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プロローグ

見つけて頂きありがとうございます。

是非、最後までお読みいただければ幸いです。

私は、やっと取り返すことができた“彼の腕”を、ぎゅっと抱きしめた。


まだ仄かに温もりが残っている。でも、これは私のモノだから。


あぁ――彼から溢れた血も、臓物も、


ぜんぶ、私のモノだったわ。


ちゃんと、かき集めないと……。


 


暗い部屋の中。


引き千切られた無惨な遺体の中で――


女は、柔らかく微笑んでいた。





『義体技術の一般化から100周年を迎える本年――千変万化の街・フラクタでは、記念イベントが各地で予定されています』


『“Go future!Revolution Body”を合言葉に――フラクタ自治政府でした』


 


程よい風が、顔を撫でる。


心地良く、じっとしていると自然と瞼が重くなるような陽射しを浴びながら、俺は赤茶けた荒野に伸びるハイウェイを、古い型の愛車で駆けていた。


目的地である千変万化の街――“フラクタ”から発信される電波を拾うラジオを聞きながら、煙草を咥え、紫煙をくゆらせる。


その煙はすぐ、開け放たれた窓から後方へと流れていった。


 


フラクタまでは、そう遠くない。


流れる煙の向こうに広がる景色を眺めながら、アクセルを踏み込む。


小型核融合エンジンが唸りを上げた。


 

 


「訪問目的は?」


 


あれから1時間ほど走れば、フラクタへの入場ゲートが見えてきた。


機械式スキャナーによる調査と、職員による審査がセットになった施設で、


俺は黒い制服を着た若い職員に、狭い室内で机越しに向き合って詰問されていた。


 


「里帰りだよ。俺はフラクタ生まれだ」


 


なるべく柔和に見えるよう笑顔を作って答えたが、職員の目は鋭くなるばかりだった。


 


「“ネモログ”の提示を」


 


俺は、灰色の手帳型ネモログを放る。


それは机の上を滑り、開いた瞬間、空中にホログラムが展開され、パーソナルデータと異頭の人型画像が浮かび上がる。


 


その頭部は、灰色の毛に覆われた獣の顔。


錆色の瞳、伸びた鼻面、牙が生え揃った口――それが、俺の顔だ。


 


職員が、ホログラム上のデータを確認しながら読み上げる。


 


「オオカミ。身長198cm。男性」


「退役軍人か。色々な場所を行っているが、目的は?」


 


無数に記録された来訪歴への質問に、俺は肩をすくめて答えた。


 


「別に。ただの放浪。旅だよ」


 


「この街では何を?」


 


「経験を活かして、探偵でもやろうかと思ってる」


 


俺の返答に満足したのか、職員はネモログを返却し、入場許可を出す。


 


車に乗り込んだ俺は、煙草を咥え、警告音と共に開く門を潜った。


 


 


街中は、まさに“千変万化”の名に恥じない光景だった。


 


発達した義体技術と再生医療が融合した“リボ”技術によって、人は“身体”という器から解放されていた。


この街は特にその傾向が強く、車窓から見える人々は、誰一人として同じ姿をしていなかった。


 


獣の耳や尻尾を生やす男女。二足歩行のドラゴン。


全身を機械化した者や、手足も顔も持たない液状の存在。


千変万化の模様を体現する異形の人々が、街を彩っていた。


 


そして、彼らを内包する街並みもまた異様だった。


整然と並ぶ高層ビル群の外壁は、半透明のヴァーチャル看板に覆われ、上空では大小様々なドローンが広告を映しながら飛び交っている。


 


 


十年ぶりに帰ってきた街は、もはや俺の記憶の中にある街じゃなかった。


そこには、“同じ姿”や“生まれたままの姿”を唾棄するような、


歪な活気に満ちた異形の都市が広がっていた。


 


俺は放浪の末、この異形街で、探偵をしようと考えている。

お読み頂き、ありがとうございます。

次回も、よろしくお願いします。

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