あーかい部! 23話 風邪
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
「やっほー元気?……って、最近集まり悪くない?」
「あ、白ちゃん先生。」
「きはだは風邪で休みだ。」
「あら……。」
今日はあさぎ、ひいろ、白ちゃん先生の3人でお送りします。
「この時期に風邪なんて、エアコンでもつけっぱなしで寝ちゃったのかしら?」
「昨日、傘持たずに出かけて雨に降られたそうだ。」
「昨日って日曜日よね?雨なんて降ってたかしら……。」
「朝、ちょっとの間だけ降ってたみたいですよ。」
「朝?……あらほんと。」
白ちゃん先生が昨日、日曜日の天気をスマホで調べたようだ。
「きはだちゃんもついてないわね……。」
「最近晴れ続きだったのにな。」
「あれ、雨降ってたのめっちゃ朝だ……。」
「そうなのか?」
白ちゃん先生のスマホを覗き込んだあさぎがぼやき、つられてひいろも白ちゃん先生のスマホを覗いた。
「朝の6〜7時頃……きはだちゃん、早起きなのね。」
「そんな朝早くに外で何してたんだ?きはだのやつ。」
「ジョギングとか?」
・・・・・・。
「「「ないな(ぁ)(わね)……。」」」
「やっぱり今からでもお見舞い行くか?」
「いや、きはだから『ぜぇぇええっったい!!来るな!!!』って言われてるしなぁ……。」
「そんなに嫌がってるの……?」
「はい。」
あさぎがトークアプリ『PINE』を起動し、きはだとの個別チャットの画面を表示した。
「あら、ほんとね。」
「まあ、家族がいる家に友達がお見舞いに来るのってちょっと気まずいもんな。」
「今日はそっとしておいてあげましょう。」
「ですね。」
あさぎはPINEの画面をそっと閉じた。
「風邪ひいたときはセンチメンタルになるものだと思っていたが、きはだは案外1人を満喫しているのかもしれないな。」
「風邪ひいてお休みのときって、なんだか特別感あるよね。」
「それは症状が軽い時の話でしょ……。」
「白ちゃんは風邪ひくといつも重症なのか?」
「まあね……。視界はグニャグニャだし、立ち上がるのも苦労するわごはんの味もわからないわで最悪よ。」
「うわぁ……。」
「その、お大事にな……。」
「風邪ひいたときに心配してちょうだい。」
「にしても、ごはんの味がわからないのは辛いな。」
「そこ?」
「お見舞いにちょっと良いもの貰っても味がわからないのは……辛いよね。」
「ねえ、そこなの?」
「逆に考えれば、苦手な野菜なんかも食べられるようになる訳ではあるんだが……、」
「そういう生存戦略なのかも。」
「そんなん考えたこともなかったわ……。」
「養護教諭なのにか?」
「それ関係ある?」
「想像力が足りないですよ養護教諭。」
「煽るな煽るな。」
「……味がわからないならさ、風邪ひいたときにデスソースとか頬張れたりしちゃうのかな?」
「ねえ、養護教諭ってそんな動画配信者みたいな仕事だったっけ?」
「これが『想像力』だよ、白久澄河養護教諭。」
「転職しようかな。」
「そうだ、きはだにやってもらお。」
「止まんねえな想像力。」
「もう止まらんよ。溢れ出した想像力は。」
「ひいろちゃんは誰目線なのよ……。」
ひいろと白ちゃん先生が話している傍らで、あさぎはきはだとのビデオ通話を始めていた。
『いやぁ〜もの好きだねぇ、満身創痍のきはだちゃんを拝みたいだなんて。』
「きはだだって暇してたくせに。」
「きはだの声か?」
「今話してるの?」
きはだの電子音声に気づいたひいろと白ちゃん先生が机に置かれたあさぎのスマホを覗いた。
『おぉ、みんな勢揃いだねぇ。』
画面の向こうのきはだはパジャマ姿だが、存外ケロッとしていた。
「ごめんねきはだちゃん、身体はもう大丈夫?」
『まさかわたしを心配する人間がこの世にまだいたとは……流石だねぇ、白久澄河養護教諭。』
「あさぎちゃん。」
「はい?」
「…………想像力を解き放て。」
「「ちょっ、白ちゃん(先生)www」」
きはだの冗談混じりの回答に全快を悟った白ちゃん先生は、あさぎにデスソース実験の指示を出した。
『「想像力」?』
しかし、部室での会話を知らないきはだだけは訳がわからない様子だった。
「ええっと、きはだ?会話ついでにお願いなんだけど、キッチンからあるものを持ってきてくれるかな?」
『デスソースならもうない。』
「「「え……!?」」」
「なんで知ってるんだ?」
『もう試した……!』
「ええぇ……。」
『普通に辛かった!!』
画面越しのきはだは空になったデスソースの小瓶を見せつけてきた。
「……!?」
「「なんで実験済みなの(んだよ)www」」
『……で?「想像力」がなんだって、白久澄河養護教諭ぅ?』
動揺する白ちゃん先生の様子から『想像力』の正体を察したきはだは、先ほどにもまして煽ってきた。
「……知ってるもんっ!辛味は味覚じゃなくて痛覚で感じるものだから、風邪ひいたって普通に辛いのなんて知ってるもんっ!2人に付き合っただけだもん……!」
煽られて涙目になる白ちゃん先生だったが、画面の向こうで勝ち誇るきはだの唇は少し腫れ、白ちゃん先生同様、目に涙を溜めていた。
あーかい部!(4)
あさぎ:投稿完了。
きはだ:まってました
ひいろ:めちゃくちゃ元気だったな
きはだ:ここだけの話、月曜の朝にはほぼ全快
白ちゃん:今度から傘はちゃんと持っていくのよ?
きはだ:いやはやお耳が痛うございますなぁ
ひいろ:日曜の朝から何してたんだ?
きはだ:ランニング
あさぎ:ダウト
ひいろ:ダウト
白ちゃん:嘘は良くないわね
きはだ:oh…
白ちゃん:まあでもあんまりプライベートを詮索するのも良くないわね
あさぎ:これが人の家まで乗り込んできた人の台詞かぁ……
白ちゃん:乗り込んだのはお隣さん家でしょ?
ひいろ:乗り込んだことが問題なんだよなぁ
きはだ:犯人はみんなそう言うんですよ
あさぎ:買収された2人も2人だからね?
ひいろ:いやはやお耳が痛うございますなぁ
きはだ:あさぎちゃんのせいでお耳が痛くなったからもう1日休むかぁ
ひいろ:ワタシも明日は休むと伝えてくれ、耳が痛くて敵わん
あさぎ:参ったなぁ……私は片腹痛いから明日休まなきゃなのに
白ちゃん:お前ら明日全員訪問看護するぞ?
白ちゃん:お見舞いの品はデスソースでいいな
あさぎ:登校します
ひいろ:登校で
きはだ:これは投降