2.覚悟
「あらルシアちゃん、おはよう。」
「おはよう!タシアおばさん!」
「今日も朝からトレーニング?えらいわねー!」
「まあ、世界一のハンターめざしてるからね!」
ハンター試験を受けられるようになるのは15歳から、今の俺は13歳だからあと2年。試験までに出来ることは全てしておきたいからこうして毎朝走って昼からは実践形式の訓練をしている。6年前から炎狼などの魔物が街はずれに現れることが増え、それの討伐依頼も請け負うことが増えた。かれこれ6年この生活を続けているからすっかり近所のおばちゃんたちや依頼をしてくる地主さん達と顔なじみになった。勉強はきらいだが少しずつするようになり最近は少しは血統魔法が使えるようになってきた。と言っても人並みかそれより少し下くらいだが。
でも加護魔法はかなり上達してきた。おじさんになぜ血統魔法は苦手なのに加護魔法がここまで使えるのかと言われるくらいだ。そして最近はリオ達に魔法を教えたりもしている。今日も昼からリオ達に魔法を教えることになっている。
「ただいまー!」
「おかえり。」
「あれ、アキは?」
「裏で体幹を鍛えてるよ。そろそろ昼飯にするから読んできてくれないか?」
「わかった。」
台所の横を通りすぎ、裏庭に続くドアをあけるとアキの姿があった。アキも推薦を受けハンターになると決めたようで毎日かかさずトレーニングを行っている。
「おーい、アキそろそろ飯だってよ。」
「ああ、すぐ行くよ。」
「それにしてもこの間まではこーんなにちっちゃかったアキがこんなに成長してお母さん嬉しいわ。」
「何言ってんの。ほら行くよ。」
「おい、俺のボケを無視するなー!」
なんてくだらないことを言いながら席につく。
「お、今日は魚料理かー!」
今日の昼ご飯は魚の切り身にスライスしたレモンが添えられている。そしてテーブルの真ん中にはパンが置かれている。
「ああ、今日は特製のうなぎの切り身を使った料理だ上手いぞー。」
「いただきまーす。」
「いただきます。」
「んー!うま!これさっぱりしてて最高だな。」
「だろ?アキはどうだ?」
「後味が最高。これならいくらでも食べられそうだよ。」
「そうか、それならよかった!」
おじさんは嬉しそうに笑っている。
「おじさんまたワイン飲んでるの?」
「ああ、1杯だけな。最近ワインが美味しくてたまらないんだよ。」
「俺にも1口くれよ。」
「ルシアはまだ子供だからダメだ。大人になったら俺が飲みに連れて行ってやるよ。」
「ちぇー。」
そう言いながら俺は料理を食べ進める。
「ご馳走様ー!」
「相変わらずルシアは食べるのがはやいね。」
「そうか?アキが遅いだけだろ。それにそろそろリオ達が来る時間だし。アキもはやくたべろよ。」
「分かってるよ。」
程なくしてアキが昼ご飯を食べ終わった頃にリオ達がやってきた。
「ルシアー!アキー!今日も魔法教えてー!」
「お、きたか!じゃあ行ってくるー!」
「おう、気をつけてな!」
「いくぞハク!」
「くーん」
そう言うと奥でまるまって寝ていたハクがこっちまで走ってくる。俺たちはいつもの街はずれの山のふもとまで向かうことにした。
「よしじゃあ少し休憩にするか。」
「はぁー。ダメだ。何回やってもアキやルシアみたいに出来ない。」
「私もすぐ魔力が発散して上手くいかない。」
カケルとマナが疲れて木にもたれ掛かりながらそんな会話をしている。
「はじめは俺たちだってそんなもんだったよ。それにカケルやマナはまだ魔法を使い出して間もないんだ。それでこれだけ出来てるのは十分すごいと思うよ。」
とアキが2人を励ましている。実際リオとカケル、マナ、シアは魔法をならい出して間もないのにかなり上達がはやい。
「そうだな。まだお前ら10歳なのに血統魔法の基礎が出来てるのはすごいことだぞ!」
「でもルシアもアキも7歳の頃には血統魔法使えてたじゃん。」
「アキは別にして俺は少ししか使えてなかったけどな。」
「それでもルシアは加護魔法も使えるじゃん!」
「それは俺たちがカケル達より魔法にふれあい始めたのがはやかっただけだよ。」
「ルシアの言う通りだよ。いつ始めたかの違いしかないよ。みんな上達のスピードが早いから心配しなくても大丈夫だよ!」
「そうだぜ、俺は早く強くなってルシアとアキに追いつくし!」
「お、言ったなリオ。それは楽しみだ。」
その瞬間眩い閃光が走った。
一瞬視界を奪われ目を開くと街の方の空に火の玉のようなものが浮かんでいる。
「なんだあれ。」
「火の玉?」
ピュー、バッン。
破裂音がなったと同時にその玉から無数の火の雨が街に降り注ぎ、街が火の海とかす。
「は?何がおこって、、、」
「そんなことはどうでもいい、街にはおじさん達がいるはやく戻るぞ!」
そう言って俺たちは街に向かって駆け出した。
街につくと辺りは火の海だった。建物は燃えて倒壊し、元の街の面影もなかった。めらめら燃え上がる炎の中から1人の人影がこちらに近づいてくる。
「ルシア!アキ!良かった無事で!」
おじさんだ。おじさんは俺たちを見つけるなり。すぐ駆け寄ってきた。
「おじさん。これはいったい、、。」
「天使だ。天使がこの街にきた。」
「な、なんで、。」
「目的は分からない。でもこのままじゃこの街は全壊。街の住民も全滅だ。」
