3.初陣
俺が剣を構えると同時にアキも構える。
「妖精の風。」
アキが魔法を詠唱すると同時に俺もラグエルに向かって走り出す。無数の光の破片がラグエルに向かって降りそそぐ。
「光の壁。」
ラグエルは自分の目の前に壁を展開し平然とアキの魔法を防ぐ。すかさず俺はラグエルに接近し、技を叩き込もうとする。
「炎転。」
炎の渦を巻きながら剣をラグエルに向かって振り下ろす。ラグエルは杖で剣をいなし、俺に向かって手をかざしてくる。
「光波。」
ラグエルが詠唱した瞬間、光の波動が俺に向かって飛んでくる。俺は剣で波動をいなそうとするが、波動の威力に押し切られ、吹き飛ばされる。すかさず受身をとり衝撃を和らげる。ラグエルを視界に捉えると、ラグエルが杖をこちらに向けている。
「光の欠片」
ラグエルは杖の周りに鋭い刃のようなものをいくつか出現させ、俺に向かって飛ばしてくる。
「妖精の壁」
目の前に白い壁がそそり立ち刃を全て防ぐ。
「助かったアキ。」
俺は体勢を整えながらアキにお礼を言う。
「ああ、俺はルシアを援護しながら戦う。ルシアは目の前の敵に集中してくれ。」
「わかった。」
俺は再び剣を構え直す。
「ふぅー。」
一呼吸おいて地面を蹴り一気に距離を詰める。
「妖精の風。」
アキが魔法を詠唱し、敵の動きを少しでも止めようとする。俺はアキの魔法にあわせ、敵の後隙を狙う。ラグエルが光のシールドを展開しアキの魔法を防ぐ。俺は少し左に周り、アキの魔法の死角から攻撃を放つ。
綺麗な半円を描いた刃の先がラグエルの右脇腹を捉えようとした瞬間ラグエルは杖を刃に当て、勢いを殺しながらいなす。俺は体を反転させ再びラグエルに切りかかろうとする。だが刃がラグエルに届くより先に俺のお腹に鈍い痛みが走る。痛みを感知した瞬間吹き飛ばさる。
「ガハッ!」
体を強く気に打ち付けられ視界が揺らぐ。口の中に血の味が広がる。なんだ。なにがおこった。ラグエルは俺が体を反転させるより早く杖を引き、俺の腹に向かって杖の先で俺を吹き飛ばしたのか。体に激痛が走るの我慢し、状況を整理しようとする。
「ルシア!」
俺が思考するよりはやく、ラグエルが距離を詰めてきた。
「ハク!」
俺の声と同時にハクが俺の前に結界を展開する。その瞬間ラグエルの振った杖が結界にあたり結界が壊れる。間一髪助かった。少しでも遅れていたら確実にやられていた。俺は距離をとり、呼吸を整える。
「助かった、ハク。」
呼吸が荒く体の全身が痛む。休む暇もなくラグエルが動く。アキに対して距離を詰め、近距離で魔法を放つ。
「光波。」
「ハク結界だ!」
ハクが結界をはるが抑えきれ無かった衝撃がアキを襲う。追撃を入れようとするラグエルに対して俺は距離を詰める。
「炎。」
ラグエルの放った魔法に向け魔法を放ち相殺する。アキとラグエルの間に飛び入り、一気に距離を詰める。
「蒼炎。」
炎の火力を上げラグエルの左手に向かって切り上げる。その攻撃を杖によって防がれたが勢いを殺さないように半回転しラグエルの脇腹に向かって剣を振りかぶる。紫の血しぶきが舞いラグエルが俺から少し距離を取る。
「ほう。まだ若いというのにそれほどの身のこなしができるとわ。少しあなた方を舐めすぎていましたね。」
攻撃が当たったとはいえかすり傷程度。ラグエルは距離をとり余裕のある態度で俺たちを見ている。
「あまり時間をかけすぎてはカマエル様に叱られてしまう。そろそろ終わりにしましょうか。」
瞬きをした瞬間ラグエルが視界から消える。
「ぐはっ。」
鈍い痛みがお腹にはしる。ラグエルに距離を詰められぶたれたのか。そのまま勢いを殺せず木に打ち付けられる。だめだ。立ち上がれない。視界がぼやける。なんとか顔をあげラグエルを捉えると、ラグエルはアキに近づき片手でアキの首を持ち上げている。
