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DCL -01-  作者: フラネス
1:演算摸倣編
11/15

11:二日目-浸透-

 東江美奈が持つDCLは綴代栞異(つづりしろしおりこと)。その異能の本質は、運動エネルギーの貯蔵と任意出力。日々の鍛錬の筋トレや走りこみで得たエネルギーが消滅することはなく、DCLよって脳に黒いインク状のエネルギーとして固定される。先ほど彼女が老婆以上の速度を見せたのは、足の筋肉に数ヶ月分蓄積された歩行や跳躍のエネルギーを一気に解放したからに他ならない。


「来い!」

 五六の左目からツーと一筋の血が流れる。だがその左目は美奈の力の流れを完全に視覚化していた。黒いインクが脳からどこに移動するのか、次の一撃にどれだけのエネルギーが注ぎ込まれるのか。


「……お兄さん。何かわかったつもりでいるのかもしれないけど……私の速度についてこれるの?」

美奈の瞳からハイライトが消えた。


「いかにも残酷そうな目だなっ!」


彼女は腰を深く落とした。そしてその両足の筋肉へ黒いインクが移動する。

「100日分の踏み込み、全部今ここで使ってあげる。――避けてみてよ、お兄さん」


美奈の足元が爆発した。音が置き去りにされる。

綴代・瞬刻連脚つづりしろ・しゅんこくれんきゃく!」

放たれたのは、今までにない威力の連続飛び蹴り。だが五六は攻撃に当たる瞬間、笑みを浮かべた。それは……。


 感じる! 今なら使える! 俺のDCLが!

異能解除が解かれ左目に激痛が走った。五六はその痛みを見逃さなかった。


「両目発動――強制接続! テレポート1/2ッ!」

五六は音もなく背後にいる。


(後ろ! それがDCL!?)

「だけどまだ50日分、残ってる!」

美奈は背後へ体制を戻す。


 よし今なら全部見える気がする! 黒いインクが溜まっているのは右腕、次は右腕からだ!


「これで、終わり!」

だが美奈の拳の軌道上でブレた。いや、ブレたというより反射だった。


「はっ!? ぅ!!」

美奈の拳は顔面を直撃した。


「な、何をしたの……」

美奈は攻撃を止め、後ろの木へよりかかった。


「新倉のテレポートは自由に具現化できる。だからテレポート出来る門をお前の拳が俺に当たりそうになった直前に展開した……」


草木が揺れる音だけ響く国頭村。先ほどまでの戦いが嘘かのように、砂浜には静寂が戻っていた。森の中に仰向けに倒れ、荒い息を吐く五六の隣に美奈がドカッと座り込む。


「……はぁ。お兄さんやるね」

美奈はツインテールを解き土を払う。その顔にはどこにでもいる女子のあどけなさが戻っていた。


「……こっちは、死ぬかと思った。……あんな速い攻撃、まともに食らってたら今頃は肉片になってた」

五六は痛覚が戻ってしまった左目をかばいながら、星空を見上げた。


「これ、飲みなよ。この村特性のお茶。苦いけど脳の腫れには効くから」

美奈が差し出してきたのは、古びた水筒だった。五六は警戒しながらも一口啜る。泥を煮詰めたような味がしたが喉を通った瞬間、目の痛みがスッと引いていくのを感じた。


「お前、名前はたしか美奈だったか? ……強かった。こんな俺みたいな大の大人を圧倒してしまうんだ。すごいな」

だが美奈は膝を抱えて遠くを見つめた。


「私ね、もう二十歳超えてるの」


「は、まじで?」


「うん、まじ。私のDCLは運動エネルギーをためて解放するっていうもの。だから体の成長とか全部エネルギーに変えられてしまう。ずっとこの体のままなの……」


「ちなみに何歳だ」


「22」


「……」


美奈の横顔は少しだけ寂しそうに見えた。


 新倉が言ってた『凶器』って……。俺もこいつも、異能振り回されて自分自身の体を削ってるんだ。


「……贅沢な悩みだな。俺なんて他人の異能をコピーしなきゃ行けないんだ。いやじゃない? 他人の異能の劣化版で生きていくなんて」


「あっ、コピーだったんだ! だから新倉さんのテレポートがどうのこうのって言ってたの」


「うん……なあ戦闘中にも思ったんだが、お前案外おしゃべりだな」


「え……ああ、うん。戦いを交えた人とはなんか喋るのに慣れるんだよね。初対面は怖いし」

美奈は恥ずかしそうに俯いた。


「なんか少しだけわかる気がするよ。怖いって気持ちが。じゃあごめんなんけど俺、そろそろ行かなきゃだめなんだ。あと一日。……DPIを500まで上げて、ゼルのコピーを完成させなきゃいけない。もしかしたら明日になったらもう見えなくなるかもしれないから」

五六は左目を抑えた。前よりDPIが上がったせいか、負担も小さくなっていく……。


「冥王の異能をコピー? 死ぬよ? 仮にコピーできてもゼルの演算は完全無欠ってわけじゃない。だから治る保証もない」


「違う……ずっと夢だったんだ。エンレフに入って自由な生活を送るってことに……」

五六は水筒を美奈に預けた。


「自由な生活?」

美奈は五六から水筒を受け取ると、立ち上がった。


「世界で活躍して有名になって、ちやほやされる生活」


「でも、今は自由じゃない。縛られすぎてる! いくら頑張っても報われない可能性があるなら……今夜だけは異能も戦いも忘れて、ちゃんと人間として眠ったほうがいい」


五六は重い体を引きずって立ち上がった。明日になれば、また血を吐き脳を焼く地獄が始まる。だが、この国頭村の温かい風と美奈の淹れた苦い茶の味だけは、俺が生を持つ最期の自由に感じられた。

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