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想いは風になって

鹿児島県の知覧町(現南九州市)では当時、女学生が特攻兵の身の回りのお世話をしていました。

少しわかりづらいので、説明させていただきます。

 美鈴と両親は疎開先へ向かった。


「美鈴、ほら、長野に着いたわよ。ここが疎開先よ。しばらくの間、過ごしましょう」

「そうね。やっと着いたね」


「おや、美鈴ちゃんじゃない」

「叔母さん」

「よく、ここまで無事に来れてよかったね」

「はい」


「この村は空襲がないから、心配しなくていいからね」

「はい。よろしくお願いします」

「美鈴ちゃんも大きくなったのね」

「はい」


「美鈴ちゃん、近くにお花畑があるから、行ってごらん」

「はい、行ってみます」




美鈴さん、そういえば、小遣いをためて自転車を買ったよ———




まあ、花がいっぱい

この花を明さんの元へ届けられたらいいのに

せめて。明さん、手紙を書きますね……

読んでくださいね……



吉田 明 様


お元気にされていますか

私は元気もりもりです

明さんお腹はすいていませんか

私のお弁当を送りたいです

でも、そういう訳にはいきませんね

いつも明さんの事を考えています

できることなら、明さんの元へ自転車で行って

お会いしたいくらいです

私は怪我が無く食欲もありますよ

必ず生きて帰ってきてください

届くことを信じています……


藤井美鈴




自転車は高かったのではないですか?———




美鈴さん……どうしているかな……元気かな……

僕は今、知覧で特別攻撃の訓練を受けているよ

お弁当が食べたいよ

オレンジジュースと一緒にね

可愛いよな

オレンジジュースとお弁当が合う訳ないだろう……

ここまで自転車で来れる訳がないだろう……

元気にしているかな

そういえば、スマートになると気にしていたけど、十分スマートだよ

言い過ぎたな……

どうして、僕は特別攻撃隊に志願してしまったのだろうか

いくら、この国を守るとしても

馬鹿だった。馬鹿だったよ。

美鈴さん

あれだけ約束したのに、なぜ……

訓練も辛さもだけど、美鈴さんに会いたい。

僕は今、知覧で突撃を待っているんだ……



美鈴さん。後ろに乗ってみない?———



 当時、知覧の女学生は特攻兵のお世話などをしていた。


「吉田さん」

「どうしたの? 君たちは女学生じゃないか」

「はい、私達は特攻兵のお世話をしています」

「そうなんだね。ありがとう」


「暑くはないですか」

「ああ、暑いね」


「うちわを持ってきました」

「ありがとう」

「私達が交代であおいであげます」

「ありがとう。悪いね」

「いえ、うれしいです。吉田さん素敵だから」

「そんなことないよ」


「吉田さんは女学生の憧れの人です」

「ありがとう、そういってもらえるとうれしいよ」

「困ったらなんでも言ってください。すぐに飛んできますから」



いいのですか、是非。素敵な自転車ですね———



「じゃあ、兵舎の中を片付けてくれるかな? この下着洗ってもらえるかな?」

「キャー、いいですよ。私がします」

「いえ私よ」


美鈴さん……女学生の蕾みたいな美しさが、僕の胸に切なく響くよ

僕が風邪をひいた時の事を思い出すよ

あの頃に戻りたい

でも、この国を守る

すなわち、美鈴さんを守る

そう思ったけど

会えないじゃないか……



そうだろう。大丈夫? ちゃんと乗れる? ほら———



「おい、吉田、手紙が届いているぞ。藤井美鈴と書いてあるぞ。お前の婚約者か?」

「はい、そうです」

「貴様も手紙を書いてあげればどうだ」

「もちろんです」


藤井 美鈴 様


こんにちは

元気にしていますか?

僕も元気もりもりです

美鈴さんの事は忘れたことはありません

今は鹿児島の知覧という町で訓練をしています。

暑い日が続いています

いいことがあります。近くにある女学校の

女学生が身の回りの世話をしてくれますよ

なかには可愛い子もいます

こういうことを書いたら以前みたいに怒るかな……


吉田 明



美鈴さんと一緒に乗りたかったんだ。一度ね———



その日の夜


夜空を眺めていると

美鈴さんを思い出すな

あの星がふたりの星だね

そう言ったよな

今は一人の星じゃないか

美鈴さんがいないと二人の星になれないよ


三日月のままじゃないか。

僕の心は欠けたままだよ


今日はどうかしている

どうしてこんなにセンチになってる

会いたい

あの場所で会えるのか

ごめんね、美鈴さん

俺から言っていて

もう帰れないんだよ

せめて心だけでも帰る

約束するよ



どこか連れていってください———



「吉田少尉」

「はい、大村大尉殿」


「君の突撃する日が決まったよ」

「ありがとうございます」


「君の率いる部隊は八月十二日に出撃だ」

「わかりました」


「大日本帝国の一人として、覚悟はできているだろうな」

「もちろんです……」

「そうだ。その意気だ。花を咲かせてくれ」

「わかりました……」


美鈴さん

八月十二日に出撃が決まったよ

でも、必ず、広場で会おう

この身が果てても心が戻っていくから



まるで僕達を歓迎しているみたいだね。浜辺を走ってみない———



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