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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
四章 聖魔団と治癒の力の聖女の秘密
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 ――え?!


 ルナセイラは目が零れ落ちるのではないかという程に見開いて、目の前の美しい顔を凝視した。


 ――ど・ど・どういうこと?!・・・・昨日いつの間に寝ちゃったの?!・・っていうかなんで抱きしめられて寝てるの?!


 ベッドの上の信じられない状況に、ルナセイラの頭の中はパニックを起こしてショート寸前だった。


 頭の中でキャーキャー大騒ぎした後窓に目を移すと、日が昇り始めたのか優しい光が差し込む。


 セイフィオスを起こさないようそおっと体の向きを変えた瞬間、ぎゅうっと強い力で抱きしめられる。


 「え?!」


 「・・おはよう、ルナ」


 振り返ると蕩けるように甘い眼差しでけだるげに微笑むセイフィオスの輝き尊顔に思わずきゅっと目を強く閉じた。


 ――王子様の寝起きっ!!・・ま・・眩しすぎるっ!!


 ちゅっ・・


 微かなリップ音が響き、鼻頭には柔らかい感触。


 たまらず目を開けると、満足そうにこちらを見つめるセイフィオス。


 「な・な・な何するんですか!!」


 ――朝から心臓が持たないっ!!


 先程からセイフィオスの寝起き攻撃にやられて、すでにルナセイラのヒットポイントは大幅に減っている。


 「朝からルナの顔が見れて幸せだなっておもったら・・つい」


 「ついっ・・とかだ・だ・駄目・・ですからっ!!」


 「えぇ~~・・」


 不満げに囁きながらもきゅうっともう一度ルナセイラを抱きしめる。


 朝から感じるセイフィオスの身体の暖かさと、頭を蕩かせるような惑わせる彼の匂い。

 

 ドキドキハラハラと胸は早鐘を打つというのに、このまま一日中抱きしめられていたいなどと矛盾する考えが頭の中をぐるぐると巡る。


 ――幸せな・・悩みだわ・・・・


 人生初の朝チュンの抱擁を得て、ルナセイラの心はセイフィオス一色になっていた。


 名残惜し気に腕の力を緩めて起き上がると、備え付けられたパーテーションの裏でセイフィオスは着替えを始める。


 ルナセイラもセイフィオスの着替えを待って、自分の着替えの準備も始めたのだった。


 


 ***




 「――おはようございます!」


 「聖女様、おはようございます。よく眠れましたかな?」


 ルナセイラの言葉にフレキセンは微笑み挨拶を返す。


 模擬戦が行われる広場には、フレキセンとレインだけでなく早朝というのに村人たちが集まっていた。


 「はい、素敵な宿をご紹介くださってありがとうございます!今日もよろしくお願いしますね!」


 フレキセンは嬉しそうに頷くと、模擬戦の説明を村人たちに向けて話し始める。


 「今から聖女様のマジカルナイツ選定のための模擬戦を始める!

 レインがすでに名乗りを上げているが、我こそはと志願する者がいるならば名乗り出なさい!」


 ――え?!レイン様だけじゃないの?!


 驚き呆然とすルナセイラへ視線を向けると、フレキセンは事情を話す。


 「聖女様、我らの村の聖魔団員は、全ての聖魔団の中でも精鋭で集められております。これから王太子殿下以外に四名マジカルナイツを選ばれるのであれば、ココで選ばれるのもよろしいかと。

 是非戦いぶりをご覧いただきじっくり決めていただけないでしょうか」


 ――・・確かに・・これから新たに強い仲間を探すより、ココで選ぶのも一つかもしれない・・


 「ありがとうございます!是非拝見させてください。お願いしたい方がいるかどうか、前向きに検討してみます!」


 「ぉお!左様でございますか!ありがとうございます!

