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 静かな湖畔の町ノマロンは、町に入ってすぐ見える商店が並ぶ場所から湖に向かうと民家が点在していた。


 湖と密接に関わる生き方をノマロンの住民たちはしてきたのだろう。しかし、レインやヘラの話では魚自体からも黒い靄が漂っているらしく、湖が穢れの魔力により汚染したことが原因であるとわかる。汚染した魚を食べて生活をする住民たちが汚染されないわけがない。


 しかし、思っていた以上に住民たちは穏やかであった。


 よそ者であるルナセイラたちを見て、もっと険悪な雰囲気を漂わせるかと思っていたがそんなことはなかった。明るくはないが、根暗という程でもなく、陰湿で悪態をついてくるわけでもない。


 「なんだか・・想像していた様子と少し違うのですね・・・」


 「それは確かにそうですね。もしかしたらそこまで強く穢れた魔力に毒されていないのかもしれないです。――それか、元々優しい気質の住民たちだったのかも?」


 ルナセイラの言葉にヘラは優しく答えてくれる。


 彼女の言う通り、住民は思っていた以上に優しい雰囲気があった。

 『穢れの魔力』とはいっても、元は人の負の感情によって出てしまった自然浄化できなかった魔力。必ずしも全てが人にとって害になるわけではないのだろう。しかし、このまま穢れが進めば、いくら優しい住民たちであってもただでは済まないだろう。

 魚が魔獣化していないことを見ても、これから状況が悪化すれば人も生物も生きてはいけなくなってしまう。


 「――こんにちは、町長さんにお話を聞きたいのですが、どちらにいけばお会いできるでしょうか?」


 ルナセイラは傍にいた青年に声をかけると、町長のいる建物へと案内してもらった。





 「・・・・いきなり来て何の用ですかな?」


 先程の案内してくれた青年とは打って変わり、町長は明らかに不満げにこちらを睨みつける。


 ――この振る舞いが想定通りの振る舞いだわ!!


 町長の立ち振る舞いは、まさに馬車の中で聞いていた、穢れた魔力に魅了され汚染された人の印象と酷似していた。


 「じつは少しお聞きしたいことがありまして・・・湖の事なのですが―――」


 「―――私はそんな話をする気はないぞ!!」

 

 「え?」


 話しかけると、湖の話に触れた途端村長はルナセイラの話を強引に打ち切らせようとした。

 

 「少しだけでもお話を――」


 「――黙れっ!!よそ者が俺の土地で勝手なことをするんじゃないっ!!」


 「――ルナ、僕アイツの机の上の石から異様な匂いが感じる・・・浄化を試すなら今じゃない?」

 

