第96話 身体強化薬EX
「お断りよ」
フライハイが最初に目を付けたのは一人で座っている高田さんだったけど、あっさりと断っている。
「おいおい嬢ちゃん。俺たちはフライハイってグループ所属でよ、逆らうとと~っても怖い目にあっちゃうけどっ! ……断わる?」
バンと、高田さんが座る席の机を叩き、上から顔を近づけながら睨みつける男。
「ええ。集団で威嚇して、集団での暴力に頼るような弱虫の仲間になんて誰がなりたいと思うの?」
「なんだとクソアマ! 舐めた口聞いてっ――」
男が腕を振り上げ、高田さんの顔目掛けて平手打ちしようとしている。
見てるだけにしようと思ったけど、手を出すなら黙って見てるわけにはいかないな。
席を立ち高田さんの横まで身体強化ダブル発動して移動。
涼しい顔で向かってくる手の軌道を見てる高田さん。だけど俺の移動に気がついたのか、一瞬だけ俺を見て微笑んだ。
あれ? 助けなくても大丈夫なのか? まあここまで来たら助けるんだけどね。
まだスローモーションのように高田さんへ向かってくる男の手首を掴み、骨を折る程度に握り潰す。
ゴキンと手に感触が来たあと手を開き、いい音が出るように軽く叩いておいた。
パチン! うんいい音だ。ここでダブルを解除しておく。
「痛っ! テメエなにしやがんだ!」
「いや、この人を叩こうとしていたから止めただけだよ」
「はあ? 邪魔すんじゃねえ! 男は必要ねえんだよ! この女をわからせたらお前のとこの女ももらってやるからおとなしく待ってやがれ!」
表面の痛みで折れていることに気づいてない? 腕はぶらんと下におろしたままだし、見た目にもわからない。
「……えっと、それはパーティーからの引き抜きですか?」
「わかってんじゃねえか。男のお前は要らねえからよ、まあお駄賃としてボコボコにして素っ裸で放り出してやるよ」
ああ、この人立ちも紅の紳士と同じことをするんだ。もしかするとフライハイの方針なのかもしれないな。
「あの、知ってますか? 引き抜き行為は二ランク降格で、一年間の昇格停止って」
「んなもん関係ねえ! バレなきゃいいんだよ! もしギルドにチクったりしたら……わかってんだろうな、痛い目だけじゃ済まさねえぞ」
俺を睨み付ける男と俺の間でニコニコとことの成り行きを見てる高田さんも、互い度胸あるよね……。
やっぱり助けなくても良かったかもしれないな。でもここまでやっちゃったし、一応最後までやるしかないよな。それに――
「あの、ギルドにチクる前に、そこにギルドの職員がいますよ?」
そういってホワイトボード前のおじさんを指差した。
「あん? おいおっさん! テメエは邪魔だからどっか行ってろ! チクんじゃねえぞ!」
まあ、おじさんだけじゃないんだけどね……ニコニコ顔で見てるのは高田さんだけじゃないし……。
頼むからおとなしく見てるだけにしなよシオン。
そう思ったけど、いつの間にかフレイルも出して『ワクワクなのです』と聞こえてきた……。シオリ、頼んだ。
「いえ。チクるも何も、私は探索者ギルドの職員であり、副市長兼、サブギルドマスターですので、今をもってAランクパーティーであるあなた方はCランクへ。個人のランクも下がりますので、こ了承下さい」
「なんだと! サブマス!? 取り消せ! でないとフライハイの兵隊使ってテメエと、家族もヤっちまうからな!」
そういって折れた手をサブマスだったおじさんに向けたけど、そんなに乱暴に動かしたら……ほら。
「イギッ! イダダダダダダ! なんだよコレェェェェ!」
手首の一番細い部分から先が人差し指を伸ばした状態でブランと床を指している。
「ぶはっ! なーにやってんだお前! 折れてるじゃねえか! アハハハハハ!」
「ギャハハハ! 骨そそそそーってヤツじゃねえか? ヤクばっか食ってるからだろお前! ひいー、腹いてー!」
笑ってるし、全然仲間を心配してないところは違うけど……なんだかデジャブが過ぎるよな、この流れ……。
「君、腕が折れているようだが、大丈夫かい? 添え木くらいならここにもあると思うが必要かい?」
「グギギ、な、なんで俺の腕がぁ……っ! 笑ってんじゃねえ! こんなもん気合いですぐ治る! いいかサブマス! 俺たちは今からここの女を全員連れてくから黙って見とけ!」
話も聞いてない、か。それに何をするんだ?
「おい、お前アレやるつもりか? とチクるって俺たちのことは攻撃すんなよ、あと女もな~」
「あーあ、サブマスも災難だな、コイツ、こうなったらマジで家族までやっちまうだろうからさ」
腕の折れた男が折れていない手でズボンのポケットをまさぐり、手で覆えるくらいの小瓶を取り出し――
パキ――
と、上の細い部分をへし折り、なにか液体のようなものを口に流し込んだ。
「ぷはっ! くぅー、効いてきた! こうなったら手加減できねえから抵抗するんじゃねえぞ? 間違って殺ってしまうからよ」
「きゃー、ひとごろしー。ブハハハハハ!」
「殺ってしまうからよ。キリッ! ってお前それ飲んだとき毎回殺してるだろ! 笑える!」
うん。コイツら想像以上に駄目だな。さっさと黙らせないと、被害が出てしまう。
「サブマスさん、とりあえずこの方たちを取り押さえますんで、手伝ってもらえますか?」
「何ふざけたこと言ってんだ!」
「ええ、構いませんよ。しかし、大丈夫なのですか?」
サブマスさんも結構余裕そうだし、たぶんBランクかAランクくらいの力があるのかもしれない。
でも、手を貸してもらうのは取り押さえた後の拘束だけで十分だ。
「はい。すぐ終わらせますから――ダブル!」
座わったままの高田さんを回り込み、なにか飲んだ男の懐に入り込みアゴの先をコスってやった。




