表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DCL -01-  作者: フラネス
1:演算摸倣編
7/15

7:一日目-死体の様-

 「……ぁ、ぁが、あぁぁぁぁ!!」


 脳が沸騰しているみたいに熱い!  ——『ディメンション移動』。それは、本来DPI 1000の領域にある石渡だからこそ制御できる、膨大かつ緻密な情報の激流だった。DPI 350……いや、先ほどの戦いを通じて辛うじて上昇した程度の今の俺が扱っていい答えじゃない!


 視界の端が、焦げたフィルムのように黒く欠け始めていた。耳の奥では高周波の耳鳴りが鳴り響き、鼻の粘膜が熱に耐えかねて弾ける感覚がする。ドロリとした熱い液体が上唇を伝うが、それを拭う余裕さえ俺にはなかった。


 ……止まるな。ここで思考と意識を止めたら、戻れなくなる……!


 俺は奥歯を噛み締め、砕けそうな歯の感触で辛うじて意識を繋ぎ止めた。DPI 1000。新倉特攻隊のエース。そんな彼はもう倒していた。ただ、膝から崩れ落ちていて動けそうにない。


 ……石渡……もう少し遅く終わらせてくれてもよかったんだぜ……? プレッシャーを感じちゃうからな。


「ん〜、あいつに勝つ方法……」

新倉はジェット機の中で、呑気にグレイブ・マザーと五六の戦いを観察していた。

「威力がないんだよな五六。模擬エンプティーの時は、僕の異能をコピったからワンパンだった……今はそんなことできないんだよな。さあ、どうする」



「あのデカブツの鉄壁の防御を力任せにブチ抜く! よし、何でもやってみてからだ!」


 俺は右腕を突き出した。石渡から略奪したばかりの『ディメンション移動』の構造式とテレポートを激突させ、火花を散らす。二つの異なる異能を俺の脳という未熟な器の中で無理やり一つの術式へと編み上げる。出力不足を補うのは、死への恐怖と生への執着だけだ!


「両目発動——強制接続(オーバーライト)!!」


 激痛。右腕の皮膚が焼け焦げる臭いが鼻を突く。骨が軋み、筋肉が強引なエネルギーに悲鳴を上げる。  だが、その激痛と引き換えに俺の左目は捉えた。グレイブ・マザーの巨体の中心。泥の奔流が渦巻くその奥底で、データが心臓のように脈打つ核を。それは石渡の『十重曼荼羅』ですら届かなかった、この空間の唯一の弱点。


「一/二……『次元歪曲・蝕切じげんわいきょく・しょくせつ』!!」


 ドォォォォォォォォォン!!


 放たれたのは石渡のようなきれいな斬撃ではない。不完全なコピー。一/四の出力。だがそれがどこに当たるのか、そこが大事だった。


 斬撃はグレイブ・マザーの核を貫通する。一瞬の静寂の後、巨大な泥の怪物が内側からひしゃげ、耳を劈くような絶叫と共に爆散した。


「……なっ!?」


本体であるグレイブ・マザーからの演算供給が断たれ、周りの小さなエンプティーの存在維持が危うくなったのだ。


「ゲホッ……ハァ、ハァ……お前……今、俺の……『蝕切』を……使ったのか……?」


「!?」

 石渡はほふく前進で五六へ近づいていた。今の石渡の瞳に映っているのは、もはや350のゴミではない。  鼻から血を流し、右腕にたくさんの切り傷がある、狂気的な笑みを浮かべる一人の戦士の姿だ。


「……はは、一/二だけどな。……悪いな、石渡さん。あんたの技……今の俺には、これくらいが限界だ」


脳が、活動限界を告げるように脈打つ。視界が明滅し、一秒ごとに世界が遠のいていく。


 上空。旋回するジェット機の機内。 新倉快斗はモニター越しに映し出されたその光景を、一言も発さずに見つめていた。 彼の隣で計器が五六の数値を弾き出す。DPI 405。


「……馬鹿げている」

新倉が、ポツリと独り言を漏らした。


(石渡。お前は正しい戦いをした。だが、あいつは不正解を積み重ね、その果てに答えを強引に書き換えた。……DPIの差を、脳を焼くことで埋める。それはもはやエンレフの戦いではない。……ただの狂人の足掻きだ)


 新倉の脳裏に、かつての相棒——がよぎった。あいつもまた最後には笑いながら、自分の全てを燃やし尽くして戦った。

(五六。お前は……あいつと同じ場所へ行くつもりか? それとも、あいつが辿り着けなかったその先へ……)


「……」

石渡が悔しそうに路地裏を睨む。仮面が割れ、血の通った肌を晒した「男」は、演算の崩壊と共に空間の裂け目へと消えていた。 俺は、立っていることさえできなくなり、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。冷たいアスファルトの感触が、今はただ心地よい。


「おい、五六……!  しっかりしろ!」


 石渡が這い寄ってきて、俺の肩を掴む。その手の震えが彼が受けた衝撃の大きさを物語っていた。だが、俺は返事をする力がもう残っていない。 左目は電池が切れる直前の電球のようにチカチカと明滅し、ついには暗闇に沈んだ。


「……ハッ、ハハ……33……どころか、50は上げたと思うぜ……下川……」


 自分でも何を言っているのか分からなかった。ただこの地獄のような一日を生き延びたことへの、僅かな安堵。そして、それ以上に深い明日への絶望。それは下川が言っていた死へのカウントダウン。俺の意識はそこで完全に途切れた。初日終了。残された時間は、あと四八時間。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