まずい、このままじゃあ、アキが死ぬ。目の前で殺される。せっかくおじさんが、街の人たちが俺たちを逃がしてくれたのに。だめだ、だめだ、だめだ、だめた。助けなきゃ。でもどうやって。動け俺の体。頼む動いてくれ。
—「いいか、ルシア。物に魔力を込めるのはただ力任せに魔力を放出すればいいんじゃない。自分の体の一部のように丁寧に優しく魔力を送り出すんだ。そうすれば物だけじゃない。加護を結んでる神獣や、妖精の力を最大限にひきだすことができる。」
「そんなこと言われてもできねーもんはできねーよー。なーハク。」
「はっはっは、はじめはみんなそうだよ。でもある日突然何かがきっかけで感覚をつかめる日がくるさ。」—
「おじさん。俺やるよ。」
まずい、ルシアが吹っ飛ばされた。くそっ。俺が援護しなきゃいけないのに。魔法を連発したせいでほとんど魔力がのこってない。その上体もボロボロだ。このラグエルの手すらも振りほどけない。
「まずはお前からだ。」
ラグエルの手に力が込められていく。息が苦しい。抵抗できない。視界がだんだんぼやける。ルシアにげろ。俺はぼやける視界でルシアを探すが声がでない。
シュン
鋭い音がして視界が光に染まる。
「ゴホッゴホッ。」
その瞬間圧迫されていた首が解放され、地面に体が転がる。何が起こったんだ。
「接続完了。」
ルシアが俺の首を持っていたラグエルの手を切り落とし、俺の前に立っていた。ルシアの剣は蒼い炎と蒼白の雷を纏っている。ハクにも紋様が浮かび上がり異様な魔力を放っている。まさか、ハクと魔力の回路接続をしたのか。うそだろ。こんなのこの歳でできるやつは世界に何人いるんだよ。
「ラグエル、アキを殺したきゃ、先に俺を殺してみろ。」
「人間の分際で私の手を切り落とすとは万死に値する。」
「ああ?てめーが天使のなんだかは知らねーが関係ねぇ。今ここでぶっ殺す。」
「あなたには最大の苦しみと死を与えましょう。」
ラグエルが動くと同時にルシアも動き出す。ラグエルは無数の光の刃を出現され、ルシアに向かって光の刃を放つ。
「ハク!」
すぐさまハクは結界をいくつも展開させ全ての刃を防ぐ。ルシアは一切スピードを落とさずにラグエルへと距離を詰める。ラグエルがルシアに向けて突き出した杖をルシアは体勢を低くしていなし、ラグエルの横を通り過ぎ、ラグエルの背後をとる。
「おせーよ。」
ラグエルが振り向くよりはやく、剣を切り上げ、ラグエルの右の翼を二つもと落とす。蒼の炎と蒼白の雷を伴った刃はラグエルの翼を焼き焦がしながら空をきる。ラグエルは少しバランスを崩しながらも、もう片方の翼を広げてルシアから距離を取る。
「貴様よくも私の翼を。きなさい天魔よ。」
ラグエルが杖のベルを鳴らすと地面に6つの魔法陣が浮かび上がり、天魔が召喚される。天魔は天使が使役する魔獣だ。見た目は様々な動物が醜い姿をしたような見た目をしている。
「やれ、お前たち。あの人間を食い殺せ。」
ラグエルの指示と同時に天魔はルシアに向かって食いかかる。
「炎法 壱式 炎天霹靂」
ルシアが剣を構え地を蹴る。天魔がルシアの目の前5センチの所まで来た時、ルシアの剣が天魔を捉える。火花が散った瞬間に炎が雷のように天魔の体を引き裂く。天魔の返り血が飛び散るよりはやくルシアがラグエルに向かって距離を詰める。
「光刃」
光の破片がより鋭くなりルシアに降り注ぐ。ルシアはスピードを落とすことなく、降り注ぐ破片を剣でいなす。
「炎法 参式 陽炎」
