Ep4
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「それで、どんな依頼なんだ?」
まさかの探偵業初の依頼者は、金髪碧眼のフェリシアだった。
対面のソファに腰掛けたまま、薬指の指輪型ネモログを操作し、空中にディスプレイを浮かび上がらせる。
「私ね、この街で情報屋兼技術屋として、そこそこ名が通ってるの」
俺は煙草をくわえたまま、黙って話を聞く。
「その中で、ちょっと気になるモノを見つけたから。この謎を追ってもらうのが、今回の依頼」
「ほう。……で、その“気になるモノ”ってのは?」
「まずは、見て」
さっき見ていた報道番組で流れていた、“あの”映像だ。
錯乱した女、困惑する男、そして引き千切られた腕。
何度見ても現実味のないそれ。
捜査機関は「フェイク」と結論づけていた。
……だが。
「続きがあるのよ」
フェリシアの声と共に、映像は止まらず、続いた。
『……あぁ。君のものだったなら、しょうがないね……』
激痛にもがいていたはずの男が、急に動きを止め、そう呟いて立ち上がる。
その顔には、怒りも苦痛もなく――
まるで「奪っていたものを返した」ような、ばつの悪い笑みが浮かんでいた。
「……どうなってんだ、こいつらは」
出来の悪い、自己満足たっぷりの作品を見せられたような不快感と不満が混ざった気分になり、言葉と共に煙草を灰皿に押し付ける。
「捜査機関はこれを作り物だと発表してるけど、これは“ホンモノ”のやつよ」
自信満々に話し始めるフェリシア。
どうやら、何かを掴んでいるらしいその話ぶりに、俺は新しい煙草をくわえる形で先を促す。
「映像の2人は学生カップルのローラとダン」
「直前まで、普通のデートしていたカップルで、この後も“普通”にデートしていたわ」
自分でも奇妙なことを言っているのがわかっているのか、眉根を寄せながら、ディスプレイに映る防犯カメラ映像を見ながら話すフェリシア。
「男の千切れた腕を持ちながら、手を繋ぐのは普通じゃないだろ……」
千切った彼氏の腕を、まるでフランスパンのように抱えて。
残っている手を繋いで笑い合うカップルなんて、どこをどう見ても普通じゃない。
「デートの場所は、街の外れに広がる戦没慰霊碑がある《英霊丘公園》ね。私たちも昔行ったよね」
「ん? あ、あぁ」
今は異常カップルのデート場所なんて関係ないとも思い、若干の気まずさと罪悪感を感じつつも、曖昧な返しをする俺に、不機嫌そうに口を尖らせるフェリシア。
「それよりも、どっから手をつける?」
そんなフェリシアをあえて無視して、あくまで探偵として謎を解くためのきっかけを掴みにいくために考える。
英霊丘公園に行ったとしても、特に何もないだろう。
この2人の様子や、直接話ができるのが一番いいが――
「……2人の同棲部屋、突き止めてあるよ」
根負けしたフェリシアが、拗ねながらぼそぼそと教えてくれる。
俺は煙草の煙を鼻から吐き出してから、フェリシアの金髪をわざと少し乱暴に撫で、「行くぞ」と言って出る準備をする。
上はそのままのTシャツで、パンツをいつものカーゴパンツに変えてブーツを履く。
右太腿の外側にホルスターで銃を装備してから、扉の前で待つフェリシアと共に、街へと繰り出した。
⸻
二人の部屋までは事務所から20分程度。
フェリシアと横並びになって、異形の人々であふれるメインストリートを歩く。
人通りの多さから、俺はフェリシアの前に出て、自然と左手を後ろへと伸ばした。
その指を、彼女はぎゅっと握る。
そして小さな声で、問うてきた。
「ねぇ……待たせたことを怒るのか、帰ってきたことを喜ぶのか、わからないの」
悲痛な悲しみを帯びたその声は、普通なら雑踏にかき消される。
だが、俺の大きな耳には、はっきり届いていた。
……それでも俺は、聞こえていないふりをして人波をかき分け、歩き続けた。
会話らしい会話もなく、30分ほどかかって、目的の――ローラとダンが住まう部屋へと辿り着く。
一般的なアパートだった。
フェリシアに部屋番号を教えてもらい、シンプルなノブが付いたドアの前に立った時――
俺の直感が、警戒を告げた。
それは、微かに鼻を掠めた血の臭いのせいかもしれない。
隣に立つフェリシアと、無言で頷き合い、ゆっくりとドアを開ける。
抑えられていた濃厚な血の臭いが、ドアの隙間から溢れてきたのだった。
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