに無茶をする人だなんて思わなかった」

「ごめんなさい...」


結局マヤちゃんの怒りが収まるまでしばらく平謝りをし続けた。でもほんとに心配していてくれたのがわかって、なんだか嬉しかった。


「それで、お姉ちゃんはなんでここに?」

「ちょっと仕事で問題が発生してね。しばらく休むことになったんだけど、あてがなくて。」

「それって、、、やっぱいいや」


マヤちゃんが出しかけた言葉を飲み込んだ。私が事件のことを濁したから察して詮索しないでいてくれたんだろう。


「迷惑かけてごめんなさい。遅くなる前に帰りなさい。私も適当な場所を見つけるよ」


頭を撫でようかと思ったけどビショビショの手で触られるのは迷惑だろう。

これ以上マヤちゃんに心配をかけてもいけないので、この場から立ち去ることにする。


「ちょっとまって!!ひゃっ!?」


私を静止しようと服を掴んだマヤちゃんから変な声が出た。


「ビシャビシャじゃない、こんな格好でいたら風邪引くよ!?」


私がここまでビシャビシャだとは思わなかった様子。


「兵士はこんなことじゃ体調を崩せないんだよ。じゃあ、またね」

「お姉ちゃん!」


マヤちゃんが再び怒気を強めて呼んできた。

服を掴む力が強くなった。


「お姉ちゃんが兵士だとかそんなんじゃなくて、友達の心配くらいさせてよ。」

「ごめん。」


マヤちゃんの友達という言葉にドキッとした。

迷惑かけまいと何も言わずに立ち去ろうと思っていたが、余計に心配させてしまったようだ。

今日は色んな人に謝ってばかりだ。


「レナお姉ちゃん、いま宿にいるんだけど良かったら雨宿りしていってよ」


マヤちゃんは私にもう一本持っていた傘を渡してそういった。


これは思ってもみない幸運。正直考えつかれていたし予定なんてなかったから少しだけ甘えたくなった。


「じゃあ、宿に行かせてもらおうかな」

「あてがないなら明日トルマに帰るけどついてきなよ」


え、そこまでは恐縮しちゃうんだけど。


「迷惑かけていいの?」

「...えへへ、本当は家に呼ぶつもりでここに来ました」


あら、かわいい。

わざわざ私を呼ぶつもりでここに来てくれたんだ。


まぁいいや、お言葉に甘えてマヤちゃんの家に行こう。

一人でいても色々考えてしまうし。

「ありがとう、お言葉に甘えようかな...?」

「やったー!何して遊ぶ?」


マヤちゃんの顔がぱあっと明るくなった。

うんやっぱり子供は笑顔が一番。


借りた傘をさすとマヤちゃんについていく。

マヤちゃんはなんだか嬉しそうに、朗らかに帰路についていく。


しばらくは何も考えずにいよう。いずれ私が何をすべきかわかるはずだから。

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