 皆の者!聖女様の話聞いておったな?我こそはと思う者は名乗りでよ!」


 意気揚々と告げるフレキセンの前には八名の若者が集まった。


 本当は志願者にはセイフィオスと戦ってほしかった。しかし、流石に人数が多すぎた。


 その為、聖魔団トップの実力のレインとセイフィオスが最初に模擬戦を行い、ルナセイラがレインをマジカルナイツに指名した場合、残りの七名をレインとセイフィオスで相手するということになったのだ。


 ルナセイラはセイフィオスが納得してくれるか不安だった。


 しかし、全く動じる様子のないセイフィオスに、ほっと肩を撫で下ろした。


 

 セイフィオスとレインの模擬戦は壮絶であった。


 開始と共に二人はそれぞれ魔法剣を創造したのだ。


 ――二人とも魔法剣がつかえるの?!す・・すごい!!


 セイフィオスは水属性の長剣、レインは火属性の槍だ。


 二人の闘いを見守る村人たちは戦いを食い入るように見つめている。


 セイフィオスに挑発されたレインから攻撃を仕掛け、繰り出される突きはとても鋭い。


 しかし、それを躱すセイフィオスの動きも素早く、躱しながらすぐに切り込む手腕も流石としか言いようがない。


 初めて魔法武器同士の戦闘を見たルナセイラは、瞬きすらできずにひたすら彼らの動きを目で追った。


 レインの突きや切り下ろしの力強さは神がかっていた。一振り一突きで空を切る音が観客席まで聞こえてくる。


 その力強い攻撃をセイフィオスは難なく躱すのだが、それでも剣で受け止めた際のぎぃぃぃぃいいんっ!!と鳴るけたたましい衝撃音は、互いの力が拮抗していることを物語る。


 しかし、しばらく応戦していたセイフィオスは突如動きを変えた。


 攻撃で切り込もうとした瞬間、一瞬消えるような速さを見せたのだ。そして目がその動きを捕らえた時には剣は振り下ろされていた。


 レインは反射神経の良さでぎりぎり交わしていたが、体力が持たず最後は喉元にセイフィオスの剣を突き付けられて勝負はついたのだった。


 あまりの激しい戦いに声を上げることなく見守っていた村人たちからは、決着がつくと同時に大きな歓声が沸き起こった。


 「――レイン、見事な戦いだった。ありがとう」


 セイフィオスはレインに手を差し出し讃えるように微笑む。


 はぁぁ・・とため息を吐いた後、レインは差し出された手を取った。


 「セイ!お前の強さは十分よくわかった!俺の完敗だ!!」


 諦めたように笑うと、レインはしっかりと握手し直したのだった。


 二人の素晴らしい戦いに興奮冷めやらない観客の歓声の中、ルナセイラは二人の元へ向かう。


 「素晴らしい戦いでした!!セイの強さも凄かったですが、レイン様の魔法槍も素晴らしかったです!」


 満面の笑顔で二人を讃える。


 「ルナ、私は君の気持ちに沿いたいと思っているよ。どうしたい?」


 「セイ、ありがとう!

 レイン様!ぜひ私のマジカルナイツになっていただきたいです!!」


 ルナセイラの言葉に、歓声は更に沸く。


 レインがマジカルナイツの一人に選ばれたことにより、残りの七人はセイフィオスとレインで相手をすることになった。


 ひとまず休憩をとって昼過ぎから再開することになり、ルナセイラはセイフィオスに手を引かれてフレキセンの下へ向かう。


 「フレキセン殿、少々お時間もらえないかい?」


 「おや?王太子殿下いかがいたしましたかな?」


 セイフィオスは大事な話がしたい。と、フレキセンの執務室へ向かいことになった。


 「――それで、どうなさいましたか?」


 フレキセンの問いに、セイフィオスが何を話し始めるのかとルナセイラは見守る。


 「――実は、昨夜ルナから聖女の加護を受けることに成功した」


 「・・・・・・そうでしたか、それで?」


 「聖女の加護の与え方を・・・・貴殿は知っていたのではないか?」

 

 ――え?


