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ふたり

 疎開先にて


「美鈴、足はどう?」

「お母さん、最近腫れてきて……」


「痛みはあるの?」

「うん、とても痛いの。歩くのも辛いです。」


 母親は心配でたまらなかった。


「先生、美鈴の足はどうですか?」

「お母さん、この前、話したとおりです」


「先生……」

「最初から、わかっていたことですから……」

「わかりました……」


「美鈴、消毒を続けよう。そうしたらよくなるよ」

「うん」


「消毒してよくなれば、明さんに会えるよね?」

「ああ、そうね……」


 疎開先で 


「美鈴、手紙が届いているわよ。吉田さんという人よ」

「お母さん。いつ?」

「今日、届いたよ」

「早く見せて」



藤井美鈴様


たまには美鈴さんから、手紙が来ないかな?

なんてわがままだよね?

手紙がくれば元気な証拠だけど、心配かな。

でも美鈴さんは安産型だから大丈夫か。

また怒られるかな? でも十分スマートだよ


昭和二十年八月五日

吉田 明



どうして今頃、明さん今から手紙を書きますね



吉田 明 様


明さん、ごめんなさい。

手紙が届いてなかったの。

明さんのことは、いつも頭から離れられません。

お元気にされていますか?

私は元気で仕方ありませんよ。

あまりにも元気がありすぎて

明さん、約束しましたよね?

早く帰って来て下さい。

待っています。

また、自転車に乗せてくださいね。

私のことは心配しないでね。


昭和二十年八月十日

 

藤井美鈴



 その日の空襲の夜


「藤井さん、早く、のろのろしているから、いつも迷惑しているんですよ」

「お母さん、いつもごめんなさい」

「大丈夫よ。お母さんがかかえていくから」


「困るよ。藤井さん」


「お母さん、足は治るの?」

「うん……」

「痛みはどう?」 

「痛いです」


「美鈴、早く防空壕へ避難するのよ」

「はい」


「藤井さん。さっきも言ったけど困るよ。先生から聞いたけど、足は治らないんだってな」

「ええ、お母さん。そうなの?」

「ちがうわよ……美鈴」


「お母さん、本当の事を言わなきゃ、命は大丈夫らしいけど、いずれは足を切断しないといけないのだろう。みんなの足手まといなんだよ。本当に困るよ」

「お母さん……」


どうすればいいの? 

明さん……




出撃前の星空の下で


美鈴さん。本当は行きたくないよ。

君のもとへ帰りたい。

翼がいくつでもほしい。

若さゆえに、時の流れに飲まれ、志願してしまったことを後悔しているよ。

なぜ志願してしまったのだろうか。

約束しておきながら、君は時を待てなかったね。

でも君を守るために出撃するよ。

いつか、君の安らかな眠りに会いにいくよ

必ず会いにいくよ



明さん、私の傷はいいの。

でも明さんに会うことが、できないかもしれません。

それがなにより悲しいです。

ごめんなさい。

本当に御免なさい。

あれだけ約束したのに……

でも足は化膿しつづけて、どうなるのかわかりません。

明さん、もう歩けないかもしれません。

弱音をはいたら駄目ですよね。

こんな事をいったら明さんに怒られますね。


あの広場で結婚式をあげる。そういいました。

だから、明さんを待ち続けます。必ず待っていますね。



美鈴さん、最初に出会ったのは、あの広場だったね

君は財布を落としたけど、もしかしたら

僕の事も、もう落としているんじゃないかな……

そんな事をいうなよ……

お弁当にオレンジジュースはないよな……

かわいかったな……



明さん、明さんが、スマートな人がいいって言ったでしょ。

本当に私もスマートになりたくて、あれから、少しずつね

ご飯を減らしていったの。

少しはスマートになってあげたのに。

知覧で会った時に気づかなかったのは失礼よ。

でも、明さんは今よりスマートになったら、だめよ。

美鈴よりスマートになったら怒るからね。

お弁当もいっぱい作るから。

食べてね、食べない時は無理やり食べさせてあげるから

でも今は無理やりにでも、食べさせてあげたい。

お腹すいてるでしょ

どうか、無事でいてくださいね


 明の突撃の日がやってきた。


「吉田少尉、出撃前の心境はどうか?」

「はい、この国のために命をささげたいと思っております」

「散りゆく者として、何か言い残しておきたいことはないか?」


「はい、できるならば、私には婚約者がおります。約束の場所で会おうと

伝えていただけないでしょうか」


「わかった散りゆく君ゆえに必ず約束を守ろう」

「ありがとうございます」


「整備は整いました」


美鈴さん……

今から僕は……

ごめんね

でも、必ず会いにいくから

そういえば、美鈴さんと会った時は雪の舞う中で

公園で美鈴さんが財布を落としていたんだよね

そして、二人して拾ったよね。

幸せだった。只々、幸せだったよ。

美鈴さんのあの時の笑顔を持っていくよ

なぜか、夏なのに、あの時のように雪が舞うのが見えるんだ。

それじゃ……


吉田少尉、万歳~

万歳~

万歳~



敵空母発見


いよいよ、怖いよ

美鈴さん

会いたいよ

美鈴さん

美鈴さん……




美鈴さん、そういえば、小遣いをためて自転車を買ったよ———

そうなんですね。高かったのではないですか?———

ああ、しばらく、小遣いは無しさ。でも、新品でかっこいいだろう。後ろに乗ってみない?———

いいのですか、ぜひ。素敵な自転車ですね———


そうだろう。大丈夫? ちゃんと乗れる? ほら———

ありがとうございます———

いいよ———

風が爽やかですね———

頬を優しくさせるね———

はい———

 