高温の炎を纏ったルシアの剣がラグエルに対して振りかぶられる。咄嗟の判断で杖で攻撃を受けたラグエルだが片手では威力を受け流すには足りない。ラグエルがバランスを崩した瞬間、ルシアは体を回転させ、もう片方のラグエルの手を切り落とす。慌てて飛び上がろうとするラグエルだがもう遅い。ラグエルが動くより早く、ルシアが残りの翼も落としているからだ。炎を纏ったルシアの剣は無駄なくラグエルに対して振るわれる。ルシアの動きはまるで炎を纏い舞を舞っているかのようだ。
「私にこのような仕打ちをしておいてタダで済むと思うなよ、。」
「ああ、肝に銘じておくよ。」
最後のひとたちをふるった瞬間ラグエルの首が地面に落ちる。
俺はラグエルに今出せる最大の速さで斬撃を叩き込む。もうとっくに体は限界を超えている。1度止まれば動けなくなりそうなくらい全身が痛い。腕と翼を失い、体全体に傷をおったラグエルは動きが遅い。俺は最後にありったけの魔力を剣に込め、ラグエルの首に刃を通す。
「はぁ、はぁ、はぁ、。」
ラグエルの首が地面に落ちた瞬間、俺は膝から崩れ落ちる。なんとか剣を地面に突き刺し、倒れるのを防いだがもう限界だ。ハクが心配そうに体をよせてくる。
「ありがとうな、ハク。助かったよ。」
俺がラグエルに勝てたのはハクとの魔力回路の接続が出来たおかげだ。そのおかげで一時的だか身体能力や魔法の威力をあげることができた。
「ルシアー!」
アキに指示され木の影に隠れていたリオ達が俺の名前を呼びながら俺の所まで走ってくる。
「ルシア、大丈夫?」
「ああ、なんとかな。アキは?」
「アキも怪我はしてるけど無事だよ!」
アキの方を見ると、カケルとマナがアキに手を伸ばし体勢を起こしている。
「よかった。」
「あんなのを倒しちゃうなんて、凄いよルシア!」
「運がよかっただけだよ。」
「でもすごいよ!」
「でも、もう限界だ。今は1人じゃ立ち上がることも出来ない。少し休憩を、。」
その瞬間俺たちの横を光が焼き尽くしていく。光の後にはえぐられた地面だけが残る。さっきまで木に囲まれて森の中だったのにまるでそこには何も無く、まるで平原であるかのようだ。
なんだ、何が起こった。光の来た方向を見ると、1人の天使が空に浮いている。聞かなくても分かる。あいつがカマエルだ。ラグエルもかなりのオーラだったがあいつは格が違う。今の俺たちは何も為す術なく狩られる側。そしてあいつは息をするように俺たちを狩ることができる側だ。あいつの視界には俺たちは虫のようにうつっているだろう。そう思わせるほど凶悪なオーラがあいつにはある。それになんださっきの攻撃の威力は。桁外れなんてものじゃないぞ。紛れもない化け物だ。
「ラグエルが帰ってことないからこちらまで見に来たが、まさかこんなガキがラグエルを殺したのか。」
心臓の波打つ速度が早くなる。口から心臓がほんとに出ると思ったのはこれがはじめてだ。全くもって生きた心地がしない。逃げ出したい、そう体が拒絶しているが、やっとの思いで声を振り絞る。
「そうだ。おじさんは、街の人はどうした。」
「そうかそうか。その若さでラグエルを殺すとはなかなかやるようだな。その実力をたたえて特別に質問に答えてやろう。街の人間は私が皆殺しにした。」
それを聞いた瞬間全身に殺意が灯る。恐怖を上回り殺意が込み上げてくる。俺はカマエルをありったけの殺意を込めて睨む。
「ほう。私を前にして、それだけ殺意をむき出しに出来るとは大したものだ。」
カマエルは俺の殺意など微塵も驚異とは感じていないだろう。殺そうと思えば1秒もかからずに俺たちを殺すことも出来るだろう。俺たちがまだ生きているのはカマエルの気まぐれにすぎない。
「ただ残念だ。私はお前たちを殺さなくてはならない。折角の才能なのに勿体ないとは思うが悪く思わないでくれ。」
そういうとカマエルは手を天にかざす。カマエルの手の上に光が集まりはじめる。
「さぁ、終わりだ。」




