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サーシェンが部屋を退出しようとすると、外で護衛をしていたエディフォールが入れ替わりで入室した。
彼の護衛を一時サーシェンが替わってくれるようだ。
エディフォールもサーシェンの座っていた椅子へ腰かけると、随分神妙な面持ちでこちらを見つめた。
「お待たせしました。エディは何か不安や、私に話したいことなどはありませんか?」
気持ちを解そうと微笑み告げるルナを、ほんの一瞬悲しげに見つめてから彼は話し始めた。
「俺は―――凄く幸せだと思っているよ。
沢山ルナには迷惑をかけてしまったというのに、こうしてマジカルナイツにまで選んでもらえたのだから。それに、魔法スキルもSS ランクに到達できた・・」
「それはエディがひたむきに努力し、最善を尽くしたからですよ。目で見て、そのたゆまぬ努力と強くなりたい意思を感じました。
エディの戦う姿を見て、きっと素晴らしいマジカルナイツになってくれるだろうと私は確信したのです。――ですから、私も幸せです」
嘘偽りのない本心をルナセイラはエディに返した。
しかし、なぜか彼の瞳には陰りが見える。
「ありがとう―――こうして共に旅ができて幸せを感じるが、―――・・実は責任も感じている。
俺は穢れた魔力に侵されたままのアイナを置いてきてしまったから・・」
陰りの原因はアイナだったのかとルナも理解した。
誰も聖女候補であるアイナが魔女になるだなどと想像しなかったはずだ。―――しかし、サポート役である彼らは「想定外でした」で済むわけがない。
特に、王族として率先してアイナのサポートをしていたエディフォールは尚更だろう。
「―――それは、エディにもサーシェンにもどうにもできなかったことです。サーシェンも無理だと思ったからこそ、エディを連れて私の所まで来たのではないですか」
「わかっている。―――だが、最初は違ったんだ。
入学したばかりの頃は、アイナも聖女候補として努力しようとしていた。・・・それなのに、過酷な状況のアイナを守ってやりたいと過保護になりすぎて訓練を怠らせ、挙句の果てには色恋へ走ってしまった。
王族としての役目を放棄していたことに、責任を感じている」
苦悶の表情で語るエディフォールの顔は蒼白で、強く膝の上で握られた拳も震えていた。
「入学してからの話だったのですね。―――それであれば私も見守っていたので知っています。
確かに彼女は随分と恋に奔放でした。―――ですが、最初は聖女候補として努力しようとしていたことは私も知っていました。――・・放課後図書室から見ていたので。
私が癒しの聖女であることに気付いたのは最近だったのです。――ですが、、彼女は私も聖女になる可能性があることをどうやらご存じだったようなのです。
だからなのでしょうか・・アイナさんは私が聖女に選ばれるのではないかと、ずっと不安だったようなのです。―――ですから、彼女の心を不安定にさせたのはエディだけではありません。」
結果的にアイナは攻略対象者たちと身体の関係をもち、聖女としてあるまじき行為をしてしまった。――しかし、ルナセイラがいなければアイナは攻略対象たち全員と、体の関係までもつことはなかったのかもしれない。
――たらればでしかないけれどね・・
エディフォール達に甘えて聖魔法を特訓していなかったことは事実だが、ルナセイラがいなければもっとまじめに聖魔法を学んでいたのではないかと思えてならなかったのだ。
――アイナは私が攻略対象たちを体で篭絡すると思っていたのでしょうからね・・・・
「アイナは―――ルナが聖女だと知っていたんだな・・・」
「そのようです。私も彼女から聖女の話を聞いたのは、自分の容姿を誤魔化さなくなってからなので最近なのですが、彼女はどうやら入学した時からご存じだったようなのです。――ですから、相当不安を溜めこまれていたのではないでしょうか・・・」
「―――俺は・・何も知らなかったんだな・・」
アイナはルナセイラに出会わなかったとしても、エディフォールたちに言うことはなかっただろう。
実はアイナが転生者で、エディたちを攻略していたのだなどと言った所で信じてもらえるとも思えない。