美鈴さんと一緒に乗りたかったんだ。一度ね———

明さん身長も高いですしハンサムですから、あまり女性と仲良くしないでください———

美鈴さんこそ、綺麗だから、今日は今からどうする?

———


どこか連れていってください———

いいよ、どこに行く?———

そうですね。海を見に行きたいです———

いいね、そうしよう———

はい。行きたいです———



よいしょ、よいしょ———

キャ、揺れます———

大丈夫だよ。着いたよ。ほら、白い波がきれいだね———

本当にそうですね———


まるで僕たちを歓迎しているみたいだね。浜辺を走ってみない———

いいですね———

あそこの松の木まで、どちらが早く着くか競争しよう———

はい。でも、明さんは足が速いから———

大丈夫だよ。手加減してあげるから———

本当ですか?

———

ああ———


楽しかったね。幸せだよ————




「偵察機より報告いたします。第二十九振武隊は、全機銃撃により……」

「わかった、ご苦労。よくやった君たち 」


「吉田少尉率いる、見事でした」


「わかった」




 空に地獄の舞いが降り注いでいた。


「空襲だ。みんな早く。藤井さん何を、もたもたしてる」

「申し訳ありません……」

「もう、みんなに迷惑がかかるんだ。どうかしてくれ。これ以上、一緒に行動できない」


「どういう事ですか?」


「美鈴さんは、防空壕で過ごしてくれ」

「夫もいませんし、食べるものがないじゃないですか」


「残念だが、これ以上はみんなの迷惑になるんだ。足手まといになるんだよ」


「それでは私もここにいます」

「食べるものは一切ないのだぞ」

「ここは暗闇で、この子だけおいていく訳にはいけません……」


「申し訳ないがそういうことだ……」


「美鈴、大丈夫?」


「お母さんだいじょうぶよ。お母さんだけでも帰って……」

「ううん、美鈴のそばにいるから、ここは暗いでしょ。一人じゃ怖いでしょ」


「お母さん…‥」


「美鈴、足は痛くない?」


「大丈夫よ、お母さん。お話しよう」

「いいよ……」

「お母さん、私が小さいころは、どんな子供だったの?」

「おてんばさん、だったよ」


「本当……」


「ああ、そうだよ。生まれた時は色白でね。健康な子だったよ」


「お母さん、こんな話をしていたら大丈夫よ。また、空襲があったら、みんな来るでしょ」

「そうね……」


「空襲も最近は多いからね。親切な人は食べものを持ってきてくれるよ」

「そうよね……」


「お母さん歌を歌っていい?」

「ああいいよ。美鈴はあいかわらず上手ね……」



「お母さん。朝がきたね」

「美鈴おなかがすかない?」


「大丈夫よ。もう少しやせないといけないから、ちょうどいいかしら」

「だれか好きな人がいるのかい」


「はい、お母さんには内緒にしていたけど、婚約者がいるの、明さんという人

、同級生で身長が高くてハンサムなの」


「そうかい」


「婚約旅行にも行ったの……その明さんに、その明さんに……スマートになったほうがいいよ、そう言われたの 。だから、ご飯食べない方がいいのよ……」


「そうかい」



「お母さん、朝がきたのね……お母さん少しだけ足が痛いの、薬はないのかしら」


「誰かが持ってきてくれるから、だいじょうぶよ」




「明さん、今どこにいるの……」







「お母さん、朝がきたね……お母さん、傷がとても痛いの……お腹もすいたけど……

お水が飲みたいの……」




「そうね……」




「お母さん……もう朝なのかな……

光がさしこむはずだけど……

見えないよ」



「お母さん、お母さん。どうしたの……? 返事して、どうしたの」



また朝なのかな

お母さん


お母さん

お水が飲みたい……


お母さん

足がとても痛いの…………

お医者さんはいないかしら





今日は光が見えた


朝かな……


ヒタ・ヒタ・ヒタ


お母さん

お水があるよ……

どうして、返事しないの……




おかあさん


スマートになったみたい


明さんにほめられるかしら





お母 さん 目の 前にね 明さん が いる の・・・・・・




明さん 助けにきて く れ  た の




あ り  が  と  う



明 さ ん




あ き ら さ  ん





明さん、私の事をどう思っていますか———

さっき言ったろ。結婚しよう。じゃあ、美鈴さんは———

もちろんです———

ここの広場でさ。子供たちといっしょに遊びたいな———

いいですね———

必ずその日がくるよ。だから必ず会おうね———

はい———



最終話 想いの結晶へ

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