第68話 とんでもないこと
二時間ほどで高橋さんとタマちゃんが、俺たちの待つ談話室にやってきた。
「お待たせ。ちょっと聞くことが多かったので時間がかかってしまってね」
「待たせたの。ぬ? シオンよ、それはブラックサ〇ダーじゃな、わらわにも一つくれんかの」
戻ってきた高橋さんは疲れた顔をしていたけど、タマちゃんはいつも通りだ。シオンのほおばる物に目ざとく気づいて小走りに駆け寄ってくる。
シオンも慣れたもので新しいブラックサ〇ダーを取り出して渡していた。
よく見ると俺以外全員ブラックサ○ダー齧ってる。……ま、まあ俺は齧りかけのう〇い棒を手に持っているからいいんだけどな。
「お疲れ様でした。どうでしたかと聞きたい気もしますが、やめておきます」
「その方がいいだろうね。ここからは大人の仕事だ。今回は少々レイくんにはやらせ過ぎたところもあるからね」
「そうじゃの。これからはおぬしたちにはSランクの探索者になってもらわねばならんのでな、雑事はたかぴーにまかせておけばいいのじゃ」
「そうですね。やらせ過ぎたと言った尻からなんですが、今から遅くとも一年。目標は半年でSランクになってもらいたい」
「「半年!?」」
俺とシオリの声がハモって目があった。だけどシオンとミクは自分には関係ないって感じで駄菓子に夢中だ。
おそらくSランクのになる対象にはシオンは確実に入っているだろうし、ミクもそうなんだろうけど……。
「今のままタマちゃんたちに修行をしてもらい、地道に探索活動していれば、普通に数年でSランクのにはなれるでしょうが……」
「うむ。そうじゃな、今までのゆるい修行であるならばその程度でなれるじゃろ」
……え、手足が飛んで首まで飛んだのに、あれが『ゆるい修行』なんだ……。
「なぜ急がなきゃ駄目なのかって顔してるね」
高橋さんの笑顔が消えて真剣な顔に変わる。それを感じ取ったのか、シオンでさえ動いていた口を止めた。
「今回、御三家を止めたことにも関係があるんだが、世界探索者連盟ワールド エクスプローラ フェデレーションって知ってると思うけど……」
うなずいたのはシオリだけ……俺も知らない。
「ま、まあ探索者ギルドの世界版なんだけどね、御三家はそこの出資者で、三家の出資額を合わせると世界トップなんだよ。約三分の一のね」
へえ……そんなところにも出していたんだ。研究所に出していたのは聞いていたけど、いろんな所にそれもトップになれるほどお金を出していたなんて、素直に凄いなと思う。
「それが今回、実質的にスタンピードを引き起こした聖一くんを始め、亡くなった佐藤家の豪くん、そして今回の凛くんはやりすぎたんだよ」
「じゃな。これが御三家がもみ消せるものであれば問題なかったのじゃが、佐藤家の嫡男が死んだとあってはのう」
「もみ消せても本来はダメなんですけどね。それでまあ今回は政府が御三家の取り潰しに動き始めたのです」
あ、そうか、そんな高額出資者がなくなれば、その探索者連盟の存続もヤバいってことか。
でもそれと俺たちがSランクに早く上がらなきゃ駄目な理由がわからない。
「そこでなんとか三当主の引退ってことで政府をなだめられたんだけど、御三家から要望がでてね……」
「要望?」
「御三家が全日本技術研究所にも出資しているのは知っているよね? それも特別会計としてレイくん、君にも多大な出資額がなされてるんだ」
「……もしかして、出資してるからもっと強くなってSランクになれってことですか? それもパーティーで」
「それなら納得ですわ。凄まじい経済効果を出せるSランク、日本では三パーティーがSランクですが、現在現役のSランクは、パーティーですから、個人のSランクはいませんものね」
「その通りなんですが……。まあ私も現役復帰しようと思っていますので、レイのアパートで管理人をしているエルフィさんも巻き込めば二人。そして君たち四人とがSランクになれば――」
理解するまで時間がかかったけど、ここのところ聖一がやろうとしたようなスタンピードが世界各地で起こっているところから始まったそうだ。
ダンジョンにはランクがあり、ランクごとに入れる探索者ランクが決まっている。
世界中でSランクダンジョンの数は百ヶ所あるのに対して、日本はSランクのダンジョンが六つ。
北海道の旭岳ダンジョン
山梨県の槍ヶ岳ダンジョン
奈良県の大峰山ダンジョン
大阪の天上ヶ岳ダンジョン
愛媛県の天狗岳ダンジョン
鹿児島県の宮之浦岳ダンジョン
国土の割にSランクダンジョンが多いのだ。そして懸念されているのは世界各地で起こっているスタンピードに戻る。
高ランクダンジョンのスタンピードはまだ起こっていないが、起こった時の被害は甚大だと予想されている。
飛行機なら移動で数時間の距離に六つもSランクダンジョンがある日本は相当な危険がはらんでいると言える。
そこで、数多くのSランク探索者を有するインド、中国、アメリカが個人のSランク探索者がいない日本のギルドを合併してしまおうっての話が出ているそうだ。
「一見助けに来てくれるんならありがたいって見方もあるんだけどね、それに合わせて大量の探索者とその家族が移民として日本に入ってくることになる」
「あ、そういうことですのね」
シオリが何かわかったようだけど俺にはさっぱりだ。
「想像通りだと思うよ。その人たちが探索だけするとは限らないからね、当然良い人たちもたくさんいるだろうけど、探索者だからね、気の荒い人は多いんだ」
そうか、治安が悪くなるってことだよな……。
「それに日本の政治に関わるところにまで手を出され、まかり間違って首相にまで上り詰めたとしたら日本が日本でなくなるかもしれない」
「いや、でもさすがにそれは……」
「インドと中国、アメリカの人口は合わせると日本より三十億人以上多いんだよ。あり得ないことはないんだよね、困ったことに」
「じゃから最低六人は欲しいのじゃ。それだけのSランクがおれば格好はつく。……そうでなければ日本の探索者ギルドがよそに合併されてしまうと決まったのでな」
「決まったの!」
「合併までの期限つきで、ね」
出資者がいなくなるかもって話から、とんでもないことを聞かされた。
というか、知らないところでそんなことが進んでいたなんて……やるしかない。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマや★★★★★で応援よろしくお願いいたします。