 セイフィオスの言葉にルナセイラは瞠目する。


 「ほっほ・・なぜそう思われたのです?」


 「その話を昨日していれば、フレキセン殿はルナがマジカルナイツを拒むと思ったのではないか?」


 「・・・・・・」


 部屋の中に重苦しい沈黙が漂う。


 「――・・・・そう思われたのに、よくぞ模擬戦をお受けくださいましたな」


 「ルナとはちゃんと話をしたからね。ただ、聖女ローナ様は・・どの程度の加護をマジカルナイツに与えたんだ?参考に教えて欲しい」


 ――どの程度?!


 悩みの核心にセイフィオスが触れ、ルナセイラは肩をびくっと強張らせる。


 「聖女様、ご安心ください。女神リリベラ様は、聖女様に無理など強いませぬ。

 ただ、マジカルナイツと聖女様の深い絆は必要になるのです。その為の聖女様のお気持ちという意味なのでしょう。

 ですが、聖女様がご自身を与えることで得られる加護の大きさは、内容で大きく変わるのは確かです。」


 「加護の大きさですか?」


 「左様でございます。一番加護の与え方で多いとされたのは、額への口づけのようです。しかし、口づけだけでなく、聖女様の体液の授け方で変わります。恐らく・・・一番強い加護は性交・・でしょうな」


 ――やっぱり!!!!


 衝撃の事実に再び頭が混乱しかけたが、隣に腰かけるセイフィオスが優しくルナセイラの手を包み込む。


 「ルナ、不安になる必要はない。フレキセン殿も言った通り、ルナがしたい方法で加護を授ければいいんだ。私はルナが求めない限り無理強いはしない!!」


 「――・・セイ・・ありがとう・・」


 セイフィオスの慈愛の籠った眼差しに、ルナセイラの心は落ち着きを取り戻す。


 「ただ、私は嫉妬深い・・他のマジカルナイツへの加護は・・額への口づけだけにしてくれないか?」


 「も・・勿論!!私だってセイ以外とは無理だもの!!」


 「ほっほ・・やはりそうなりますな・・」


 「え?ど・・どういうことですか?」


 「――実は聖女ローナ様も聖女の加護を与えるのは非常に悩まれたそうなのです。」


 「そうなのですか?!」


 驚きの事実に再びルナセイラは瞠目する。


 「聖女ローナ様の夫君であらせられるロウェイン殿下がやはり嫌がられた様ですからね・・」


 「激しく同意する」


 フレキセンの躊躇いがちの言葉に前のめりでセイフィオスは同意した。


 「それで・・結局聖女ローナ様はどのような加護を与えられたのですか?」


 「ロウェイン様へは最上の加護を差し上げたようですね・・しかし、他の三人は額への口づけだったようです・・」


 「え?・・マジカルナイツは五人だったんですよね?あと一人は?」


 ルナセイラの言葉にフレキセンはたじろぎながら話し始める。


 「――実は・・ロウェイン様の兄であるジェイキンス王子は・・口づけでの加護を受けたそうです」


 「??!!」


 「・・それはなぜか・・フレキセン殿は知っているのかい?」


 「その・・実は、元々はジェイキンス王子と、聖女ローナ様が恋人同士だったのです」


 「なんですって?!」


 衝撃の事実にルナセイラの背中には嫌な汗が伝う。


 ――う・・浮気したの?!・・ね・・寝とったの?! 


 聖女ローナの清らかなイメージがガラガラと崩れ落ちていく。


 「あの・・私も伝え聞いた話なので詳細はわかりかねます・・ですが、聖女ローナ様がロウェイン王子を選んだ際、ジェイキンス王子は潔く身を引かれたと聞いております。

 経緯はわかりかねますが・・私の伝え聞く話で不貞という話は聞いておりません・・」


 「・・でも・・どう考えても・・」


 必死に弁明するフレキセンに、ルナセイラはどうしても納得がいかない。


 「ルナ、聖女ローナ様がなぜジェイキンス王子とロウェイン王子に恋したのかは私たちにはわからない。

 でも、私の想いは変わらない。そしてルナの事も信じているよ」


 「セイ・・・・私もあなただけ・・」


 尊敬し、目標にしていた聖女ローナが虚像であったことに深いショックで目の前が真っ暗になる。


 ――なんで聖女ローナ様は二人の男に恋をして世界を救うことが出来たの?なぜジェンキンス様は裏切られたのに聖魔団を作ろうと思えたの?


