努力と愛の結晶
フランスの、ジェヴォーダン地方のとある森で、うさぎが一匹住んでいた。この森には恐るべきオオカミが多数生息しており、うさぎには住みにくいところであった。
うさぎは番がいなかった。そもそもうさぎが住み着かぬ場所。他のうさぎがいる訳もなかった。1人寂しく暮らしているうさぎはある日、巣の近くにオオカミがいるのに気が付いた。恐る恐る近づいてみると、それが赤子であることに気がついた。微かに人間の香りがするその赤子は、きっとそれが香るが故に親に捨てられたのであろうことが分かる。うさぎは考えた。これを育てれば寂しくない。オオカミたちに狙われることも無くなるやもしれぬ。うさぎはオオカミの赤子を育てることにした。
そうして、四苦八苦しながら、しかし確実に愛情を注ぎオオカミを育てていった。
付近の木にはフクロウの巣があった。フクロウはその歪な親子を陰ながら応援し、近くに餌となる生き物がいなければ連れてくるようにした。
そんな数々の努力の末、オオカミは立派な大人になったのであった。
とある夜。オオカミは腹が減ったのでねぐらから這い出た。うさぎは起きない。近くに飯がないか探すが見当たらない。フクロウは自分の食事を取りに行っている。
オオカミはだんだん腹が立ってきた。なぜ飯の用意がないのか。いつでも飯を用意するのがお前の仕事ではないのかと。
そして怒りのままうさぎに噛み付いた。うさぎとオオカミの体格差は大きかった。うさぎはすぐに肉塊と化した。
戻ってきたフクロウはオオカミが母であるうさぎに食らいついているのを目撃した。そして甲高い声で叫んだ。「それはお前を育てた者だ。それすらも分からなくなったのか」
オオカミから返事がかえってくることはなく、次はフクロウをとばかりに駆け出した。だが、オオカミにはフクロウを狩ることは出来なかった。
フクロウは毎日のように自分の飯を狩りに行くが、フクロウ仕留めうさぎが集めていた獲物を食らうことしかしなかったオオカミは狩りというものを知らなかった。
その晩からというもの、フクロウはいつものように仕留めた獲物を巣から数分歩いた範囲に用意した。だが、そんなことを知らぬオオカミは巣の外へ這い出てはすこしウロウロしては戻るということを繰り返すばかり。ろくに食事にありつけぬまま、オオカミは餓死してしまった。
全てを見守っていたフクロウは食べやすいように細切れにされた爬虫類用の冷凍ラットを啄みつつ嘆いた。
「溺愛し気の向くまま尽くしてやれば、子は自分で生きていく力が伸びぬ。だからといって尽くさず厳しくすれば儚く散っていく。生命を継ぐというのは、難儀なものだ。」
「そうだね。ミントを見習えよな。」
ぼうぼうと燃え盛る暖炉の火を端目にフクロウを撫でる。
そうして、1日が終わろうとしていた。
「ミントって何?」