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 「――ルナ・・それは私と最後までしてくれる・・ということかい?」



 「はい、セイとなら私はいつでも最後までできます」



 真意を探ろうと瞳を覗き込んでいるセイフィオスの心の動揺が、こちらにまで伝わってくるかのよう。

 心がむず痒くなるほどに甘く切なくて、堪らず彼の胸元に手を這わせた。


 早鐘を打ち続けるような自分の胸の鼓動よりも強く、ドクドクと拍動が早くリズムを打っている。


 切なげに揺れる瞳は蕩けてしまいそうな熱と甘さを含み、まるで自分まで引き込まれて飲み込まれてしまいそう。

 


 「すごく欲しい――・・・ルナの全てが・・」



 「――セイ・・私も・・」



 吸い寄せられるように近づき鼻頭が擦れる。

 触れそうで触れない唇がじれったくて、触れ合えない僅かな距離が我慢できず柔らかい唇に吸い付いてしまいたい。


 理性が決壊しかけた時、セイフィオスはコツンと額を合わせた。

 


 「でも――・・まだしないよ」



 「――え?」



 予想せなかった返答にルナセラは身体を強張らせた。


 熱の籠った眼差しも、煽るように互いの鼻を触れる乞うような触れ方も変わっていないのに、告げられたのは拒絶だった。

 告げられた言葉に頭が追い付かず頭の中が真っ白になる。


 何がダメだったのか分からず、急激に心が冷たくなっていく感覚は冷静さを取り戻していく。



 ――私・・何か間違えてしまったの?



 近すぎて上手く表情が読めないルナセイラは、瞳を揺らしから回る思考を抑えられない。

 


 「勘違いはしないで・・・本当は・・今すぐ食べてしまいたい位なんだ・・」


 「――たべ?・・・・え?・・どういう――」


 頬を火照らせたまま、くすりと色気が溢れる微笑を向けられて、冷えた心はまた滅を持ち期待するように高鳴ってしまう。



 「――ルナとの初めては、義務とか誰かへの嫉妬の気持ちが混ざった状態でしたくない――大切にしたいんだ」



 「――セイ・・」



 胸に添えたてのひらからは変わらないセイフィオスの鼓動がどくんどくんと早く打ち続けている。

 身体全体で『欲しい』と訴えてくれているのに、セイフィオスは流れに任せるつもりはないといことなのだろうか。


 「色々な状況を鑑みれば今すぐにでもした方が良いかもしれない。――でも今はまだ私の心は状況をうまく呑み込めないんだよ。他の者たちがルナに触れられることに嫉妬心でどうにかなってしまいそうなんだ。

 大切にしたいのに全てを食らいつくすように荒くしてしまいそうな自分がいる。――ルナが一人一人に心から向き合っているからこそ・・私もルナと向き合って、大切に出来るように心を整えてからしたい」



 痛みを伴うほどの愛情が言葉に乗ってルナセイラの胸に染み込んでくる。――きゅうっと締め付けられる胸の痛みは苦しいのに甘く切ない。触れる額が心地よいのに、もっと触れたくて堪らないこの感覚が愛なのだろうか。


 ルナセイラが愛情と親愛を区別しそれぞれに向き合い、セイフィオスを大切にしようとしていることに必死で応えようとしている。

 大切にしようとしてくれる気持ちが嬉しいのに、わずか数センチの唇の距離がじれったくて堪らない。

 乱暴にされてもいいから奪われたい気持ちにすらなっている。


 理性と本能の狭間で心はぐつぐつ煮立つように熱くておかしくなってしまいそう。



 ――ふふふっ・・

 堪えきれず吐息を吐くようにセイフィオスは笑い声を漏らす。



 「つい最近まで手の甲にキスされただけで気を失っていたのに。いつの間にルナはこんなに積極的になってくれたんだろうね。――そんなに熱の籠った眼差しで迫られたら、私の方がルナに食べられてしまいそうだよ」



 「~~~っそれは・・セイが私を慣らしたから――」





 転生に気付くまでは、ルナセイラは典型的なブレド王国の淑女としての感覚に染まっていた。


 手の甲へのキスが、あれほど衝撃を受け気を失う程だなんて自分自身ですら思いもしなかったのだ。

 それから今に至るまで、セイフィオスの積極的なアプローチのおかげで身体的な接触にも慣れ、彼への気持ちも徐々に大きく育っていったのだ。

 

 セイフィオスでなければ、今もまだ手の甲へのキスもできなかったかもしれない。――恋すら自覚することはなかっただろう。

 彼の一途な愛情表現とサポートは、ルナセイラの固く閉じた蕾を開花させ身を焦がすほどの愛の花を咲き誇らせた。


 自分の感情を見透かされてしまい、今にも爆発しそうな程に顔が熱くてたまらない。――否、もしかしたら本当に爆発してしまうのではないだろうか。



 「最後まではしないよ。――・・・・まだね」


 

 「それじゃ・・いつ?・・・・間に合いますか?」



 じれったいセイフィオスの言葉に、つい『聖女の義務』を持ち出してしまう。


 ずるいとわかっていても、こんなに甘い雰囲気にどっぷり浸かってしまったら『待て』なんて辛すぎる。

 耐えられないとばかりに瞳は潤み、縋る様に触れているだけだった手はいつの間にかきゅうっとセイフィオスに縋りつくように強くシャツを握りしめていた。



 「はは・・ルナは本当に可愛いね。今でさえ我慢しているのにどこまで私を煽るんだい?」                                     


 

 劣情に染まりきった面持ちで苦笑する姿は、『待て』をされた犬のよう。

 消えてしまいそうな理性に縋りつく2人は互いに理性を手放さぬように必死だった。



 「長く待たせるつもりはないよ。――だって今ですらもう一杯いっぱいなのだからね。――私がルナの気持ちに応えられるようになるまで、もう少しだけ待っていてくれるかい?」



 「――待っています・・・・私にはセイだけだから・・」



 ――っくぅ・・

 ルナセイラの言葉にセイフィオスは堪えきれず呻く。


 ぐっとかき抱きたい衝動を堪えて額を離すと、再びルナセイラの瞳を熱で溶けてしまいそうな程に蕩けた眼差しで見つめる。

 


 「最後まではしないけど・・・・途中まで・・ルナを堪能させて」


 触れるか触れないかの優しい感触がセイフィオスから唇に齎される。

 返事を返す間もなく待ちに待った触れ合いに、ルナセイラは心躍り自ら吸い付いてしまう。


 心のままに抱きしめ合い互いの感触を堪能すると、セイフィオスはぐいっとルナセイラを抱き上げた。


 流れるように彼はルナセイラを横抱きにしたままベッドへ歩みを進めていく。

 燭台の灯を一つだけ残して他の灯を全て魔法で消した。

 暗い部屋の中、窓から差し込む月明かりと一つの蝋燭の灯が2人を優しく照らしだす。





 ――その夜、互いの肌を重ね合い幾度となくルナセイラはセイフィオスに加護を与えた。

 その行為は燃え上がるような熱が収まるまで終わることはなかった。


 全てに口づけ、セイフィオスは幾度となく高みへと昇らせる。

 「もう無理!」とルナセイラが甘く叫ぼうと止まらない。


 『待て』をされたセイフィオスの情欲の重さは計り知れない。


 

 普段の涼やかな彼の雰囲気などかき消すような劣情と執着に、ルナセイラは理性を飛ばして翻弄され続けたのは言うまでもない。


 

 

 

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