10:二日目-死に際-
「手加減なしで本気の力を?」
「これでも私、新倉坊ちゃんに何度か勝ってるのよ」
「新倉のテレポートすら解除するのか?」
「ええそうよ。全部一時間以内に決着をつければ、そこからは能力なしの戦い……新倉坊ちゃんはいい体つきしてるけど、私の体には劣る」
……さっき運ばれてきた時に感じた体型。ヨボヨボじゃなくて、がっしりしていた。舐めてかかるとだめだな。
「でもここで俺が全力を出せば、負担は大きい」
「坊や、負担を見越してDPIを上げるんじゃないの?」
「……」
そうだ、ここで本気を出さなきゃ死ぬのをただ待つだけになってしまう!
「わかったやるよ。ただ東江の婆さん、あんたも手を抜くなよ」
「ふふっ……じゃあ、行くよッ! 溟斬神凪!」
「!?」
脳がいじられているような感覚……。視界もグラグラっと揺れて気分が悪い……。
「でも、異能解体は数秒かかるんだろ。その間に俺が攻める! 片目発動——強制接続! 1/4テレポート!」
……テレポートの精度が1/4になれど、元は新倉の力。ほとんど正確に……。移動しない!?
「よかったね坊っちゃん。もう、発動してるのよ」
左目も、脳の負荷の重さも……ない!
「さあ異能なしの戦いよ。正々堂々、行きましょう」
踏み込みの瞬間、五六は息を止めた。一瞬が命取りになると。だが五六はDCLによる負荷が脳から離れたため、その状況に集中していた。
そして、一瞬。
「速いっ!」
東江はもう五六の目の前へと踏み込んでいた。東江が一回転すると同時に五六はその蹴りを食らった。ふらっとしたその瞬間をねらって追撃の拳。東江は異能を持たない者への立ち回りが優れていた。瞬殺、それはこの戦いにふさわしい。圧倒的な格闘に五六は蹴り飛ばされてしまう。
「DCLに頼りすぎた者の末路がわかるかい? 坊っちゃん。あんたは戦闘センスがない。今までもそうだったのだろう? 自分を磨かず手の届く武器を磨いていた。その武器は便利だからね」
「ぁ……ぁぁぁ……ぅッ」
「もう立たないのかい? 終わり? それで、これだけで満足なの……後二日でDPIを100上げるんじゃなかったの? それじゃあ、ただの肉片に鳴ってエンプティーの餌食になるだけよ?」
「ああ、ぁぁッ」
「……美奈。きなさい」
ツインテールの孫、東江 美奈。木の影から戦闘を見ていたようだ。
「はい……なんでしょう」
「ははっ、俺を……その孫で、縛り上げようっていうのか?」
「……私はもう歳だ。こんな老婆と若者を戦わせるなんて、あなたも不本意。だから、私より優秀で有望な孫と戦ってもらう。美奈、全力でできるわね」
「はい……」
美奈? なんでこんな子供と俺が戦わなくちゃいけない。高校生か? いや下手したら中学。こっちのほうが不本意だ。
「東江の婆さんに舐めてもらっちゃだめだな。悪いけど時間がないんだ、早くあの婆さんに認めてもらわないといけなくてな! 両目発動——強制接続! 1/2テレポート!」
全力を出す! それまでだ!
……。
「……」
「……どうしたんですか? 攻撃してこないんですか?」
「……」
「……」
なんで発動しない!! あの婆さん、異能解体を続けてやがる! まずい、まずい!
「攻撃してこないなら、私から行きます」
さあ、あの婆さんの言ってたことは本当か否か!
「東江 美奈、行きます!」
美奈は腰に差していた、抜き身の短剣を逆手に取った。
「おい、おいおい! 殺す気か?」
五六は血の混じった唾を吐き捨て、後ずさりしながらも左目を駆動させる。だが視床の出血は限界。焦点が合わず美奈の姿が三重にブレている。
「本気の真剣勝負。お兄さんもこれくらい受け止められないと、実戦で簡単に死ぬよ」
美奈の瞳がふっと細まった。
「あ。……右の奥、三本目の血管。そこ、破けちゃいそう」
「なっ……消えた!?」
美奈の姿がかき消えた。テレポートではない。ただの予備動作。五六は反射的に両腕でガードを固めようとした。だが美奈はガードの隙を探している。
「隙だらけ、そこ!」
五六は間一髪、地面に落ちていた枝で刃を受け流したが攻撃は止まらない。
「ガードしても無駄。お兄さんの動き全部が音に出てる。呼吸と心拍、筋肉の収縮……」
美奈は短剣を旋回させ、五六の喉元を切った。
「いっ! 速すぎんだろ、あの婆さんよりも速い!」
四方八方から、美奈が砂を踏みしめる音が響き渡る。
「……ほら、どっちから来ると思う?」
右。左。背後。頭上。
「ここだ、来る!」
「残念」
「! ……あ、が……ッ!!」
五六は選択肢を勝手に絞ってしまっていたのだ。まさか、投擲が来るとは思わずに。そしてその刃物は胸へと刺さった。
「おしまい」
「あ、ああ……はぁ、ぁ」
だが死の直前、五六の左目は、美奈の脳に渦巻く真っ黒なインクのようなDCLの流れを視た。
「な、なんだこれ……」
脳が透けて見えて、その中になにか黒い靄が……。
「……おい、なんか黒い汚れ付いてるぞ。汚ったねえな」
東江の頭へ手を伸ばす。
「なにっ!?」
とっさに東江は手から避ける。
(何かまだ手札を隠してるの? 何、何!)
「……は、ハハッ……。そうだ、人間はいつでも死に際に覚醒する! 今なら見えんだよ、お前の動きもすべて! 来い。すべて見切ってやるッ」
***東江の老婆。
「!!」
異能解体が切れた……。
異能解体、それは相手のDCLを一時的に使用禁止にする異能。だが難点としては、環境によって禁止時間が左右されるということと、一日の中で異能解体を一度かけられた者には、もう一度DCLを使うことができないということ。この二つが組み合わさることによって、ほんの一時的に異能解体がかかるという場合と、一時間すべて異能解体にかかっているという場合にわけられる。そしてその環境とはDPIの上昇のこと。DPIが少しでも上昇した場合は異能解体が解けてしまう。この場合の異能解体が切れたというのは……。
「ふっ、やったわね坊っちゃん。DPIが上がっているわ」
……五六のDPI上昇を指している。




