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 妖精と人の間に生まれた混血であるサーシェンは膨大な魔力量を保有していた。


 学園入学当初からスキルセンスも非常に高く、魔法スキルも弓術スキルもSSランクを超えていた。稀代のマジカルナイツになるだろうと誰もが期待していたにちがいない。



 ルナセイラの『聖女の匂い』にも、入学した頃から気づいていたのではないだろうか。


 最初はサーシェンの能力を知らなかったルナセイラだが、彼が妖精特有の嗅覚で魔力感知が出来ると知ってからは、確認できていないが自分の勘は間違っていないのではないかと思えた。


 ―――しかし、彼はルナセイラが元の姿に戻すまで接点を持とうとはしなかった。


 彼は『美しい』ものが好きなことは知っているが、『特別』にも興味を示す人だ。それは彼と交流するようになっておのずとわかったこと。自分のマジカルナイツになってくれたこともそうだが、アイナを裏切ってまでする程の事だったのかルナセイラには理解できずにいた。



 ―――折角の機会だから、私から聞いても構わないわよね・・



 ルナセイラは元々乙女ゲーム『リリベラの乙女とマジカルナイツ』の世界であるこの世界が大好きだった。

 特にメインキャラクターに関しては親愛は常に抱いている。



 ―――表には出さないけどね・・



 だからこそ、サーシェンの動向は一番興味深かったのだ。


 セイオスがアイナに靡かなかった理由はわかる。

 ラジェスがアイナを疑わずに信じようと努めているのもわかる。

 アレクシスがアイナに心酔するのも物語通りだ。



 ―――しかし、サーシェンだけはわからない。



 ゲーム上でもアイナに興味を示すのは聖女としての能力と美しさで、それ以外に特に執着している様子はなかった。更に、図書室から覗いていた間もサーシェンにとってアイナは、恋人というよりは知り合い程度。もしくは観察対象のように思えたのだ。


 そんな執着心を見せないサーシェンが、どうしてルナセイラのマジカルナイツになることを望んだのか。どうして執着してくるのか。――気になって聞きたくて堪らない。



 「あの――、私聞きたいことがあるのですが、よいですか?」



 「僕に聞きたいこと?いいよ~ルナが知りたいことなら何でも教えてあげる~」



 「サーシェンはどうしてアイナさんではなくて、私のマジカルナイツになってくれたんですか?」



 「――――・・・・え?なんでアイナ?」



 先程まで微笑みを浮かべていたサーシェンは、まるで聞かれると思いもしなかったような顔をして目を瞬かせた。



 「はい、アイナさんとこれまでずっと一緒にいたじゃないですか。今は彼女が魔女になるかもしれないという危機的状況ではありますが、だからこそ傍にいてあげたい。―――・・とか思ったりしませんか?」



 「え~~?思わないよ~。―――そもそもアイナの側にいたのは、王命だったから傍にいただけだし。最初はちょっと興味持ってちょっかいも出したけど、今は臭すぎて王様に頼まれたって傍になんていられないね~~」



 「――・・穢れた魔力はそこまで言う程キツイ匂いなのですか?」



 「きついなんてもんじゃないよ~!!妖精は絶対嫌悪する匂いだね!最初は少しは我慢してたけど、エディが魅了された時なんて、学園中が酷い匂いに包まれてたから耐えられなかったよ・・・」



 「そ・・そんなにひどかったんですね・・」



 「匂いも、視る事もできないルナからしたら『なんで?』って思う気持ちもわからなくもないけどさ~あんなとこにずっとい続けるのは拷問だよ?~~~~マジで!」



 本気で嫌そうに言う彼の言葉は嘘とはとても思えなかった。きっと相当アイナの環境は大分変わってしまったのだろう。



 「―――それでは、何故私の所に来てくれたのですか?」



 「そりゃルナが好きだからだよ!お気に入りだしね。聖女の匂いは妖精は特に好きな匂いなんだよね~」



 「もしかして・・私の事は『匂い』で気に入ってくれていたのですか?」



 「うん。見た目も好きだけど、妖精にとって匂いはかなり重要だからね!アイナの傍に最初いたのもそれが一番の理由かな~」



 ―――なるほど、それなら穢れの魔力で匂いが変わってしまったアイナに、愛想つかしていてもおかしくないわね・・



 きっと最初はアイナも『妖精にとって魅力的な匂い』がしていたのだろう。しかし、穢れた魔力に穢されるようになって匂いが変わってしまった。

 だからサーシェンはアイナと一緒にいる事すら嫌になってしまったのだ。


 想像していたよりわかりやすい理由でルナセイラはすんなり納得できた。



 「サーシェンは私が聖女だと入学当初から気づいていたのですか?」


 

 「え?ん~~~・・・最初はわからなかったよ?でも、二年の終わりくらいから少しずつ気になりだしていたかな?」


 

 「そうなんですか?!・・・・私・・それまでは聖女の力に目覚めていなかったのでしょうか」


 

 「どうだろう。それはわからないかな。これは女神様しかわからない事だと思うな。アイナが聖女として見込みがなくなったから、ルナの匂いが濃くなったんじゃないかな?」



 「どうしてそう思ったんですか?」


 

 「二年になってから僕たちともアイナが親密になりだして、その辺りから匂いがすでに変わり始めてたんだよ。癒しの聖女と違って、聖魔法を扱う聖女は、努力して聖魔力を身がいて聖女になるからね。逆もあり得たってことじゃない?