――もしアイナに、「私転生者なんです。」と言われても、前世を思い出していなかったら到底信じ難かったと思うわ・・
「アイナさんは秘密にしていたようなので、知らなくても仕方ないのではと思います。――・・エディは今後どうしたいのですか?」
「―――責任を・・取りたい。」
「責任ですか?」
気落ちした様子でコクリとエディは頷く。
「父上の命でアイナのサポートについたにも拘らず、サポートどころか成長を妨げてしまったんだ。――挙句の果てにはアイナを魔女化させる原因を俺が作ってしまったからな・・」
「・・・・何か具体出来にどうしたいなど決めていますか?」
「いや・・まだ何も―――だが、俺にアイナを浄化することはできない。だが、今からでもアイナをサポートすべきだと思っている。・・恐らくアイナが正気を取りも出せたとしても、してしまった罪悪感で再び精神不安定になってもおかしくないだろうから」
エディフォールの懸念は尤もだ。
たとえ付け入られる心の隙があったのだとしても、最初から隙があったわけではないはずだ。――だからこそ、アイナが正気を取り戻した時、自分を必要以上に責めてしまうということは十分考えられた。
「・・・・確かに・・自分を責めてしまう可能性は高いですね。
浄化をして差し上げることはできたとしても、彼女の心に私が寄り添ってあげることはできないと思います」
「わかっている。・・俺は、可能ならば今度こそアイナを導く役割を果たしたい。サポートする役目だからでなく、王族としてアイナを一生守るべきだと・・思っている」
「良いのですか?―――彼女の側に一生寄り添うとなれば・・・色々と諦めなければならないのではないでしょうか」
「――わかっている。・・・それでも俺は、それだけの事をしでかしてしまったと責任を感じているんだ。
ルナのマジカルナイツとしてできる所まで共に戦いたいし、それこそが俺の願いだ。―――だが、全てが終わったら、俺は自分の障害をかけて責任を取るべきだと思っている。
その為にももっと強くなりたいと思う。―――心もな」
「わかりました。エディの気持ちを私は尊重します。
ただ、この件は今後皆と相談しながら決めていきましょう。――一人で決めるには大きすぎる問題ですから。
もし導く者が必要な場合は、エディの想いを一番に尊重したいと思います」
「ありがとう。―――安心して任せたいと思ってもらえるように努力する」
「こちらこそ、ありがとうございます。―――では加護を―――」
「ルナ―――俺は・・・・君の事が好きだ」
気持ちを切り替え加護を与えようと動こうとしたルナセイラの身体がびくりと固まる。
想いもしなかった突然の告白に、ルナセイラは目を瞬かせた。
「―――・・え?」
「・・・・すまない。告げるべきではないことはわかっていた。・・・それでも・・・・自分の本心をこのまま胸の奥にしまうままにするのが辛くて堪らなかったんだ・・・」
「・・・・・」
「学園でルナと話したのは数える程しかなかったが、それでも十分すぎる程ルナの全てを愛しいと感じてしまったんだ。
ルナのマジカルナイツになってから想いは大きくなる一方なんだ。・・すまない・・」
申し訳なさそうに自分の想いを告げる彼が哀れに思えた。
エディフォールは王族である以上、品位を下げるようなことはできない。
兄であるセイフィオスの想い人に懸想していると告げるなど醜聞もいい所だ。
きっと王都に戻ったら、もう告白するチャンスはないと考えたにちがいない。
だからこそ、ルナセイラは今答えを出すべきだと思った。
「―――エディ。私の事を好きになってくれてありがとうございます。想いはとても嬉しいです。・・・けれど、気持ちには応えることはできません。
私はセイを愛しています。――それでも、エディのくれた想いは忘れません。
私は私のやるべきことを精一杯頑張ります。エディがしたいことも応援します。
エディに対する想いは親愛ですが、これからもずっと仲間として大好きですよ」
「――――ありがとう。・・・・俺も・・大好きだ・・」
優しく微笑みを向けエディに近づき、ルナは彼の額に唇を落とし加護を与えた。
エディの眦から涙が零れ頬を伝ったが、抱きしめることはなかった。――ただ、これからのエディフォールが少しでも思い描いた未来を歩めるよう願うのだった。




