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「――っふざけんなっ!!なんでセイばっかりずるいだろ!!」
「ずるいわけないだろう?私たちは適した関係なのだから、問題ないよ」
「い~やっ!!問題ありありだね!僕も反対だよ~!」
男三人が宿屋のチェックインが済んでから言い合いが始まってしまった。
まさか六人での旅が始まって初日に、宿の部屋割りで喧嘩が起こるとはルナセイラは思わなかった。
エディは自分の立場を弁えているのか、追及はしないが不安そうな顔をしながら静かにこくこくと頷いている。ヘラは呆れながらもしっかりルナセイラの横で護衛の任務をこなしてくれていた。
「あの、私を心配しての部屋割りの話し合いなのだと思うのですが、私は恋人であるセイに同室をおねがいしたいです。そして、深夜の護衛をする方がヘラと同室になっていただけたら問題ないのではないでしょうか?」
ルナセイラの率直な意見にセイフィオス以外のレインもサーシェンもエディも顔面蒼白だ。
―――私・・そんなにひどいことは言っていないと思うのだけど・・?
一見主張が少なそうに見えるルナセイラであるが、前世の記憶を取り戻してからは自分の気持ちを伝えることに躊躇はなくなった。むしろ、危険と隣り合わせの旅を六人でする為には、誰かが舵を取らなければならない。
ルナセイラは舵取りをセイフィオスにしてほしいと思っていたが、彼の言うことに他のメンバーが苦言を呈するのであれば、自分が舵を取るしかない。―――そう判断したまでだ。
「ルナ~僕たちにチャンスはくれないのぉ~?」
口を尖らせて不満げにサーシェンが駄々を捏ねる。同じ歳だというのに儚い美少年な見た目の彼は瞳をうるうるさせている。
恋人がいなければ少しは違う部屋割りを検討したかもしれない。しかし、今は恋人のいるルナセイラに取って選択は一択のみだ。熟考するまでもない。
「私たちは王国の危機を救うための旅の最中です!しっかり休息をとることも大切ですし、私はセイに全幅の信頼を置いています。それに、他の皆さんとはお一人お一人とお話をする時間をちゃんと設けようと思っています。何よりも私の判断を皆さんは受け入れてはくれないのでしょうか?」
「――――っ!!」
悲しそうにルナセイラに問われてしまえば、男達はそれ以上反論などできるはずはなかった。
「承知いたしました」
ルナセイラ以外の五人は今度こそ渋々ではあったが従った。
「――では、私の部屋の中の護衛はセイに任せます。部屋の外には毎夜お一人どなたかに護衛していただいて、それ以外の方はしっかりと休息をとって下さい。
深夜護衛の選出の件と、ヘラの事もありますので、それを考慮してセイは部屋割りを決めて下さいね」
「承知いたしました。私が責任をもって部屋割りと深夜護衛の選出をするよ」
ルナセイラの言葉に、にっこりとセイフィオスは微笑んで了承した。
他のメンバーはため息は吐き項垂れつつも、ルナセイラを怒らせるつもりはないらしく、セイフィオスの指示に従った。
「それでは後程夕食をしながら明日の話をしましょう。三十分後に私の部屋へ集合してから食事に行きますので片付き次第いらして下さいね」
微笑むとルナセイラは伝えるべきことを全て告げると、自分の部屋へと歩みを進めたのだった。
***
今夜の深夜護衛はエディフォールに決まったらしく、三十分経たずにルナセイラの部屋へやって来た。
「俺は部屋の外で待機しているのでご安心ください」
慈愛の籠った微笑みを浮かべてルナセイラに告げてから部屋を退出した。
セイフィオスは簡単に荷物を部屋に置いてから周囲の状況を室内から確認し、ルナセイラの部屋にいくつかの結界を張った。
「さっきは疲れているのに揉めてしまってごめんね」
「セイ・・皆さんが私の事を心配して揉めていたのだとちゃんと理解していますから大丈夫ですよ。でも、私はたとえどれだけの方々が私の事を心配してくれたとしても、私が愛情を注げるのは一人だけですし、傍にいて欲しい人も一人だけなのです」
しゅんとしながら申し訳なさそうに謝るセイフィオスは、五歳も年が離れているというのに何故こんなにも可愛らしいのだろう。
申し訳なさそうに告げながらルナセイラの前まで歩み寄ってくる。普段は凛々しく男性的な美しさなのに、今は子犬のように見えてしまう。
―――仔犬に見えるなんて・・失礼過ぎるかしら・・・
くすりと小さく微笑み、自分の目の前に立って項垂れるセイフィオスの手をそっと掬い上げて優しく握った。
彼はピクリと身震いし、ほんのりと耳を赤く染めて見つめ返してきた。
「私はルナが気持ちをまっすぐに伝えてくれるからいつも救われているよ。心の中は君への想いでドロドロなのに、それが許されているかのように思えてしまう」
「許されているんです。だって私の大切な恋人ですから」
はにかんだ笑顔を投げかけると、セイフィオスは感情の昂ぶりを堪えきれずにルナセイラをかき抱いた。
「~~~幸せ過ぎてひと時も離れたくない」
ぎゅうっと抱きしめながら溢れる想いを口にするセイフィオスの腰に、想いを受け止めるようにそっとルナセイラも手をまわした。
「これから毎晩皆に聖女の加護を与えるでしょう?だから、セイには心配だと思うけれど、私を信じて欲しいんです。だから想いはちゃんと口にしますね」
「ありがとう。―――確かに毎晩加護は・・嫉妬してしまうね・・でもそれでもルナを好きでいたいと願ったのは私だから、ちゃんと傍で見守るよ」
熱の籠った眼差しを向けられたルナセイラは、そっと彼の頬に手を添えて彼を受け入れた。
