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 ノマロンの町から穢れた魔力が消えたことで、町に入る前に感じたような重い空気は感じない。

 しかし、石碑周辺はまだ確認が終わっていないし魔信仰の信者とも対峙していない。


 恐らく石碑周辺で生活をしているのだろう。


 何の目的かはわからないが、魔信仰の信者たちが穢れた魔力を誘発させようとしていることは明白。何が何でも話を聞かなければならない。


 六人は自分たちが乗ってきた馬車ではなく、町で新たに馬車を借りた。

 ルナセイラとヘラ、セイフィオスとエディフォールが車内に乗り込み、サーシェンとレインは御者席だ。歩けば二時間はかかるであろうワッシュレイ湖の石碑へ、馬車で湖畔を走らせ向かったのだった。


 「あの・・ヘラは聖魔団で偵察隊として、魔信仰の信者を監視したこともあったのですよね?どんな方たちでしたか?」


 馬車の大きな揺れに揺られながらもルナセイラは問う。

 湖の湖畔のガタガタと整備不十分な砂利道を進みながら、車内では状況把握の為の共有がされていた。


 「魔信仰の信者たちは、魔女になった聖女の忠臣であったマジカルナイツの子孫で形成されていると聞いています。

 何故かはわかりませんが、一般的な白の司祭服ではなく、黒の司祭服を着ていましたね。

 ―――ただ、普段から黒の外套を纏っているので、直に司祭服を見たことはほとんどないです」


 「そうなんですか?・・・・黒の司祭服・・珍しいですね」


 「自分たちが神に選ばれた人間であることは固持したいけど、他の司祭と同じものは着たくなかったのかもしれないね」 


 「――そうなのでしょうか・・もし、本当に彼等が固持したいのならば―――神に選ばれたものとしての強い信念を持っていてもおかしくないですね・・」


 「そうだね」


 セイフィオスの言葉から、魔信仰の信者にも強い志があるように感じた。しかし、女神リリベラは穢れた魔力が蔓延することを間違いなく良しとしない。


 リュキスエント石の『リリベラの涙』という異名がそれを物語る。


 魔力溜まりが浄化された後、リュキスエント石は発現する。

 穢れた魔力で魔力溜まりの発生したことに女神リリベラが嘆き、流れた涙がリュキスエント石になったと言われているのだ。

 リュキスエント石は石碑一体を浄化し続ける。それはまるで、リリベラの嘆きにも慈愛にも感じる。

 誰が名付けたかは不明だが、間違っても魔力溜まりが発生したことを、女神が喜んで流した涙とは思わないはずだ。


 ―――まさか彼らは別の神を崇めているの?


 「もし彼等が神の思し召しで穢れた魔力を増やすのなら、どうやってふやしているのでしょうか・・」


 「恐らく魔信仰の信者の中にも、SSランクの魔力感知が出来る者がいるはずです。

 穢れた魔力が集まりだしたあたりから、その場所で穢れた魔力で汚染された食材を食べてその魔力を取り込んでいたのでしょう。

 もしかすると、彼らにしたらそれが神の恵みのように思えるのかもしれませんね・・」


 「なるほど!確かにマジカルナイツの子孫であれば、聖魔団のようにSSランクの精鋭が揃っていてもおかしくないですものね!」


 ヘラの言う通りなのであれば、魔信仰もかなりの強者が集まっているのだろう。


 「はい、実際対峙した聖魔団団員は、魔信仰の信者と争った者もいます。その者の報告では、マジカルナイツ並みの強者もいたと伝えられています。

 今もSSランクの信者がいることは確認できていますから、恐らく今から対峙する信者の中にいてもおかしくはないでしょう」


 ヘラの口振りからしても、聖魔団と魔信仰は拮抗した実力と想定した方が良さそうだと感じる。できることならば争いたくはないが、最悪の場合も想定しなければならないだろう。


 「魔信仰が穢れた魔力を神の恵みと思っているのも理解できる気がする。―――俺も魅了されたとき、うっすらとだが自分の能力が上がったように感じたからな」


 「―――能力アップですか?!」


 まさかのエディフォールの告白に、三人は唖然とした。穢れた魔力で強くなれるというのは初耳だったからだ。

 

 もし魔信仰が穢れた魔力を取り込むことで能力アップを強制的にしているのだとしたら、石碑の近くで生活しようと考えるのは納得できる。

 出来る事ならば本人たちから直接きくべきだろう。


 「―――直に話を聞いてみたいですね・・。みなさん、私の作戦を聞いてもらえないでしょうか」


 「ルナの考えがあるなら話を聞かせてくれるかい?」


 ルナセイラのお願いに、セイフィオスは隣で優しく微笑む。


 「俺もルナの作戦を知りたい!」「私も!」


 三人の意志を確認し、ルナセイラは自分の作戦を告げたのだった。





 石碑に向かえば向かう程再び黒い靄が溢れていく。ルナセイラ自身も魔力を視る事は出来ずとも、重々しい空気でその存在を感じていた。

 セイフィオスの話では浄化したはずの湖も、石碑周辺の辺りから水面が黒く靄が出始めているらしい。


 それだけ穢れた魔力が集まっているのだろう。放っておけば再び湖は汚染され、ノマロンの住民たちは危険に晒されるはずだ。


 ルナセイラは、自分の浄化能力があることをノマロンの町の浄化で実感できていた。けれど、ここからは本格的に大元を浄化しなければならない。

 まだ魔力溜まりにはなっていないとは言っても、予兆が魔力溜まりに変わるのも時間の問題。急がなければならないのだ。


 馬は石碑に近づくにつれて穢れた魔力に反応して荒れ始めた。六人は馬の安全も考えて馬車を降りる。

 すでにノイス湖の時よりも、暗く重い空気が肌を圧迫している。セイフィオスたちも視覚や嗅覚で相当酷い状況であることを実感しているようだ。


 「―――ルナ、ちょっといいかい?」


 「どうしたんですか?」


 セイフィオスが神妙な顔でルナセイラに声をかけた。


 「どうやらここからは、私たちも穢れた魔力に侵されないよう警戒しないと危険な気がするんだよね。エディはすでに一度アイナの穢れた魔力に魅了されているでしょう?恐らく耐性があまりないような気がするんだよ。」


