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 聖女の加護を授かったヘラは確実に変化を感じ取っているようだった。しかし、何がどう変わったのかは実践で魔力を行使してみなければ詳しくはわからないようだ。


 ヘラは瞳を輝かせながら部屋を後にし、その後やってきたのはレインだった。


 「お待たせしました。何か話したいことはありましたか?」


 ひとまず椅子へ座るよう勧めてからヘラの時と同じように話を切り出す。


 「俺は、ルナのマジカルナイツになれて幸せです!!―――・・でも、何故セイが特別なんですか!・・恋人は・・セイじゃなきゃダメなんですか?・・・・俺じゃ・・だめなんですか?」


 苦悶の表情を浮かべながら告げるレイン。

 彼の気持ちもわかっていたからこその『先程のルナセイラの言葉』なのだということを、レインは受け止められないのだろう。


 「―――レインの気持ちは凄く嬉しいです。

 出会って間もない私の事を大切に想ってくれて、裏表のない感情表現も私にとっては救いの一つです。」


 「それなら――――。」


 「それでも、仲間と恋人は違います」


 追い縋るレインにキッパリと告げた。『貴方は仲間なのだ』と―――。

 

 セイフィオスはルナセイラにとって推しではあるが、それだけではないのだ。



 これまでの三年近く共に学園生活の中で育んだ想いや絆は、恐らくこの世界の誰にも凌駕できないものだと自分の気持ちを信じている。

 恋人としてやっていけるのか自信がなくて付き合いを始めるまでに時間はかかったが、だからと言って他の誰かに心惹かれたわけでは一切ない。

 

 そもそも元は恋愛自体するつもりがなかったのだから。


 その頑なな心を絆したのがセイフィオスだった。他の者が代わりになれるわけがない。



 「――それでは・・これからもセイがマジカルナイツの筆頭であり続けるのですか?」



 「私のマジカルナイツという事でしたらそうなります。ですが、一番にこだわるよりももっと大切な物があると思うのですが・・」



 「・・・・大切な物・・ですか?」



 「はい。誰かを守りたいという強い想いというのは、順位で表すものではないと思っています。守りたい相手への見返りのない想いだと思うのです。

 だから、私は選出を行った時に、自分と同じ想いの方だけがマジカルナイツになってほしいと願ったのです。」



 「見返りのない想い・・」



 「私は国を救うのを何か見返りが欲しくてするわけでも、一番になりたくてするわけでもないんです。

 一人でも多くの民の笑顔を護るために、今自分の時間を捧げて旅をしています。

 自分の仲間には、同じように国の為に見返りを求めずに共に戦って欲しいのです。――・・レインは、どうですか?」



 レインにはルナセイラの言っていることは自己犠牲のように思えた。

 見返りがあるから頑張れる。これまでその想いで今までルナセイラのマジカルナイツになりたいと願ってきた。


 レインにとっての見返りは金や地位などではない。


 ルナセイラにとっての一番になることだったのだから。


 しかし、ルナセイラはそれを良しとは思っていない。そのことに戸惑いが隠せない。

 自分が愛されたいという想いが、ルナセイラの迷惑になっているなど思いもしなかった。


 彼女は見返りの情を求めるな。と、言っている。


 短時間で自分の気持ちと向き合えるわけがなかった。

 レインは言葉を失い視線を彷徨わせる。



 「―――ごめんなさい。厳しい言い方だったでしょうか・・」



 「・・・・少し・・」



 本当は「いいえ」と否定して彼女を安心させたかった。だが、今のレインにはそんな格好つける余裕など欠片もない。



 「私はレインの想いに同じように返してあげることはできません。私は自分が聖女であると決めた時に、自分の恋愛は諦めようと思っていました。それでも、こんな私にずっと寄り添い続けてくれたのがセイなのです。

 彼は私を慕い続けてくれながらも、見返りのない状況に不安な気持ちで押しつぶされそうになりながらも、私を守るマジカルナイツになろうとしてくれました。

 そんな彼だからこそ私は誰よりも傍にいて欲しいと思ったのです。」


 静まり返る部屋の中でルナセイラはそのまま話を続ける。


 「私にとって聖女は『唯一無二の愛』を大切にできる者だと信じています。だからこそ自分が選ばれたのだとも思っているのです。―――ですから、今後は愛する人はただ一人。

 それだけは何があっても覆すつもりはありません。―――ですが、仲間としての親愛は大切に育みたいと思っています。

 お一人お一人とお話が出来る時間を大切にし、結束を深めて共に民が平和に暮らせる世界を実現させたいのです」


 語り掛けるように告げる言葉に、レインはルナセイラを見つめ返す。


 「―――俺にとって、ルナのマジカルナイツになること。貴女の唯一になることが俺の夢であり目標でした。幼い頃王宮で密かに見つめた可憐で天使のように美しかったルナを自分が守りたい。そう思い続けてきたんです・・・・」


 堪えるように指先に力が入り、ぎゅうっと膝の上で拳を握りしめながら告げる言葉には、熱い想いが詰め込まれている。それがわかるからこそ表情を歪めないように必死で努めた。


 狂おしいほどの愛が伝わってくる。


 それでもルナセイラの心は「申し訳ない」という思いにしかならなかった。


 「―――・・でも・・ルナの想いは少しだけわかった気がします。

 全部とは・・まだいかないです。

 俺にとってルナは全てだったから。―――貴女の愛を諦めろと言われても、今は受け止めきれません。

 だけど・・それでも俺は自分の人生はルナを守ることしか考えられないんです。

 俺の想いはルナの想いとずれているかもしれないけど、それでもルナの足を引っ張らないよう努力します!・・・・だから、今は・・同じ想いになれない俺でも・・共に戦わせてくれませんか?」


 「ありがとうございます。同じ想いは返せませんが、これから沢山言葉を交わしていきましょう。

 レインが私の事を本当に大切に想ってくれていることはわかっています。ただ、先程のような言い合いになってしまうと、それが皆の命の危機に直結しかねません。―――だから、仲間として少しずつ皆と歩み寄って下さい」


 「俺はレナを悲しませたい訳でも怒らせたいわけでもないです。――これから先、自分の気持ちで仲間に迷惑かけないようには気を付けます」


 「ありがとうございます。――色々言いましたが、レインは私にとって大切なマジカルナイツであり戦友でもあります。

 これから少しずつでも想いが重なるように話を重ねていきましょう」


 「――はい」


 最初は迷いネコのように不安げな表情をずっと浮かべていたレインだったが、今は少しだけ表情の陰りが消えたように感じる。


 想いを変えることは難しい。


 長年生きる道しるべになっていた想いを変えろというのは酷な話だ。


 それでもきっとレインならば、共に同じ目標に向かって歩んでくれるはず。

 ルナセイラはそう信じることしかできなかった。



 想いを込めて、レインの前髪を手で避けると額にそっと口づけを落とし加護を授けたのだった。





 ***




 しばらくしてレインと交代したサーシェンが部屋へやってくると、何も言わず彼はルナセイラの前の椅子へストンと腰かけた。


 「お待たせしてしまいましたね。少しお話しませんか?」


 「うん、待ってたよ!僕も早くルナと話したいと思ってたんだよ~」


 神秘的で儚げな笑みを浮かべながらも無邪気にサーシェンは告げたのだった。

 


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