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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
四章 聖魔団と治癒の力の聖女の秘密
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 自分から初めて男性にキスしてしまった現実に、ルナセイラはリネンの中で見悶えながら動揺を隠せずにいた。


 「ちょっと私も気持ちを落ち着かせてくるよ」


 セイフィオスはしばらく荒い呼吸を繰り返していたが、ルナセイラにリネン越しに優しく声をかけてきた。


 「――え?!」


 突然一人にされる不安が込み上げて、慌てて起き上がりセイフィオスを見上げる。


 まだ頬を紅潮させたままのセイフィオスは、今も色気を駄々漏れさせていた。


 しかし、優しく微笑みながらルナセイラの頬を撫でると「結界を張っておいたし、すこしだけだから安心して」と、宥めてくれる。


 どうやら部屋の中に結界を張ってくれたらしい。


 ルナセイラには何となく薄い膜が部屋の中に覆われているのかな?程度にしか感じられなかった。


 それでもセイフィオスの実力を信じているからこそほっとする。


 「外にアイツもいるみたいだから危険な事にはならないはずだよ」


 「アイツって・・誰ですか?」


 「・・・・・レイン」


 微笑んだまま話していたセイフィオスは、一瞬目をぎらつかせながらレインの名を告げた。


 しかし、レインのマジカルナイツになりたいという気持ちは理解しているのかもしれない。


 でなければ『安心して』なんてセイフィオスが言うわけがないのだから。


 セイフィオスが部屋の扉を開けると、そこには本当にレインが佇んでいた。


 「ルナ、半刻ほどで戻ってくるから少しだけ待っていて。その間に眠る支度をしておいてくれるかい?」


 「ルナセイラ様!俺が部屋の外は守っていますから、ご安心くださいね!!」


 慈愛の籠った眼差しをこちらに向けたセイフィオスの隣では、レインが尻尾を振って喜ぶ大型犬のように見えた。


 「よ・よろしくお願いします!」


 ルナセイラの言葉に安心してセイフィオスは頷く。


 しかし、ドアを閉めながら「少し話をしよう」と、レインに告げた声は、底冷えするような冷徹な声音だった。


 ――あの二人・・大丈夫かな・・


 フレキセンの執務室での二人の応酬を思い出し、一抹の不安がよぎる。


 ――乱闘になれば気づけるよね?


 考えたところでなる様にしかならないとルナセイラは気持ちを切り替える事にした。


 ふとマリーエルに自分が聖女であることを打ち明け、状況を伝える手紙を書くつもりであったことを思いだし、寝衣に着替えてからテーブルで作業をはじめたのだった。




 ***




 「――・・なんだよ?」


 「聞きたいことがあってね」


 男二人はルナセイラの部屋の外の廊下の端まで歩みを進めると、聞こえないように小声で話を始めた。


 「――聞きたいこと?」


 「君は聖女の加護がどうしたら得られるのか、フレキセン殿から聞いたことはあるかい?」


 「聖女の加護?そんなのじいちゃんも知らないって言ってただろ!」


 「・・・・本当に知らないのかな?知っていて近づいたわけではないのだろうね?」


 「お前何言ってんだ?聖女の加護をどうやってもらえるかは知らねーけど、俺は絶対にルナセイラ様のマジカルナイツになるからな!早朝の模擬戦でわからせてやる!」


 「――なるほど?それじゃ知らずにマジカルナイツを目指していたっていう事かな?ルナに邪な考えなど持っているわけではないのだね?」


 「邪だぁ?お前さっきから何言ってんだ?ルナセイラ様に邪な考え持っていい訳ねーだろ!」


 意味の分からない追及に、レインは苛立たし気に返事をする。


 セイフィオスは、レインの言葉に優しく微笑み告げる。


 「――実は、ルナはマジカルナイツを得ようと考えているようなんだ。」


 「――本当か?!やった!!」


 セイフィオスの言葉に喜色を溢れさせ満面の笑みを浮かべる。


 「・・まだ君をマジカルナイツにするとは言っていない!

