悲しみの序章
いよいよ、戦争が本土決戦へと激化していきます。
赤紙が届いたことを明は美鈴に告げます。
二人の運命はこれからどうなるのか!
今日はエピソードタイトル「夕焼けの空模様」からスタートしています。
夕日と戦火が重なった———
ヒュー ヒュー ヒュー ボワー ガタガタガタ
「美鈴、早く、爆弾が落ちてくるわよ。防空壕へ逃げるのよ」
「はい」
「もう大丈夫よ」
「お母さん、最近空襲が多いね」
「そうね。美鈴」
「お母さん、怖い」
「大丈夫よ。防空壕があるから」
「はい」
戦局の雄たけびが聞こえた———
「お母さん、戦争は大丈夫かな」
「大丈夫よ。大日本帝国が負ける訳ないでしょ」
「そうだといいけど……」
「美鈴、そういうことは絶対に人前で言ったらだめよ。みんなこの戦争に勝つと信じているから。絶対だめよ」
悲しみが時を押しつぶそうとしていた———
「おはよう……」
「おはようございます。明さん。久しぶりですね」
「そうだね。空襲が多かったからね」
「怖くてたまりません」
「大丈夫だよ。それより、美鈴さん本当に結婚してくれるの?」
「もう、何回も言わせないでください。恥ずかしいから」
「ごめんね、ありがとう」
二人を時が置き去りにして———
「明さんそういえば、少し痩せてスマートになったでしょ?」
「う~ん、前よりふくよかかな」
「ええ、もう、そんなこと言ったら、結婚してあげない」
「ああ、嘘に決まっているよ」
「でも、少しスマートにならないといけないな」
「あ……大丈夫だよ。それ以上スマートになる必要はないよ」
「そうですか……?」
「だって、子供を十人つくってほしいから。安産型がいいだろ? スマートだと大変だしね」
忍び寄る影が吠えた———
「本当ですか……?」
「ああ」
「でも、明さんスマートな女性が通ったら、目線がいくのに気づいてるのよ」
「いや……そんなことないよ」
「嘘ばっかり」
「美鈴さんも十分スマートだよ」
「本当? でも悩んでいるの。あんなにスマートになれたらなって、明さんスマートになれたら、褒めてくれる……?」
「もちろんさ。今よりもっときれいかもね」
涙の色が染まった———
「それより、美鈴さん……」
「どうしたの? 明さん、元気がないけど」
「赤紙がきたよ……」
「赤紙とはどういう意味ですか?」
「赤紙も知らないのか? 召集令状だよ。戦場にて活躍してきなさい。簡単にいうとそういう意味だよ……」
「え、戦争に参加するのですか?」
「ああ、簡単にいうとそのようなことだ」
「ええ、駄目です……」
「大丈夫だよ。戦場で活躍して必ず帰ってくるよ」
「はい。待っています……必ず帰ってきてくださいね。約束ですよ」
「……」
血に染まる大地の叫び———
「一週間後に出征するんだ」
「やっぱり、戦争にいくのですか……」
「御国のためにだろう、僕も日本男児だからさ……」
「明さん、その前に婚約旅行の広場で会って話しませんか?」
「そうだね」
悲しみの連なり———
「美鈴さん……」
「明さん……」
「遅かったじゃないか」
「ごめんなさい。でも、明さんが早いでしょ」
「まあ、自転車で来たからね」
「明さん、戦争は長くなりそうですか」
「早く終わるさ……」
「そうだといいですけど……母から疎開しないといけないよと言われて、不安です」
「大丈夫だよ……」
深い海からの溢れる雫———
「もし……」
「どうしました? 明さん」
「ここで会おう。約束だよ。必ずだよ」
「わかりました」
「ここで、結婚式をあげよう。年は関係ないよ」
「はい」
「必ずだよ」
「わかりました」
「ここの広場でさ。子供たちといっしょに遊びたいな」
「いいですね」
「必ずその日がくるよ。だから必ず会おうね」
「はい」
月がシルクに染まる———
「今日は温かいし、ここで寝転んで、ふたりで過ごそう」
「はい」
「気持ちがいいね」
「そうですね。芝生の上はいいですね」
「それでは美鈴さん……」
「明さん怪我だけはされないでください」
「ああ、大丈夫だよ。見送りはここでいいから」
「はい」
「美鈴さん……」
「明さん……必ず帰ってきてくださいね」
「ああ…‥」
波音の戯れが悲しく響く———




