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プロローグ
夜更け。
伝令は告げた――
街ひとつを踏み潰すほどの獣が進行を始めたと。
夜の街は、本来なら労働を終えた人々が眠りにつく安らぎの時間。
けれど現実は違った。静寂の代わりに、恐怖と叫喚が満ちていた。
「逃げ場なんてないじゃないか」
誰かのつぶやきが虚空に消えた。
要塞の外は外敵たちの世界。
どこを探しても逃げ場はない。
立ち向かった兵たちでさえ打倒されたと聞いた。
絶望を超え、もはや悟りのように思った――
人は、この世に抗えぬものがあるのだと。
この街の営みはあと数時間で消え去るのだと。
その時。
風が吹いた。
思考を吹き飛ばすような、しかしどこか安らぎをもたらす突風。
それは幾度も我らを救った風。
祈りにも似た感情が、無意識に胸に宿る。
視界の先――獣に、ただひとり挑む影があった。
誰もが悟っていた。今回の敵は桁が違うと。
分が悪すぎると。
だからこそ恥も外聞も捨てて、ただ願った。どうか――。
刹那。
一閃。
...
......
轟音も咆哮もなく、ただ結果だけが残った。
圧倒的な力で、獣は斃れた。
遅れて裂けるような轟音が衝撃となり街を揺らす。
――
そして夜は明けた。
嘘のようにあっけなく、勝鬨が街を震わせる。
我らは気づいた――
最初から諦める理由などなかったのだ。
彼女がいる限り。
街の英雄。
最強の兵士――




