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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
五章 マジカルナイツと聖女の力
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 すでに目と鼻の先、数センチにゆっくりと近づいてくるセイフィオス。


 瞳を無意識に閉じるとぷにっとした柔らかい感触。初めての感覚にドキリとした瞬間なんとも心地よい暖かさに包まれた。


 「・・っんん・・・」


 漏れ聞こえる色気を帯びた声音に目を開くと、やはり白い光に包まれたセイフィオスの姿があった。


 ――聖女の加護・・・・


 「ごめん・・もう少し・・欲しい・・」


 「え?」


 何を言われたのか分からず彼の目を見つめた瞬間、頬に手を添えられて再び唇が重なる。


 高揚し昂る感覚に吞み込まれるように、二人は休憩が終わるまで部屋から出ることはなかった。




 

 ***





 「セイ!遅いじゃねーか!模擬戦始まるの遅れてんだろ!」


 二人は再び急ぎ足で広場へと向かう。


 案の定。自分たち以外は皆すでに集まっていた。


 「ご・・ごめんなさい・・私がちょっと・・その・・考え事をしてしまっていたので遅れてしまいました!」


 ――ま・・まさかあんなに長く放してもらえないと思わなかった・・・・


 心臓をバクバクさせながら、聖女の加護の事と先程までのセイフィオスとの事で心で動揺し、言わなくて良いことまで言ってしまいそう。


 「え?!・・っルナセイラ様はいいんですよ!セイがしっかりお連れしなかったのがいけないんですっ!」


 しどろもどろになるルナセイラを、レインはあたふたしながらフォローする。


 「マジカルナイツが決まった後の加護の事でルナは考えなきゃいけないことがあったんだよ。」

 

 「――聖女の加護のことか・・」


 レインの眼差しが真剣なものに変わる。


 「そうだね、レインたちに関わることなんだから、ある程度は理解してくれるかい?」


 「――理由があるなら仕方ない事だろ・・俺たちの最優先はルナセイラ様だ!」


 ――二人とも・・昨日話した時に何かあったの?


 二人は戦いが終わるまでは確かに一触即発しそうなピリピリした空気を纏っていた。


 しかし、今は交わす言葉は乱暴でも、ちゃんと話しを聞き合えているし、名前を呼び合うまでになっている。


 ルナセイラは二人のやり取りに心が和んだ。





 仕切り直し、広場では模擬戦の順番をフレキセンが発表しようとした。


 しかし、突如何の前触れもなくルナセイラの前方の空が歪む。


 捻じれた部分から光が溢れだした。


 何事が起ったのかと警戒する村人達。


 セイフィオスとレインはすぐにルナセイラを庇うように前に立つ。


 光の中から姿を現したのはサーシェンと、彼の魔法拘束で縛られたエディフォールだった。


 「え?!さ・・サーシェン様と殿下?!なぜここに?!」


 突然あらわれた二人にルナセイラは声をかけると、サーシェンは安堵の笑みを浮かべた。


 「よかったぁ~っ!ちゃんとルナセイラ嬢の所にこれて!

 ・・ちょっと困ったことになったんだよね~・・助けてくれない?」


 「サーシェン?・・・・なぜエディから黒い靄が漂っているんだい?・・教えてくれる?」


 村人たちが騒然とする中、数名の団員やセイフィオスは明らかな警戒を示していた。


 サーシェンはコクリと頷く。


 「ひとまずこちらへ」


 彼等と数名の関係者をフレキセンは邸へと案内し始めた。


 サーシェンは風魔法で宙に浮かせたエディフォールと移動する。


 ルナセイラとセイフィオス、レインもフレキセンの後に続く。


 エディフォールを邸の医務室の一つの部屋の床に降ろすと、エディフォールは瞳をぎらつかせて抗おうとする。


 「――・・これは・・穢れに魅入られているようですな・・」


 「そうだね、こんなことしてくれちゃったのが実は聖女様候補のアイナなんだよねぇ・・」


 フレキセンの言葉に同意し、サーシェンは呆れたようにとんでもないことを告げた。


 四人は驚愕し、皆顔色が悪い。

 

 「この・・黒い靄は穢れた魔力ということかい?