優しく触れるだけの唇の感触でも、二人は満ち足りたように幸せを感じることができた。
***
「――――明日はそのつもりで動いてほしい。ルナはそれで構わないかい?」
夕食を食べてデザートを口にしながら明日の事を話し合っていた。
セイフィオスは、これまで以上にルナセイラのパートナーとして相応しくあろうと、伺いを立てながら話を進めてくれている。
それぞれ個性的なメンバ―四人をまとめるのはセイフィオスも大変だろうが、ルナセイラの信頼に応えようとしてくれているのがよくわかる。他の四名も、意見は出すものの喧嘩腰なモノ言いはなくなりホッとする。
「では明日は遺跡探索と必要があれば浄化ということでお願いします」
「承知いたしました!」
ルナセイラが全員の意思確認の後、話を切り替える。
「では、今後私が皆さんにして差し上げられる加護についてお話しますね」
ルナセイラの言葉にメンバー全員が突如神妙な顔つきに変わり、空気も一瞬でピリッと緊張感が漂う。
「毎日、というわけにはいきませんが、今夜のようにゆっくり休める夜は皆さん一人一人と短時間にはなりますが、お話をして加護を授ける時間を持ちたいと思っています。私の部屋にお呼びしますので、私に話したいことや聞きたいことがあればその時に聞かせてくださいね」
優しく微笑みながら告げるルナセイラの言葉に、花が咲いたように四人は喜んだ。―――・・一人を除いて。
***
―――コンコン・・
「――どうぞ」
部屋をノックして入ってきたのはヘラだった。
ルナセイラは彼女を椅子へ座るよう促してからゆくりとまずは話を始めた。
「やっとちゃんとお話しできる機会が持てましたね。――とても嬉しいです」
「私もです!まさかルナと二人だけでお話しできる機会をいただけるとは思いもしませんでした」
打てば響くようにヘラは満面の笑みで答えた。
「仲間ですから、可能な限り結束を深めるためにも話が出来る時間も作りたいと思っていたので、喜んでいただけて私も嬉しいです。
マジカルナイツの一人として、私に話したいことや、不安や不満、願うことはありますか?」
「不平不満だなんて!!マジカルナイツに選んでいただけて、光栄です!!」
「それなら良かったです。何でもよいのですが、思うことはありませんか?」
食いつくように感謝の気持ちを露にするヘラに、優しく問う。
普段お姉さんのようにしっかりして見える彼女が、なんだか同年代の女の子に見えてしまう。三歳年上ではあるのだが、なぜかそんなに歳の差を感じないのが不思議だ。
もしかしたら、これまで同性の友人はほぼいなかったのかもしれない。
感覚ではあったがルナセイラはそう感じた。
「――あの・・私は聞いてみたいことがあるんです・・いいですか?」
「聞きたかったこと・・ですか?―――勿論です。話して下さい」
ヘラは、「ありがとうございます」と安心したように告げると話し始めた。
「―――私は女です。聖魔団には、ほぼ男性・・・というか私しかSSランクの女の聖魔団員はいません。
聖女様の加護を与えられてマジカルナイツは今まで女性でなった者など誰一人いませんでした。
聖女様は、本当は男性で揃えたかったのではないか?と、・・・。私は選ばれたことは光栄でありましたが、信じがたくもありました・・なぜ・・女である私を選んでくださったのでしょうか・・」
ヘラの言葉にルナセイラは目を瞬かせた。
―――誰かに女だからと否定されたということ?
同じ同性であるルナセイラは言いたいことはわかったが、すでに旅を始めた今もヘラが気にしていたことに驚きを隠せなかった。
「ヘラは、自分が何故マジカルナイツに選ばれたのかわからないのですか?」
「―――はい・・申し訳ございません・・」
普段自信に満ち溢れたように立ち振る舞っている彼女が、まさか『女だから』という理由で不安を抱えていたとは―――。
「ヘラがそう感じるということは、聖女というイメージに何か思う所があったようですね。
確かに自分の好きな異性で揃えたい聖女もいます。ですが、私がヘラを選んだのは貴女が優れたマジカルナイツになってくれると期待したからです。それだけなのですよ?」
「――私が・・優れたマジカルナイツになると・・思って下さったのですか?」
「はい。女とか、男とか、性別が関係ありますか?―――私は関係ないと思っています。
求めているのは、自分と共に王国を守りたいと想いを共にしてくれる方たちです。全員完全な実力主義で選出させていただいたのですよ」
「―――実力主義・・・」
ヘラの瞳は僅かに揺れていた。きっと信じられないと思う程、「女だから」という理由でこれまでに何か理不尽な想いをしたことがあったのかもしれない。
呆けたヘラの瞳の奥には微かに光るものが見えた。
「私が伝えたい想いは受け取っていただけましたか?」
「!!―――はいっ!ルナの気持ちをしっかりくみ取ることが出来ていなかったようで恥ずかしいです・・ですが、もう迷いません!ルナと共に、国の為に自分の最善を尽くします!!」
「ご理解いただけて良かったです。きっと信じ切れないと思ってしまう部分がどこかにあったのでしょうね。私は共に戦う戦友として、友情も大切に育みたいのです。
悩みや不安は少しでも抱えずに済むように、私に話せることであれば気兼ねなく話して下さいね」
「ありがとうございます!・・私も、ルナに友人としても心を許してもらえるように努めます!!」
「そうしてもらえたら私も嬉しいです。では―――・・加護を差し上げますね」
迷いの吹っ切れたヘラの笑顔を確認し、ルナセイラはにこりと微笑むと立ち上がり、彼女の額に口づけを落としたのだった。




