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DCL -01-  作者: フラネス
1:演算摸倣編
5/15

5:一日目 -俺の死体-

 「来た」


上空から降りてくるジェット機の重い扉が開き、風と共に新倉快斗(にいくらかいと)石渡恭義(いしわたりやすよし)が姿を現した。


石渡の視線が、五六の剥き出しの左目に突き刺さる。血管が浮き出し不気味な白い光を放つその眼球。

「はじめましてだが……、眼帯は着けないのか。趣味が悪いな、五六」


石渡の挑発に五六は立ち止まり、静かに視線を返した。

「ハッタリが必要な時期は終わったんだ。石渡、お前もそのうち慣れるよ。俺のこの目に、盗まれる感覚に」


「……抜かしおるわ。350の雑魚が」

石渡が踏み出そうとした瞬間、新倉が二人の間に割って入った。


「喧嘩は現場でやれ。――ジェットが出るぞ。目的地は岡山県倉敷市、倉敷中央通りだ。DPI 900級、大型エンプティー『グレイブ・マザー』の反応を確認した。これより殲滅任務を開始する」


 新倉の言葉と同時に漆黒のジェット機が開いた。

ジェット機の中へ入り、大きな音を立てて飛行し始めた。だが、空気は重く沈黙。俺は新倉と同じ空間にいるだけでもつらいというのに、石渡の強烈な視線に耐えられず、そっぽ向いて窓ガラスの外を見ていた。



***



 ジェット機が戦域である倉敷中央通りの上空に到達した瞬間、機体は激しい衝撃に見舞われた。窓の外は、数日前とは比較にならないほど濃密な黒に覆われている。DPI 1200級、個体名『グレイブ・マザー』。

だがもっと違うのは、形を持っているということ。明確な形を持っており、全身があるという状態。模擬エンプティーのような武器だけが明確な形を持っている状態とは違う。


 左目を剥き出しにした視界。世界は、色のついた幾何学模様に見えていた。グレイブ・マザーから放たれる瘴気の流れ、空間の薄いところ、そして隣に座る石渡から溢れ出る暴力的なまでの歪み。


「チッ、震えてんのか350(さんごーぜろ)?  足手まといになる前に海にでも飛び込め」

石渡が嘲笑いながら、ハッチへ向かう。

「新倉さん。ここは俺が殺ります。——白壊(はっかい)を使って」


「許可する。五六、お前は石渡の背後を死守しろ。死なせるなよ、……石渡を」

新倉の不可解な言葉に石渡が顔をしかめたが、ハッチが開き猛烈な風が吹き込む。


「行くぞ!」

石渡がダイブした。空中でその体が、陽炎のように揺らめく。五六もまた、吹き荒れる風の中へと身を投げた。


 着地と同時に、石渡の蹂躙が始まった。 「次元歪曲・蝕切じげんわいきょく・しょくせつ


 石渡がフィンガースナップをした瞬間、空中の空間そのものがガラスのように割れ、押し寄せる数百体の小さなエンプティーがその亀裂で切り刻まれて消滅した。DCL -ディメンション移動- 自分の思うような時空を作り出せる。DPI 1000。新しいディメンションを作り出し、強制的に異聞の区域に入れさせるた。


「時空を壊して殺した?」

「いや違う。そんな器用なことはできない。時間が流れない空間を作り出し、そこに斬撃を加えて必中攻撃にした」

「そんなことしたら、脳が焼き切れるんじゃ」

「だ、か、ら、DPI 1000あるんだよ」


 しかしその瞬間五六の脳が、沸騰したように熱を持つ。鼻から赤い筋が垂れた。

「え?」

左目の視界の中で、石渡の異能の構造式がバラバラに解体され、五六の内側へと強制的に流れ込んでくる。


「っ……が、あああぁぁ!!」  

あまりの情報の濁流に、五六は膝をつきそうになる。その隙を突き、一体のDPI 450級エンプティーが、石渡の死角からその首筋を狙って跳躍した。


「石渡、後ろだ!」

「っ、しまっ——」  攻撃に集中しすぎていた石渡の反応が遅れる。そのエンプティーは器用に刃物を持っていた。


助からないと思った瞬間、左目の異能コピーが完了した。

「片目発動——強制接続(オーバーライト)!  1/4・ディメンション移動!」


 五六の右腕が、空間を無理やり掴み取った。 石渡のような流麗なものではない。まるで空間を力任せに引き千切るようだった。


 ドォォォォン!


 エンプティーが石渡に届く直前、五六の腕がその空間ごと切り抜き、空間は紙のように三次元的存在から二次元的存在へと変わり、折れ曲がった。そしてエンプティーの頭部を握り潰した。


あたり一面は黒い泥が四散している。


「……は、はぁ……はぁ……」

右腕の皮膚は傷だらけで骨が軋む。だが、五六の口角は吊り上がっていた。


「……おい。今、何をした」

着石渡が驚いた表情で五六を振り返る。

「お前……俺のDCLを……使ったのか?」


「言ったろ。半分コピーさせてもらうって。……1000の半分は500。新倉のノルマ達成への慣れには、ちょうどいい数値だな。はははっ」


 五六の左目は、さらに白く、より禍々しく発光を強めていく。その時だった。洋服店に根を張っていた『グレイブ・マザー』が咆哮を上げた。その中心部から人間の形を模した何かが這い出してくる。


「……あれは、まさか」

通信機から、新倉の緊張した声が聞こえた。新倉はジェット機の中で待機している。

「気をつけろ。DPI 1200級の……DCL持ちのエンプティーだ」


現れたのは、真っ白な仮面を被った黒い人型。その手には、五六たちが今まさに使ったとディメンション移動が、データとして複製されていた。


「……五六冬眞」

仮面のエンプティーが、五六と全く同じ声で喋った。


「誰だお前は!」

まったく同じ声のそいつに五六は近づいていく。

「やめろ! 何をしてくるかわからない。不用心に近づくな」

石渡の声で五六の足は止まった。


「俺たちが、お前らを先に殺す」

その仮面の生物は、空間を掴んだ。


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