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DCL -01-  作者: フラネス
1:演算摸倣編
9/15

9:二日目-若い婆婆-

「……ぁ、がッ、ぁあああああ!!」


大事な動脈が焼かれて弾けた。


 ……思い出せ! ……ガキの頃……一回だけ……沖縄に来た時の、あの海を……!


――パキン。電球が割れるような乾いた音が脳内で響く。気がつくと五六は逆さまだった。視界が上下に反転しているのではない。空が地面で、海が天井だった。

「……ゲホッ、オエェッ……!!」


五六の周りの海水は少しだけ赤く染まっていた。目に海水が入り、ヒリヒリと激痛が走る。


「……はぁはぁ……!」

五六は時間を惜しむように走り出す。もう陽が登りそうであった。午前二時から午前五時まで……。五六は結局三時間分のロスをしてしまった。


「寝ちゃってたんだ。三時間も意識を失ってた! このままじゃ本当にただ死ぬだけに」

ズキンズキン痛む左目を、目に入ってしまった砂や海水を落とすように撫でた。だが五六のやつれた足は止まらない。


「どこにいるのか、見つけるんだ。なんの成果も得られないでここに来るなんてことは、決してあっちゃいけない!」

五六の鼻から血がたれ始める。ポタポタと垂れる血を右手で拭き、ただひたすらに歩き続ける。しかしその瞬間だった。


「どうしたんだい坊や」

白髪の年のいった女性が五六の腕を取った。

「……す、すみません。東江 巫女ってどこにいますか」

息切れしている五六は呼吸を整え、冷静におばあさんへ質問した。


「そんなことより、早く治療しないとよ。こっちに村があるから来なさい」


「時間が……時間がないんです! 東江の場所だけ教えてください。その先は自分でどうにか…………」

視界は歪み、五六はクラクラと膝から倒れた。


「ああ、いわんこっちゃない!」


 口に砂が入ってくるような違和感と不快感。全身が少しだけ解放されるような快感を覚えた。



***



 「しんだ? しんだの? でも冷たくないよ、おばあちゃん」

視界の下のほうでザワついている子供が見えた。五六はその瞬間、目を大きく見開いた。


「何時間! 何時間たった」


「やっと起きた。30分よ。死ななくてよかったわね」

 さっきの老婆か……。


「そうだ! 東江はどこにいるんだ」


「まあそう焦らずにね。はいこれ」

老婆はガラスコップに入ったお茶を五六に渡した。

「熱いから気をつけてねぇ」


五六はゆっくりとガラスコップに口を近づける。フーフーと息を拭きかせてから、お茶を飲み干した。


「なんでその女性をさがしているんだい。坊や」


「新倉に紹介されたんだ」

五六はガラスコップをベッドの横に置いてある机に置いた。


「そんなことより、ここはどこだ?」

五六は辺りを見渡す。そこは室内のようで、布と木の枝を使って建てられていた。


「ここは、沖縄。国頭村(くにがみそん)よ」


「そうか……。でここはお前らの拠点でもあるのか」


「そうよ。ここに人が来るなんて珍しいからね、つい驚いちゃったのよ。ほら、この子は私の孫。東江 美奈(みな)よ」


「そうか、ふーん。それで、東江はどこに……え……は? 孫? お前は東江なのか」


老婆は首を縦に振った。「焦ること無いっていったでしょう? 私が東江 巫女」


「まじか。こんな年いった人だとは……」


「……」

東江の婆さんは五六に顔を近づけ、左目を大きく開けた。


「痛いからあんまり触らないでくれ」


「あんたこれ……。不運ね。呪い? なんでこうなったの」


「下川ってやつが俺がDCLを使用している時に時間を巻き戻してしまったらしい」


「下川の嬢ちゃん……。こりゃひどいわ。もっと他の対処法があったはずなのにあの子は……ちょっとまってて、眼帯持ってくるから」

東江の婆さんは椅子から立とうとしたが五六が止めた。

「いやいい、つけたくないから」


「そうなの、まあ自由だけど……それで、新倉坊ちゃんになんて紹介されたの? 可愛い子がいるから教えるって? ごめんね生憎今はそういうの間に合ってて--」


「DCLに関与する異能。新倉に聞いた。あなたのDCLは異能解体」


「ほーん……そういうこと。あなたも()()なのね……」


「異能解体で俺の左目を解除できないか?」


「……一瞬なら出来るわ。でも長くても一時間」


「一時間分短縮できるのか! ぜひお願いしたい」


「……話する間だけね」


そして五六は東江に全てを語った。あと二日でDPIを500にしないといけないこと、最終日にゼルのDCLを摸倣しなきゃいけないこと。東江は真剣な表情で全てを聞いていた。


「うーん……。言っておくけど、ゼルのDCLをコピーしても治る保証はない」


「でもそれが一番近道なんだ」

五六は俯いていた。目には少しの涙が溜まっていた。


「今のDPIは405。正直行って数年かかるDPI 50上げを、一日で達成するのはおかしいの……。やっぱりあんたのDCLには何かがある。DPIをすぐに上げれる何かがね……」


DPIを50 上げるために必要な年月は平均で三年。一日でそこまで上げるのは不可能に等しいと言われている。


「でも代償がでかいんだ。左目だけじゃなく、右目もそんな症状が少しずつ出てきた」


「……だからこそ摸倣のDCLについて詳しく知る必要があるわね」


「そういうことだ。東江の婆さんはそういうことなかったのか?」


「ないわ。そんなDPIを一気に上げるなんて前代未聞。だってDPIは視覚情報よ? そんな簡単に上がるわけ無いじゃない。……ねえ、試しがてらちょっと外へ行きましょう」

東江の老婆は椅子から立ち上がり、五六のボロボロの右手を引っ張った。ゆっくりと体を起こしてヨロヨロの足で前に進む。東江はその体を支え、一歩ずつ歩んでいく。部屋を出るとそこはおおきな木が何本も生えている森だった。木にはロープで吊られている部屋や橋がたくさんあった。そしてさっきの部屋は空中にぶら下がっていたのだ。


「すごい……ぶら下がっていたのに、揺れもしなかった……」


「この村全てに重力のDCLを使ってるのよ」

老婆は向かい側につながる橋へ五六を誘導し始める。そこは上空15mくらいはありそうな橋だった。橋を歩き終わり、大きな木に建てられたくいで下っていく。そして地面に到着するや否や、老婆は五六を突き飛ばした。


「痛っ、なにするんだ」


「ここで思い切ってDCLを発動させてみてほしいの! 私のDCLをコピーするのでもいいから全力で!」

そこは大きな広場だった。

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