第90話 ギルティ
「……この子たちの言った通りだな」
「いや、違う! こんなこと言ってねえって!」
いや、言ってないって、多少ノイズはあるけどちゃんと音声も入ってる。
それもセクハラと訴えられてもおかしくないレベルだ。エッチなことをしようとしているのが俺でもわかるくらいに。
ミクにこんなことを十分以上聞かせていたんなら、手足の一本くらい切り飛ばしても良かったかもしれないな。
……いや、今からでも飛ばしておくか……。
「言ってないことはないだろう。明らかにお前たちの声だ。だがこれでお前たちがしつこく絡んでいき、この子の腕を掴み、それを被害者の兄が払ったとわかる」
「だ、だけど、こっちは腕の骨が折られてるんだぞ!」
「たしかにそうだが、どう見ても平手で叩いているだけにしか見えない。それで折れるようなら骨粗しょう症も視野に入れて検査してもらうといい」
「おじさん。この人たちになにか罰とかあるんですか? 無いなら俺が――」
「レイ、手足の一本くらいとか思ってるです? 切り飛ばすより痛い、わたしのフレイルで潰せばいいですよ」
おお、そういえば切り飛ばされるより、叩き潰されたときの方が痛みは上だったな。
フレイル……いや、この前手に入れたオーガのこん棒がいいか?
「こら二人とも。そんなことはしてはいけませんよ。そんなことをしなくてもちゃんと罰はありますから」
「その通りだ。今このものたちに報復したならお前たちも罰を受けることになる。今回の件に関してならなんだったかな?」
「今回の件ですと、ギルドの規定で、探索者パーティーから無理矢理引き抜こうとする行為にあたると思います。それは明確に禁止されている行為です。確かパーティーランクの二ランク降格と一年間の昇格停止でしたわよね?」
「ちょ、ちょっと待て! 二ランクも落とされたら俺たちEランクになるんだぞ! そんなんじゃ生活できねえよ!」
「そうだったか。後でもう一度規定は見るとして、自業自得だ。EランクでもDランクダンジョンまでは入れるから贅沢しなければ十分生活はできるだろう」
そうだ。いつものEランクダンジョンでも生活するだけなら十分だ。モンスターハウスで一人数万は余裕だし、レアやスキルオーブが出ればさらに余裕だろう。
そう思うと思ったよりキツい罰じゃない気がしてきた。
「くそっ! ちょっとナンパしただけだろ! それで二ランクの降格? やってられるか!」
「そ、そうだ! 俺なんか骨折してるんだぞ! この後ポーション代も払わないと駄目なのにどうしてくれんだよ!」
「それよりこの前オーダーメイドした装備の借金返済だよ。その方がヤバくないか? 毎月二百万だぞ? Dランクダンジョンでそんなに稼げないよな?」
「武器があるなら売るしかないだろうな。オーダーメイドだと買い取り値段は下がる可能性は高いがな。よし、紅の……なんだった?」
「紳士だ! 紅の紳士! もうすぐBランクに上がると噂だった紅の紳士だ!」
噂なのかよ!
「ああ、俺は豚の方しか思い浮かばなくてな、すまない」
「……わかればいいんだよ。そっちの方が格段に有名だからな。で?」
「ああ、降格処理するから受け付けまで行くぞ。お前たちは……これからダンジョンか?」
「Aランクダンジョンに行くです!」
「なら一緒に受け付けだな」
おじさんはパソコンを閉じ、モニターの電源を切った。
「よし行くぞ」
揃って受け付けに行き、俺たちはミクのパーティー追加と、Aランクダンジョンの入場許可証を発行してもらい、シャトルバス乗り場までやって来た。
「お兄ちゃん、エンちゃんがさっきの人たちがつけてきてるって言ってるよ」
「はぁ、またリバティたちみたいに絡んでくるのか?」
「ならダンジョンでぶっ飛ばすです? オーガのこん棒でほーむらん?」
「本当に、あの手の人たちは懲りないですよね。せっかく探索者カードを見せてあげたと言うのに」
そうだ。後から絡まれると面倒だから、Aランクですよと教えてあげたのに……。
「とりあえずついて来たいならついて来させればいいさ。どうせAランクダンジョンには入れないんだしさ」
「お兄ちゃんがそれでいいなら私もそれで」
ミクも俺の考えに賛成して間もなくシャトルバスが到着した。
「誰も乗ってないのです」
シオンの言う通り、まだ午前中なので降車するものもおらず、待っている人もまばらで、問題なく座席に座ることができた。
ダンジョンについたのはいいけどさ、やっぱりいるよな。凄い勢いで車がシャトルバスを追い越して行ったから予想してたけど。
……あれ? 二人、あ、そうか、骨の折れた人は病院行ったんだな。
降車して、まっすぐダンジョンに足を進める。すると当然――
「頼む! 今日の件無かったことにしてくれ! お願いだ! そうじゃないと俺たち本当にヤバいんだよ!」
「ナンパしたことは謝る! もう二度とあんたらに近付かないと誓う! 引っ越ししたっていい! だから和解したことにしてくれないか!」
あれ? 想像していたことと違うぞ?




