14:三日目-裏切り-
冥王城の上空に到達するとジェット機の警報が鳴り響いた。
「なんだシステムが!? ……いや違う。ゼルの能力か!」
石渡の叫びと共に機体は爆発もせず真っ逆さまに墜落した。叩きつけられたのは、巨大な島そのものが城塞と化した冥王城の外縁。五六は瓦礫を押し退け立ち上がる。目の前には空を覆い尽くすほど巨大な城の正門がそびえ立っていた。
「……あいつはどこだ」
「玉座の間のさらに奥……城の中央の庭園だ!」
「だが、ここからどう行く!」
「横切る! ここは外壁の上だがまだエンプティーの一つや二つすら見えない! だからなんとか城内の上までよじ登っていけば」
バチン!
「……!?」
と叩かれる音と同時に石渡は場外へ吹き飛んだ。
「石渡ィ!!」
海面に叩きつけられる石渡の体。その軌跡をなぞるように赤い血が線を描く。
何が起きた? 攻撃の予兆も音も殺気すらもなかった。ただ、隣にいた戦友が消し飛ばされたという結果だけがそこに転がっている。
「……そこに見えないエンプティーがいるのか!!」
だが何も映らない。左目も空間の違和感を捉えられない。 ——バチンッ! 二度目の乾いた音。五六の頬を目に見えない何かが掠めた。それだけで皮膚が裂け、血が飛ぶ。
「これはまずい!」
……勝負にならない。位置がわらならい以上、回避すら出来ない!
五六は直感した。この見えないエンプティーとここでやり合うのは自殺行為だと。目的はゼルの異能のコピーだけ。五六は迷わず外壁の縁を蹴った。
「無視だ……! あんな化物に用は無い」
城壁の外、垂直に切り立った壁面へと身を投じる。外壁は黒いレンガが積み上げられた重厚な造りだった。五六はレンガに指を立て、凄まじい速度で滑落していく。
だが、その最中——。
……ズ、ズズ……ッ!!
「なんだ……!? 地震か!」
外壁全体が大きく波打った。レンガの一つ一つが五六の体を振り落とそうと意思を持っているかのように動く。
さっきのやつか!? だとしたらまさか……あいつ、この城壁そのものよりデカいのか!?
だが五六は知らなかった。見えないエンプティーが城壁を揺らしているのではない。この城壁そのものが、冥王軍の巨大なエンプティーだということを。
「絶対成功させる! お前らにかけてる時間はないんだよ!」
蠢くレンガを無視し落ちるように外壁を滑走する。
ドォォォォォォォォンッ!!
着地と同時に、地面が爆発したかのような衝撃が五六を襲う。背後の巨大な城壁が再びバチンという音を立てて大きくしなる。
土煙の中、五六は一人絶望的な広さを誇る城内広場に立ち尽くしていた。
「どうする……石渡もいない今、ここからどうすればいい?」
だがその瞬間いやなことを思ってしまった。それは最悪の決断だということを。
「新倉のテレポートで逃げるなんて、だめだ! ここまでやってきた、一旦帰ってから体制を立て直すなんて時間がいくらあっても足りない!」
……どうする、どうすればいい! 新倉、なんでこの肝心な時にいないんだっ!
***数十分前、新倉の視点
「……新倉様、彼に冥王城へと行かせてしまって、本当によかったのですか?」
紫のスーツに渋い顔つきの年のいった男、『槌山 雄大』と書斎のソファにもたれかかっている新倉が話している。
「まずは座ってくれ」
新倉の言葉に一礼し、槌山は向かいのソファに腰を掛けた。
「さっきの答えだけど……勘だよ。僕の勘がそう言ってるんだ。冥王ゼルはこの僕がいくらやっても敵わなかった相手だ。他の誰がやろうと冥王ゼルは止められない……。だから一人挑みに行ったくらいで誰も気にしないさ。冥王ゼルの前では誰もが無力で、誰もが死んでしまう存在だと皆承知だ」
「でもそれは独断専行です。だれも人の死なんて望んでいない」
「だがそれは理想。人の命なしには戦いきることは出来ない。それに僕は五六に良い意味で賭けているんだ。五六ならゼルのDCL -演算- をコピーして欠落庭園の数値を書き換えられるかもしれない。そんなこと出来たら少しでも勝算があるかもしれない」
「……使い捨ての駒として人間を扱うような人だとは、思いませんでしたよ」
「悪く言うのか俺の選択を? お前を流してしまってもいいんだぞ?」
「…………ただ、もう私のDCLは使わないようにしてもらいたい」
「逃避か? お前のペットが五六を殺したんだ」
「違います。模擬のエンプティーを止めるなと言ったのはあなたです。あの時止めていれば今頃五六くんは……」
槌山 雄大のDCL -調教- ありとあらゆる生物的物体を調教することができる。条件は強い生物になるほど調教できる確率が下がる。またエンプティーを調教したい場合は、通常で調教しようとするとほとんど調教不可のため、瀕死の状態から調教可能にする。調教した後は、ありとあらゆる行動をさせることができる。
「いいや、お前は僕が国民全員を殺せと命令したらするのか? それが答えだ。お前自身の決断であったんだ。それに岡山の模擬エンプティーの甚大な被害はすべてお前のせいであるはずなのに、僕がそれを見逃した。権限ですべてを隠したんだ。それでも言えるのか? 自責の念を恩人になすりつけるのか?」
「私の考えはかわりませんよ……呆れました新倉さん。あなたは溺れているんですね、自分の才能に」
槌山は呆れた表情で部屋を出た。書斎は静かになり新倉は立ち上がる。
「……彼はどこまでやってくれるかな。五六くん……」