 ルナは、私が一人でマジカルナイツ五人分の働きをしようとしているのが嫌らしいからね。君がもしそれ相応の闘いが出来るなら、私は君を仲間として認めてもよいと思ったんだよ」


 微笑んでいたセイフィオスは、すんっと冷徹な表情に戻した。


 「・・なんだよ・・自分が一番気に入られているからって上から目線で物言ってんのか?!」


 「・・・・・。

 私はルナを信じているし、いずれは妃になってもらう。だから、彼女の望みは叶えたいだけだよ。

 能力があってルナを裏切らないなら、私は誰でも構わない。君である必要もないんだよ?」


 「~~~お前・・ルナセイラ様を自分の物だって俺に言いたかっただけなんじゃないだろーな!」


 「なんとでも言いたければ言えばいいよ。だが、ルナを悲しませるようなことは絶対に許さない!・・覚えておいてくれるかい?」


 「ふんっ!お前に言われなくても、ルナセイラ様を命を懸けて守るのは俺自身が決めたことだ!

 王太子だからって偉そうにすんなよ?!お前の命令に従うわけじゃないからな!」


 「――なら結構、あと私はセイフィオスだよ。『お前』ではない。

 君がマジカルナイツになれたら、セイと呼ぶことを許してあげるからね」

 

 にこりと微笑み告げた。


 「はぁ?!気色悪いやつだな!~~誰がお前を愛称で呼ぶかよ!!」


 「ふふ・・好きにしたらいいよ、ただ、仲間になってもそんなツンとした態度ではルナは君を見限るかもしれないよ?

 彼女は心優しい子だ。ルナへの気遣いはしっかり見せるようにね」


 セイフィオスは言いたいことを言い終えると、レインが苛立ち捲し立てるのを気にも留めず外へと出て行った。


 「はぁ~~・・なんなんだよアイツ・・・」


 レインの敵意はセイフィオスとの会話で毒気を抜かれたかのように、いつの間にか落ち着いていた。




 ***




 手紙を書き終えると、ルナセイラは窓を開けて美しい星空が広がる空を眺めた。


 山間だからか梟の啼き声が遠くから聞こえるだけの静かな夜だ。


 空気は澄み渡り、熱を帯びた身体をひやりと冷めていく。


 少しずつ冷静さを取り戻したルナセイラは窓を閉めてベッドに潜り込むと、前世を思い出してからの記憶を頭の中で辿った。


 前世を思い出した当初は自分が完璧にモブだと思い込んでいたし、セイオスを守ることで頭がいっぱいだった。しかし、本当の姿で学園生活を送ることを決めてから本来の乙女ゲームが始まったのだろう。


 攻略対象たちは明らかに今までと違ったし、何よりもアイナの怯え方と警戒は尋常ではなかった。


 『攻略対象とXXやXXXも出来る特別版よ!!~~~~っっずるいっ!!』


 ルナセイラはアイナから告げられた言葉が脳裏に蘇る。


 ――アイナは聖女の加護を知っていたからあんなことを言ったの?


 たとえ乙女ゲームであろうと、聖女がふしだらな性交をすることを女神リリベラが許すとは到底思えなかった。しかし、もし聖女が清い心で浄化の為『愛する者に力を与える方法』が、対象に『自分の体液を与える事』なのだとしたらどうだろうか。


 ゲームの中であれば非常に盛り上がるだろう。


 年齢制限版にまでしたということは、それなりに行為はするはず。だが男性向けではなく女性向けのゲームだったはずだ。


 世界を救うファンタジーに沿った女性向け乙女ゲーム『リリマジ』。


 女神リリベラや、王国の倫理観に外れた交際など認められるとは到底思えない。


 ――なんでアイナさんは逆ハーレムも可能と思ったのかな・・・・


 もし本当にアイナが魔女になる聖女なのだとしたら、『攻略対象全員に愛されたい』というアイナの欲望が、穢れた魔力に魅入られる可能性はあるのかもしれない。


 ――私がヒロインとして、聖女としてしなきゃいけないことはなんなんだろう?


 ルナセイラは自分のすべきことを考えた。


 乙女ゲームとして考えるなら、『攻略対象を選び、愛を育み穢れた魔力を攻略対象と共に浄化して世界を救う』と、考えるのが妥当だろうか。


 前世からキスすらしたこともない、恋人すらいなかった私。


 『きっと大丈夫!』とは間違っても言えない。それでも、セイフィオスがずっとそばにいてくれたならなんとかなるのでは?


 淡い期待がルナセイラの心に少しずつ染みわたり始めていた。 


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