 答えのない自問自答に、ルナセイラは飲み込まれそうだった。


 「不安にさせてしまうようなお話しかできず申し訳ございません。ですが、聖女ローナ様はしっかりお役目を果たされたと伝え聞いております。

 加護の事で不安になってほしくなかったので、聖女様がマジカルナイツを決められるまでは加護の与え方は漏らさないよう伝道師だけの知ることだったのです」


 「配慮・・してくださっていたのですね。ありがとうござします」


 礼を告げると、ルナセイラはセイフィオスと共に次の模擬戦開始まで宿の部屋に戻ることにした。



 ***



 部屋に戻ったルナセイラは食欲もなくベッドに腰を下ろす。


 自分がどうしていくべきかを考えればいいだけなのに、どうしても納得いかない。


 「さすが拗らせ喪女は違うわ・・・・」


 ポロリと本音が零れ落ちる。


 「何て言ったの?」


 声のした方を向くとセイフィオスが心配そうに隣でこちらを見つめていた。


 ――あ・・そういえばセイと一緒にいたんだった・・・・


 聖女ローナが不貞したかもしれないということが頭から離れず、セイフィオスと共に部屋に戻ってきたことをすっかり忘れていた。


 「ごめんなさい・・独り言です・・」


 「さっきの話が原因?」


 「!!・・・・・はい・・」


 「まぁ・・確かに衝撃的な話だったよね・・聖女様が二人の男を好きだったかもしれないっていうのはね」


 「・・・・・」


 ルナセイラは唇を引き結ぶ。


 「たださ・・本当の事は誰もわからないでしょう?もしかしたらジェイキンス王子に何かしらの問題があって、ロウェイン王子に託したのかもしれないよ?」


 「事実は・・私たちにはわからない事です」


 「そうだよね、それじゃ・・ルナは事実かどうかもわからないことに落ち込むのかい?」


 「!!・・それはっ!」


 「私はマジカルナイツはいらないと思っていたよ。昨日ルナが話してくれるまではね。

 でも、ルナが私の事を心配してくれたから、必要だと思えたんだ。

 人の心は変わることも十分にある。心変わりしてもいいなんて私は絶対言わないよ。・・・・でもね、納得するまで話し合った結果の変化なら、私も向き合うかもしれない」


 「――・・セイ?」


 「心配なら言葉を交わそう。何度でも話して、触れ合って、納得いく答えをさがしたらいい。

 もし納得いかなくても最善を探したらいい。私たちの一番良い答えを探せたらよいんじゃないかな」


 「もし・・私がどんな答えを出しても?」


 「私はずっとルナと一緒にいたい。・・でも、縛りたいわけじゃない。・・いや・・縛れるのも良さそうだけど・・一番はルナの幸せが私には大切なんだっていうことだよ」


 「私も・・セイに幸せになってほしい・・・」


 「それなら今を楽しもうよ。折角一緒にいられるんだから、事実かわからないことに時間を取られることよりも、二人の時間を大切にしたい・・・駄目?」


 「ううん、私も・・そう思います!」


 「よかった・・ただこれから加護の為に額に口づけするんだよね・・」


 「っきゃぁあ?!」


 セイフィオスはむむっと自分で言いながらふてくされると、ルナセイラを引き寄せ自分の膝の上に座らせた。


 「ルナ・・ルナの初めてが欲しい」


 きゅうっと後ろから抱きしめとんでもないことをセイフィオスは口にした。


 「――え?」


 「キス・・・してもいい?」

 

 

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