 激昂する町長を見つめていると、サーシェンがふと気になることを言う。


 ――確かにあの石は嫌な感じがするわ・・・でも・・きっと触れさせてももらえないでしょうね・・


 「町長さん、私はこの町を救いたいのです――」


 「いい加減にしろっ!!この町はあんたらよそ者に守ってもらう必要などない平和な町だ!!出ていけっ!」


 「――・・ごめんなさい、そうもいかないんです」


 一言謝罪を告げると、ルナセイラは短剣を引き抜き胸の前で両手で握りしめ祈った。


 ――穢れた魔力がどうか浄化されますように


 瞼を閉じてルナセイラが祈ると、白い光がルナセイラから辺り一面に波紋のように、ふわあっと広がっていく。


 本当に数秒のこと、しかしその光景は美しい白い光の波が周囲を飲み込み、温かく包み込んでいるようにさえ見えた。


 「――なっ!・・なんだこれは!!――うぅぅっ!!」


 光の波に呑み込まれると町長は苦しげに呻いた。しかし、光が落ち着いたころには表情には明るさと暖かさが戻っていく。


 「私は・・・なぜあのようなことを・・・・」


 どうやら先程までのルナセイラとの一連のやり取りの問答は覚えていたらしく、自分の取った言動にかなり困惑し青褪めていた。


 「無事に浄化が成功したようで良かったです!!」


 ルナセイラの言葉に町長は瞠目する。


 「ま・・まさか―――貴女は聖女様ですか?!」


 どうしても『はいそうです』とはまだ肯定する気持ちになれず、にこりとだけ微笑んだ。


 「なぜこんなことになってしまったのか・・・聖女様のおかげで正気に戻れたようです!!ありがとうございます」


 「お気になさらず、ところで、お話を色々聞かせていただけますか?」


 ルナセイラの言葉に、町長は嬉々として町の状況や聞かれた内容に素直に答えてくれた。


 結論、やはり町がおかしくなったのは『魔信仰』の信者がこの町に住むようになってから変わったらしい。


 最初は住民とも仲良く接していたが、ある時『魔信仰』の上層部から貰った『穢れを払う石がある』と信者に言われ、執務室の机に置かれていた石を貰い飾っていたのだという。

 それ以降頭痛がひどくなり始め、ちょっとしたことでイライラしたり、相手の悪い部分が気になって仕方がなくなったそうだ。しかし、ルナセイラの浄化によって酷かった頭痛が治り、気持ちも温かくなれたことで自分が異常であったのだと気づいたらしい。


 「やはり『魔信仰』が穢れの魔力による汚染をわざと誘発させているようですね」


 神妙な面持ちでレインが言う。


 「それもあるが・・・・ルナの力は凄すぎじゃないか!?部屋の中を浄化すると言っていたのに、町や湖まで浄化するなんて―――」


 「エディは浄化されたかどうかも見れないんだよね?まだSランクだもんねぇ~

 折角貴重な浄化シーン見れなくて残念だったね~~」


 エディの言葉にサーシェンがにやりと見つめながら揶揄い口調で言う。


 「確かに俺にはまだ見えん!!だがあと少しで俺だってSSだ!揶揄えるのは今だけだと思え!!」


 ――クスクス


 ムキになるエディを揶揄うのがサーシェンは楽しくて仕方ないらしい。


 サーシェンは負けず嫌いでもあるが、美しいものが大好きなのだ。その点で言うとマジカルナイツは皆美しい。その中で一番下っ端のエディを弄るのは楽しくて仕方ないのだろう。


 「とりあえず幸運にも町全体を浄化できたのは良かったです!・・・ただ、確かに『魔信仰』の信者の方々の動きは見過ごせないものがありますね」


 ルナセイラもレインの考えに同意した。そして町の住民にも話を聞き、今は『魔信仰』の信者は遺跡の石碑付近で暮らしているのだと確認できた。


 「――ではルナ、私たちも遺跡に向かう?」


 「はい!――・・でもまだセイが―――」


 「――私がなぁに?」


 ヘラの言葉に待ったをかけようとしたルナセイラの言葉に被せたのは、背後から聞こえてきたセイフィオスの優しい声音だった。


 「――セイっ!!」


 振り向くとそこには朝別れた大好きな人が佇んでいた。


 たたたっと駆け寄り感情のままに抱き着くルナセイラに、マジカルナイツは皆瞠目する。


 「――・・・・・ルナ?そんなに・・私に会いたかったのかい?」


 「~~~~ぅん・・」


 気づいた時には遅く、すでにセイフィオスの胸の中にダイブした後だった。流石に恥ずかしくて顔を上げることもできず、小さい声で肯定する。


 「~~~~~~・・・・ちょっと・・どこか部屋を借りて二人で休憩してきていいかい?」


 顔を埋めたままのルナセイラをセイフィオスはぎゅうっと抱きしめる。


 「「「「――駄目だ!!」」」」


 セイフィオスの言葉に、他のメンバー全員が顔を青褪めさせて断固拒否した。


 「・・・そこまで怒らなくても・・」


 ――っぷっ


 アハハとルナセイラは彼らのやり取りがおかしくて、笑いを堪えきれず噴き出してしまう。


 「みなさん、息がぴったりですね!」


 「~~~~~~~~」


 短い時間でどんどん仲が深まる彼らに、ルナセイラは嬉しくて堪らない。


 五人はルナセイラの反応に微妙な表情を浮かべたが、そんなことルナセイラは気づかないのだった。


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