 ・・・・あの子はこんな魔力ではなかったと思うけど・・・・」


 「それがさぁ~・・一週間以上前に、アイナがディランと一緒に聖女の武器を取りに行ったんだよ。

 それから学園全体がいっつの間にかアイナに魅了されちゃったんだよね・・」


 「武器とは・・リュキスエント石のついたものですか?!」


 「あれ?ルナセイラ嬢よく知ってるね!そうそう、その石がついた杖ね」


 ルナセイラの言葉に意外そうに驚く。


 「・・それはおかしいね・・リュキスエントは全て王家で保管しているんだよ。

 もし聖女が武器をお受けから受け取っていれば、連絡が私に来るはずなのに来ていないけど?」


 「国王様の許可は貰ってないよ。違うとこから持ってきたからさ」


 「違う所!?・・・まさか魔力溜まりの遺跡に行ったのですか?!」


 セイフィオスとサーシェンの問答に、思わずルナセイラは口を挟んでしまう。


 「そうそう!魔力溜まりの遺跡の一つ、ムートンヒルっていう町の中に入っていったよ。

 空気が重苦しいし、臭くてやばかったんだよね。だから町の外までしか尾行しなかったけど~」


 ――重苦しい空気ということは・・もしかして!!


 「『予兆』・・の可能性が高いね――」


 「――それはまずいですな・・」


 セイフィオスの言葉に、黙って聞いていたフレキセンが口を挟む。


 「何か気になることでも?」


 「――ムートンヒルは、聖女ローズ様が救われた魔女化した聖女のマジカルナイツの末裔が住んでいる町なのです」


 「変なの~!なんで遺跡に王国のマジカルナイツが棲むのさ?」


 「――お前!!フレキセン様に無礼な言葉を使うな!!」


 不思議そうにフレキセンに聞くサーシェンに、レインは即座に噛みつく。


 「――なんか暑っ苦しいやつ・・・・まさかルナセイラ嬢のマジカルナイツの一人とか言わないよねぇ?」


 「えぇ~と・・そのまさか・・です」


 「えぇ~っ!!噓でしょ?!こんなのと一緒に行動とか嫌なんだけど!」


 「お前はマジカルナイツじゃないだろーが!!勝手な物言いをするな――」


 「――今は言い合いしている場合じゃない、レインおちつきなさい」


 「!!・・・・・申し訳ございません・・」


 サーシェンとレインの喧嘩が勃発しかけたのをフレキセンは冷徹な声音で止めた。




 「お話ししましょう。

 当時、魔女化した聖女もマジカルナイツも皆浄化され、王国は平和を取り戻しました。しかし『聖戦』が終わった後、彼等は姿を消したそうなのです」


 「失踪してしまったのですか?」


 ルナセイラの言葉に頷く。


 「ムートンヒルに住み着いたというのがその末裔というのですか?」


 「左様でございます。聖魔団が彼等を見つけた時にはすでに『魔信仰』という集団を作って生活していました」


 「それは、聖魔団と同じような集団なのでしょうか?」


 フレキセンはルナセイラの問いに、表情を歪めながら語り始めた。

 

 

 『魔信仰』は、結成当初は聖魔団と同じように浄化を試みる集団であると思われていた。

 リッセンハウルと同じように町で石碑を覆い、『リュキスエント石』を祀って穢れた魔力を浄化し続けた。

 やはり『リュキスエント石』は浄化作用があったのだ。

 しかし、『魔信仰』と『聖魔団』の考え方が根本的に違うことに気付いたのは、次の魔力溜まりの予兆からだった。


 『魔信仰』は次の魔力溜まりの予兆が出始めると、その石碑付近で団員は敢えて生活し始めたのだ。

 しかし、本格的に魔力溜まりが発生し聖魔団も魔力溜まりへ向かうと、すでに『魔信仰』の団員たちの姿はなかった。

 いなくなった『魔信仰』の団員たちの身体からは黒い靄が漂っていたらしい。

 いつの間にか予兆が起こるたびに、その付近で『魔信仰』の団員を見かけることが増え、ムートンヒルには戦闘できる団員は殆ど町に戻ってこない状況が二百年近く続いたらしい。


 異変が起きたのはルナセイラが生まれた年。

 ムートンヒルに黒い靄が発現し始めたのだ。

 その頃から町の門はよそ者を阻み、住民と王家の調査員以外立ち入ることが出来なくなったらしい。

 

