4:センスの塊
「三日でゼロから100までは難しい。一日33ずつ上げて行かなければいけない。だが、33✕三回は99だ。残りの一。それが問題。人間は33という膨大な数と34を大きく区別する。だからその一の差は、日常的に頑張ってきたことへのプラスアルファとして捉えてしまう。だから、二日頑張っても仕方ない。もう一日の課題がプラス一になるようじゃ、問題は解けない。解く方法は、33.33333......これをすること。一日に33.33333......をすれば100になる。.333は区切りが悪いかも知れない。だけど、その数自体は悪くない。非日常を日常にする時、.333は一よりも負担が少ないから。だってそうでしょ? 33.33333......✕3=100 で、一見するとバグみたいな感じなんだから」
「要するに?」
下川は俺に満面の笑みで親指を立てた。
「頑張れってこと」
「……何が頑張れだ。説明の割に結論が雑すぎる」
思わず口から愚痴が漏れたが、下川の言ったバグのような計算式は、妙に腑に落ちた。一日に三三ずつ、きっちり階段を登るんじゃない。割り切れない「.333……」という非日常を、止まらない演算のように脳に走らせ続けろということか。
三日で百。 それはつまり三日後には俺が、今の俺では想像もできないゴール地点に到達していなければならないことを意味している。
「あ、五六くん。最後のアドバイス」 扉を閉めようとした下川が、いたずらっぽく小首をかしげた。 「それ、治るよ? ただし、ゼロのDCLを摸倣出来たらね」
「……」
下川は扉を閉めて出ていった。俺は病室のゴミ箱に、誰かが持ってきた見舞い用のタオルを投げ捨てた。 そして机の上に置いてある置き手紙を手に取った。
白い手紙で雑にセロハンテープで止めてある手紙。セロハンテープが中々取れず、五六は手紙を破って開封した。
『新倉だ。看護師から聞いた。お気の毒に。お前のDCLはだいたい検討がついている。コピー系統だろう。DCLのコピーとは聞いたことがないが、見方や敵のDCLの異能に関与するDCLを持つ、元エンレフなら知っている。左目のことはそいつに聞いてみるといいかもしれない。それで本題だ。お前が僕の特攻隊に入るためには、三日以内でDPI 500を達成しておけ。返事は上で聞く。お前がエンレフを止めるか、命を掛けるか』
「……字、きったな」
手紙の横に置いてある眼帯を五六は手にした。おそらく新倉がおいてくれたのだろう。
「左目のこれを隠す必要なんてない。これは新しい自分の表し」
その手紙をきれいに折りたたみ、ゴミ箱の中に放り込んだ。眼帯はポケットの中に畳んで入れた。
「す、すみません。先輩……。どうしたんですか? 不機嫌そうに見えて」
「なんでもない。時間がない。後でゆっくり話そう」
俺は蒲谷の肩に手を置き、そのまま病室を出た。右左を確認してエレベーターに向かう。 行き先は地上階じゃない。屋上だ。
***
「……ゼルの塔」
五六は屋上から見えるゼルの塔を指さした。噂だとDPI 2500で近づいただけで脳が焼ききれて死ぬレベルらしい。
「……」
新倉の異能をコピーしただけで瀕死なのに、もし冥王の異能をコピーしたら即死だ。
「だけど……強いやつの異能を食らってこそ、俺は強くなる。コピーできたら最強になれるはず」
……だけど知ってる。軽い言葉で自分を紛らわせている自分がいることに。最強になんてなれない。第一、DPIの差がありすぎて異能が入らない。強制的に異能を解放したとしても、脳が焼き切れる。
「……でもこれしか生き延びる方法はないんだ。左目をくり抜いて異能の力が常に1/4になるか、死ぬか」
1/4なんて、社会のゴミだ。仕事ならエンレフ以外にもあるだろうけど、夢を諦めたくない。せっかくエンレフに入っていい暮らし出来るって思ってたんだ。充実するって思ってたんだ。だから、諦めない。
五六はスケジュールを立てるため、屋上の柵に足を掛け脳内メモをかいていく。
新倉からの要求は三日でDPI 500。 今のDPI 350から150の上昇。普通なら二年かかる数値を三日で達成しなければならない。そして要求に加え、三日の猶予以内にゼルの能力をコピーできるまでのDPIを上げなければいけない。
【1日目:DPIの適応】
目標: DPI 350 → 400(初級上限突破)
課題: 常時発動している左目の視界に脳を慣らす。
手段: 新倉特攻隊の初任務にて石渡恭義のディメンション移動を至近距離で観測・模倣する。格上の次元干渉を強制的に脳へ叩き込み、DPIの底上げを図る。
【2日目:限界適合】
目標: DPI 400 → 470
課題: 模倣とは何か。自身のDCLをもう一度はじめから考える。
手段: 新倉の言ってた者に会い、何かを会得する
【3日目:新倉快斗へ、そしてファーストコンタクト】
目標: DPI 470 → 500オーバー
課題: 焼き切れて死ぬ前に全てを達成する
手段: 下川が言ったゼルのDCLの正体を突き止める。それができれば左目は治り、ゼルのDCLを手に入れられる。
「……完璧だ」
***
「あの少年……脳が焼き切れる?」
新倉の隣にいる黒いスーツ男、石渡 恭義。
「そうだ、異能を使った代償らしい」
「代償がでかいな。ちなみに何だったのだそのDCLは」
「コピー、かな。予測だけど。でも多分、コピーした異能を1/2で出せる異能だと思う。個数制限ありのね」
「模擬エンプティーを三体同時に倒したんだろ?」
「まあ僕の力かな」
(でも、あいつはよくわかってた。テレポートの原理と纏いについて……僕でも纏うのには一ヶ月かかった。それを彼は一瞬で……)
「石渡。多分あいつが待ってる。そろそろ行くぞ」