 「――!!確かにそうですね!―――どうしましょう?」

 

 そうなのだ。エディフォールは合流した時に、すでに穢れた魔力の魅了でおかしくなっていた。サーシェンは無事だったことを考えても、再び侵されないよう警戒しなければならないだろう。


 「・・・・・本当は嫌なんだけど・・・もう一度彼らに祝福を与えてあげてくれる?」


 「―――!!・・・・それって・・」


 頬を朱に染めるルナセイラとは異なり、セイフィオスの目は光を失っていた。しかし、彼なりの苦汁の決断なのだろう。

 聖女を護るマジカルナイツが穢れた魔力に負けていたら意味がない。


 セイフィオスはそれ以上は何も言わず、ただルナセイラの決断を待った。


 「――――わかりました!皆が万全の状態で敵と対峙できるよう私も祝福を与えます!」





 ルナセイラは四人を集めると、跪いてもらい一人ずつ額へ唇を落としていった。唇が触れる度に、白く淡い光が身体から微かに光り、セイフィオスの目から見ても穢れた魔力を弾いているのがよくわかる。

 四人は更に自身の能力が確実に上がったことを各々実感しているようだった。


 「すご~いっ!ルナの祝福は穢れから守るだけじゃないみたいだね~!明らかに僕の能力も上がっている感覚がわかるもん!」


 サーシェンが嬉しそうに上気した頬で笑みを浮かべながら言う。


 「――確かに、私も感じるわ!!」


 「俺も―――もしかしたらSSになったかもしれないな・・周りに真っ黒な靄が漂っているのが見えるようになった・・」


 ヘラも驚いていたが、一番驚愕していたのはエディフォールだった。これまでSランクで魔力を感知できなかったのに、視えるようになったというのは明らかなスキルアップを示していた。


 「あ~~僕わかったよ。アイナがルナを妬んでいた理由。これがあったから僕たちをルナに奪われると思ったんだろうねぇ~」 


 サーシェンの言う通りだろう。ルナセイラはわからなかったが、体感した彼等の言葉がアイナのルナセイラへの憎悪の原因を示していた。


 アイナのスキルに祝福というスキルはない。その代わり、何種類もの聖魔法で魅了の魔法や、保護魔法、浄化魔法、治癒魔法は使うことはできる。それぞれ聖女の役割は違うのだ。しかし、アイナは治癒の力の聖女のスキルを羨ましく思ってしまった。


 この女神リリベラの世界は乙女ゲームの世界。特徴として純粋に世界の平和を守るために学園生活で聖女として研鑽を積みながら、プラトニックな恋愛を育む全年齢版のゲーム。

 アイナが年齢制限版のヒロイン、ルナセイラの存在を知っているからこそ羨ましいと思ってしまった気持ちはわからなくもないが、だからと言ってルナセイラは全員に対して性交をしてまで能力アップをさせるつもりはないし、あくまで額への口づけまでだ。


 セイフィオスとサーシェン、エディフォールがルナセイラの味方に付いているのは、全て邪な感情で行動したアイナが招いた結果にすぎない。

 

 ―――同情する余地もないわ。


 「僕は唇にも祝福されたいけどな~」


 サーシェンはにやりと口角を上げてルナセイラを見つめたけれど、その視線を遮技るようにルナセイラの前に立ったのはセイフィオスだった。


 「――君たちには額までだよ。それ以上の好意は私が認めないからね」


 キッパリと言い切振り返ると、ルナセイラを見つめた。


 「私だけに唇への祝福――――してくれるよね?」


 「「「「―――――!!」」」」


 四人はセイフィオスの言葉に愕然とするが、彼が冗談で言っているわけではないことをルナセイラは正しく理解している。

 恋人だと公言してはいないが、想い通じ合っているからこそ違いを示してほしいのだということを。


 「―――――わかりました」


 頬を紅潮させたまま了承すると、セイフィオスの胸元を引っ張って唇に口づけた。白く淡い光が、額への口づけよりも強く光る。

 ルナセイラはすぐに唇を離そうとしたが、セイフィオスはそれを許さず後頭部をそっと押さえて長い口づけを皆の前で披露してみせた。


 「――――んっ・・ん」


 なかなか放してもらえず息苦しくなって吐息が漏れ、やっとセイフィオスは唇を離す。

 唇が離れた後もセイフィオスの身体は微かな光を放っていた。満足気にルナセイラを見つめると、他の四人から隠すようにぎゅうっと腕の中に閉じ込め、まるで知らしめるかのようにチラリと四人へ視線を送って牽制する。


 「~~~~ずるい・・」


 悔し気に呟くサーシェンの言葉に、三人も深く同意し頷くのだった。



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