 堕落した聖女候補なんて女神が見込みがないって判断してもおかしくないでしょ~?」


 

 「・・・・たしかに」



 「ま~~これはあくまで僕の勘だよ~アイナのことは深く考えなくて良いと思うよ?元々嫉妬深かったから、面倒くさい性格なんだろうな~とは思ってたし、理解するのは難しいと思うんだよね~」



 「そうですね・・確かに何度お話しても分かり合える気はしませんでした。

 ―――・・でも、そうなるとアイナさんの魔女化は止める事はできないのでしょうか・・・」



 「僕の直感の答えでいいなら、無理だと思う。アイナの下を去る直前は、もう魔女化していると言っても過言じゃないくらいだったから~」



 率直に答えるサーシェンはいつも通りの口調に見えて、こちらに気を使ってくれているようにも思えた。

 普段からお茶らけた物言いをするサーシェンが気を遣う程なのだとしたら、アイナの状況はそれほど深刻なのかもしれない。



 ―――これは・・私一人でどうにかできる問題ではないような気がするわ・・・



 サーシェンと言葉を交わして直感で感じた。


 恐らくアイナを浄化できたとしても、その後の対策がなければ初代の癒しの聖女ローナ様の危惧した未来が、今後も繰り返されてしまうような気がしたのだ。



 ―――私一人で無理なら・・・どうやってアイナさんを浄化した後も魔女化しないようにしたらよいのだろう。どうやって次の世代に魔信仰のような者たちを継がせないようしていったらよいのだろう―――。



 答の出ない疑問だったが、少しだけ問題が明確になってきた気がした。



 「お話を聞いてくださってありがとうございます。一人で抱え込むより、お話を聞いてもらえた方が状況は見つめやすくなった気がします!」



 「ほんと~?それならよかったよ~!聖女様のお役目に比べたら、僕たちが出来る事なんてたかが知れているんだからさ、それでも出来る事は力になるからこうやって話してよ!」



 「――はい!そうさせて頂きますね!」



 二人は見つめ合いすっきりしたように互いに微笑み合った。



 「それでは加護を付与させて頂きますね!」



 「うん!・・・・だけど・・ま~た額なの~?」



 「不満ですか?」



 「そりゃ唇の方が良いに決まってるよ~」



 ペロリと舌なめずりしたサーシェンが軽い笑みを浮かべる。



 「―――私は、聖女の加護は、必ずしも額や手の甲への口づけが付与の力が少ないとは思ってはいないんです」



 「どういうこと?」



 サーシェンはすぐに顔色を変えて真剣な眼差しをルナセイラへ向けた。



 「確かに愛する恋人に対してであれば、唇へ直接口づけしたり、性交に近い行為は加護の力が強いかもしれません。ですが、もし私が愛する者以外へ恋人にするような口づけをしたら―――・・女神様はどう思われるでしょう?」



 「あ―――・・なるほど?アイナと同じになるって言いたいんだね?」



 「そういう事です。私は『愛』は全ての方へ平等に差し上げる事は出来ませんし、順位をつけることもできません。ですから、手の甲への口づけや、頬、額への口づけが加護として成り立つのは、それ以外の愛情を示すからなのではと思っているんです。」



 「親愛とか?」



 「はい。私の中で、マジカルナイツの皆さんの能力を引き上げるのに親愛で加護を付与するなら、額が一番効果が高いのではないかと思っています」



 「そっか~・・・・ルナはちゃんと理由があって額にしてたんだね~・・・それじゃ仕方ないじゃん」



 「ご理解いただけて嬉しいです」



 府府っと微笑みながら唇を尖らせるサーシェンを見つめた。

 サーシェンは一見我儘な少年のように見えても、しっかり周りを見ている。だからこそアイナからエディフォールを遠ざけたのだとルナセイラは思う。


 感覚的に、相手の事を試しながら状況を見定めているように見えるのだ。


 きっと話したらわかってくれるような気もしていた。その勘が当たったことが嬉しく、より一層サーシェンを友人として愛おしいと思えた。



 「ありがとうございます―――。」



 心からの感謝の気持ちを伝え、ルナセイラはそっとサーシェンの額に唇を落としたのだった。 


  


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