 明確な答えは出ていない。

 しかし、彼等は穢れた魔力を身に纏い、各遺跡の魔力溜まりを助長しているのではないかと伝道師たちは懸念している。

 アイナの持つリュキスエント石のついた杖は、ムートンヒルに祀られていたものだろう。と、フレキセンは考えている。

 もし聖女が穢れた魔力に魅入られたなら、すでに魔女化が始まっていてもおかしくない。


 「それでは・・アイナさんの魔力は穢れ始めているということですか?」


 「身体から黒い靄が出始めていればそうでしょうな・・」


 「黒い靄は僕には見えない。でもアイナの匂いはものすっごく臭くなっていたよ。

 僕は妖精と人のハーフだから、妖精と同じで穢れた魔力が大っ嫌いなんだ。だからアイナの匂いが異常なのはわかるね」


 「――それならエディの黒い靄を消せるのは聖女だけ・・ということかい?」


 セイフィオスの言葉に「・・恐らく・・」とフレキセンは濁した。


 「私・・やってみます!私の聖女の力が覚醒しているのなら・・浄化できるはずですから!」


 言い切るルナセイラにセイフィオスは何とも言えない表情を浮かべる。


 しかし、止めはしないらしい。


 転がって抗い続けているエディフォールを掴むと、「私が押さえているからやってごらん」と、セイフィオスは告げた。


 ――どうか穢れた魔力が消えますように!!


 ルナセイラは敢えてエディフォールには触れず、胸の前で両手を握りしめ祈った。


 自分の目の前が明るく光っていることが目を閉じて祈っていてもわかる。


 祈り続けると、エディフォールから放たれていた重苦しい空気が霧散したのに気づく。


 手を卸し目を開けると、エディフォールが唖然とした表情でセイフィオスに押さえつけられ床に座っていた。


 「――成功・・ですか?」


 「おめでとうございます、成功しましたな」


 不安げな問いに、フレキセンは優しく微笑んだ。


 サーシェンは魔法拘束を解いても、エディフォールは未だに何が起こったのか理解できていないようで目をばちくりさせている。


 「・・俺は・・なぜここに?・・兄上・・いあ・・痛いです・・」


 呆けていたエディフォールは、ぎゅうっと肩を掴んでいたセイフィオスへ「止めてくれ」と懇願する。


 「殿下良かったですねぇ~アイナに魅了されたのを、ルナセイラ嬢が助けてくれたんだよ~」


 「な・・結局俺は魅了されてしまったのか?!」


 「だーから早く行こうって言ったのにね~」


  くすくす笑うサーシェンの言葉に「すまない・・」と素直に謝った。


 エディフォールはルナセイラに向き直り、じっと見つめてから頭をさげた。


 「ルナセイラ嬢、助けてくれて感謝する。」


 「そ・そんな頭を上げて下さい!浄化できてよかったです!」


 「浄化?!魅了は聖魔法ではなかったのか?」


 ルナセイラの言葉が理解できず、エディフォールは訝しむ。


 「聖魔法だけど・・穢れた魔力で聖魔法使っちゃったみたいなんだよね~」


 「意味が分からん!アイナは穢れた魔力を使っているのか?!それではまるで――」


 「――魔獣みたいだよね?」


 愕然とするエディフォールに飄々とサーシェンは告げた。


 「サーシェン様、エディフォール様、私は魔力溜まりと魔女を浄化する聖女としての使命を持って生まれたようです。

 これから魔力溜まりや魔女化するアイナさんの浄化を行うため、助けてくれるマジカルナイツの選定を行う所でした。

 申し訳ないですが、今後の事などはマジカルナイツ選定の模擬戦が終わった後でも良いですか?」


 話始めた二人に申し訳なさげにルナセイラは口を挟み状況を伝える。


 すると、先ほどまで飄々としていたサーシェンも、呆然としていたエディフォールも纏う空気が変わる。


 「――ルナセイラ嬢!俺もそのマジカルナイツ選定の模擬戦に参加させてほしい!」


 「僕も参加したい!絶対にルナセイラ嬢のマジカルナイツは他の奴には譲れないよ!」


 まさかのサーシェンとエディフォールの飛び入り参加の希望。




 ――アイナさんの攻略対象が私のマジカルナイツに?!


 ルナセイラは彼等の強い意志の籠った眼差しに困惑を隠せなかった。


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