「そんなのどうすれば。」
「逃げろ。お前たちだけで逃げろ。今のお前たちなら山を越えられる。魔物が出ても十分対処できる実力がある。そして隣の町までいくんだ。」
「なんで俺たちだけなんだよ!おじさんも逃げればいいじゃん!」
「だめだ。誰かが足止めしないとすぐに追いつかれる。今も街の人達が総出で天使と戦ってる。お前ら以外の子供は少しの護衛をつけてもう避難している。あとはお前たちだけだ。子供たちだけは何としても逃がす。これがこの街の大人の総意だ。」
「いやだよそんなの!おじさんが戦うなら俺も戦う!」
「だめだ。」
「じゃあおじさんも逃げてよ!」
アキが声をはりあげた。両目には大粒の涙がたまっている。
「少しでも多く時間を稼ぐために俺は逃げられない。」
「なんでだよ!俺が将来1人前のハンターになったら楽させてやるって言っただろ!俺にもおじさんに恩を返させてくれよ!だから、」
「ありがとな。」
そう言っておじさんは俺たち二人を抱きしめる。
「お前達は俺の宝だ。きっと立派なハンターになる。そして多くの人を救ってやるんだ。」
おじさんの抱きしめる力が強くなる。
「ほんとは暇だったはずの引退後の生活はお前たちのおかげで毎日楽しくて幸せだった。いつも俺の飯をうまいって言って食べてくれてありがとう。毎日かけがえのない時間や思い出をありがとう。俺はお前たちに出会えてよかった。でもお前たちの人生はこれからだ。これから辛いこと苦しいことがいっぱいある。でもそれ以上に楽しいこと嬉しいことが待ってる。これからの人生精一杯全力で生きろ!」
俺たちはおじさんの言葉を聞きながらいやでも理解してしまう。おじさんは勝てないと分かっていて、それでも俺たちのために天使と戦うんだと。涙で視界がぼやける。頭では理解しても、それでも否定してしまう。ここで逃げなきゃいけないのに体が動かない。
「それとルシア、お前に渡さなきゃいけないものがある。」
そう言っておじさんは俺に剣を手渡してくる。
「これは?」
「お前の親父からだ。ほんとはもしハンターになったら渡してやってくれって頼まれてたんだが、そうは言ってられない状況になった。」
俺が剣を受け取るなりおじさんは俺とアキを抱きしめた。
「ルシア、アキ、今までありがとう。お前らならきっと世界一のハンターになれる!」
そう言っておじさんは俺たちを離すと最後に精一杯の笑顔で親指を立てて見せた。
「さぁあとはリオたちを連れて逃げろ!任せたぞ!」
そう言っておじさんは火の海の方へ踵を返していく。
「ルシア逃げよう。」
アキが大粒の涙をこぼしながら言う。
「俺たちには力がないから今は逃げることしか出来ない。だからハンターになって強くなっておじさんが言ったようにたくさんの人を救うんだ。」
俺は頷く。
「いくぞ、リオ、カケル、マナ、シア。」
そうして山に向かって全力で走り出す。
もう少しで山の頂上付近まで着きそうなところでリオたちが息を切らしていたため少し休憩することにした。
「おかしい、かなり山の奥に来ているのに全く魔物に出会わない。」
「今は原因を考えても仕方ない。とりあえず生きて逃げ切ることを最優先にしないと。」
「そうだな。」
「リオたちもしっかり休め。もう少しみんなが回復したらまた進むことにする!」
そう言うとみんな頷いてくれた。山の中なのに静かだ。今はみんな黙って下を向いている。俺だっておじさんのことや街のことで下を向いて考え込んでいたい。でもそうはいかない。おじさんにリオたちのことを頼まれた。辛くても前を向かなきゃいけない。アキも同じことを考えているのか、悲しさを表に出さずにみんなを引っ張ってくれている。
「ハク、結界だ!」
ハクに結界を張らせた瞬間光の矢が結界にささる。
「おお、これを防ぐとはお見事。」
手を叩きながら天使が空からおりてくる。紫から水色のグラデーションになった羽が4本。顔は仮面のようなものに覆われ、ベルの着いた杖のようなものを持っている。
「お、お前は、」
「私は天使階級中位主天使のラグエル。我が主のサリエル様に仕えるものだ。」
天使階級には上から順に上位階級の熾天使、智天使、座天使中位階級の主天使、力天使、能天使そして下位階級の権天使、大天使、天使の九階級が存在する。その中でもこのエグエルという天使は中位階級の1番上の主天使。天使と戦ったことはないが俺たちより格上なのはわかる。
「リオ達は木の裏にかくれて!」
アキが指示を出している。
「どうするアキ、相手は確実に俺たちより格上だ。」
「でもやるしかない。ここでこいつに俺たちがやられたら先に避難した子供たちまでやられてほんとに全滅だ。」
「わかった。」
「いやー、こちらまで探してきて良かった。街に子供が一人もいないのは不自然だと思ったよ。」
「街はどうなった。」
「街にはカマエル様がいる。滅ぶのは時間の問題だろう。それに君たち私と戦おうとしているようだが私と君たちでは力の差がありすぎる。素直に死を受け入れた方が苦しまなくてすむ。」
「ずいぶんと舐められたもんだな。悪いけどそれは出来ない。それにお前が格上だろうと関係ない。ここで俺たちがお前をぶっ殺す。」
「なんと愚かな。」
俺はおじさんに貰った剣を鞘からぬき構える。覚悟は決まった。こいつは俺たちが倒す。




